君と僕らの英雄譚 その5
ルーチェを連れて地下倉庫へとたどり着いた。
「じゃあ、よろしくね」
そう言って僕が扉を開けると、冷気が扉から漏れ出す。寒いな。
「さむっ!」
隣でルーチェが驚いている。凛とした顔つきが少し慌てているようで珍しく、可愛らしかった。
「荷物を馬車に乗せてくれるだけでいいからね。馬車にはもう氷魔法の魔法陣は書いてあるから」
「魔法陣?」
魔法陣とは特定の魔法の効力が込められた複雑な印のようなものだ。魔力を込めると効力を発揮する。魔法と違って、魔法を唱える人物がいなくても自動的に魔法が持続する点で利用される。
「そうそう、魔法陣。力仕事は苦手でも魔法は得意だからね」
「魔法かぁ、私には無縁だなぁ」
そう言いながら地下室の奥へと行き、ミルクやチーズの入った木箱を運んでいく。
暗い地下倉庫の天井には光魔法の魔法陣があり、地下倉庫を明るく照らす。
「なぁ、アモール。私が来る前まではどうやってこの荷物をはこんでたんだ?」
「魔法を使うこともあるけど、大体は自力だったかな。お陰で何時間もかかっちゃうけど」
結構大変なのだ。倉庫に貯蔵するためや、取りだすために運ぶのは。
「あ、あと精霊。精霊に手伝ってもらったりしてるかな」
精霊、大気中の魔力を生成する存在。美しい自然や、美しい心の持ち主の周りに多く集まるという。幸い、ラペの村は王国の辺境の地にあり、美しい自然を荒らすものも少ないので、精霊は集まりやすい。
「力持ちの精霊に手伝ってもらうことが多いかな」
「アモールは精霊が見えるのか?」
「うん。見えるよ。この地下室にはあんまり見えないけど、さっきの牧場にならたくさん、ね」
「私は全然見えないんだが」
「こればっかりは生まれつきだからね。あ、でも魔術師の方が見えやすいっていう話はあるみたいだよ」
「魔法が使えない私にはみえないと。やっぱり不便だな」
「魔力っていうのは、魔法を使うだけが利用方法じゃないからそんなに悲観しなくても…」
「そうなのか?」
「これは、魔力の根本からの話になるんだけどね。話すと長くなるから、とりあえず荷物を運んでしまおう」
「そうだな、じゃあがんばるか!」
時々無駄話をしながら荷物を運んでいく。僕がひとりでするよりも何倍も早く終わった。
運んで1時間ぐらいだろうか。お陰で体を冷やさなくて良さそうだ。氷魔法の魔法陣が仕込まれた馬車を日陰におき、マリアの元へと向かう。精霊の話を早くしてくれと言わんばかりのルーチェの表情に負けてしまい、魔法学に通じているマリアに説明を求めようと、マリアの元へと二人で向かった。
続く




