君と僕らの英雄譚その3
時は戻り、現在に戻る。
「さぁ、そろそろ今日の仕事をしよう。僕は食器の片付けがあるから、先に厩舎の方へ行ってもらえるかな」
そういいながら僕は、ルーチェに大きめの紙を渡す。
「おう、この紙に動物の健康状態を記録してけばいいんだな。任せろ」
「おねがいね」
そう言って、裏の牧場に出るドアを潜るルーチェを見送った。
朝の気持ちのいい陽光がルーチェを祝福するように差し、青く美しい平野が待ち受ける。少し先には木の柵が周りを囲むように見える。今日も良い天気であり、快晴。少し高い丘から気持ちのいい風が吹き抜ける。
「みんなおはよう!今日は私が来たぞ!」
威勢の良い声とともに厩舎のドアが開かれる。
小さな厩舎ではあるが、手入れが行き届いており、持ち主の性格がよく表れているようだ。
「こいつもよし、こいつもよし…。うん、みんないい感じだな。残るはアイツだけか…」
牛三頭、馬一頭、羊ニ頭の記録を終え、《アイツ》と呼ばれる動物を迎えに厩舎を後にする。《アイツ》と呼ばれる動物は、厩舎の影で休んでいた。
「アイツだけは、本当に私に懐かないからなぁ…。起こさないように…。と」
青い鱗に覆われた大きな体に、金色の一本の角。大きな口に、立派な後ろ足。走ることだけを極めたような体つきで、前足は退化し、小さい。二足歩行で前傾姿勢の、クーサウルスという草食性の《魔物》の一種である。
「初めて見た時は、魔物を飼っていると知って驚いたが、魔物使い(なんていう職もあるからなぁ…。まぁ、コイツに慣れた私も私なのだが」
一人でつぶやいていると、その声に気付いたのか、眼をカッと開き、一目散に遠くへ逃げてしまった。
「ああっ…。また逃げられた…!」
「ルーチェ〜。どうー?終わったかい?」
片付けが済んだのか、ドアからアモールが牧場へとやって来た。
その瞬間、遠くにいたはずのクーサウルスが走ってアモールの方へ寄ってくる。
「あはは、くすぐったいよ、クー。もう検診は終わったかい?」
「アモール、そいつだけまだなんだ。また逃げられてな…。悪いがやってもらえないか」
「全然大丈夫だけど、どうしてこんなにルーチェだけを避けるんだろうね?」
「こいつの上に乗れたらさぞかし気持ちいいんだろうなぁ…」
「いつか、乗らせてもらえる時が来るよ。大丈夫大丈夫」
あどけなく笑う。きっとこの子もまだ慣れてないだけなんだよね。
「アモール様ぁぁぁぁぁぁぁ!おはようございますう!」
美しい声が朝の牧場に響く。この声は聞き覚えのある声だ。
「げ!またあいつか!」
ルーチェが苦そうな顔をする。まだ苦手なのかな。僕はその声の持ち主を迎えるため、1度牧場を抜けた。僕がいなくなった牧場で、ルーチェが呟く。
「なぁ、クー。なんで私には懐かないんだ?」
プイっと顔を背け、まただるそうに横になってしまった。
「むう、私だって傷付くときは傷付くんだぞ…」
少し経って、
「マリア、毎日毎日ありがとうね。本当に助かるよ」
「いえいえ、アモール様のためですもの。火の中水の中ですわ!」
美しいプラチナブロンドの長い髪を、光陽に煌めかせながら一人の女性が、アモールと楽しそうに話しながらやってくるのだった。
続く




