君と僕らの英雄譚 その10
動かなくなった大蜘蛛は月明りに照らされ、異形を僕に焼き付ける。これほどまでの合成種を生み出すのにいくらの命が犠牲になるのだろう。誰が、何の目的で。僕は怒りや恨みよりも、悲しさが収まらない。僕は罪滅ぼしのような、同情のような、そんなあいまいな気持ちで大蜘蛛を土魔法で土に還した。
「…戻ろう」
森を抜ける一本道を出口まで向かっているといくらか遠くに馬車を止めてルーチェが待っていてくれた。
「アモール!平気か!?」
「あ、うん。平気だよ、だいじょうぶさ」
「いやでも…お前の体、ズタボロじゃないか…」
気が付かなかった。きっと打ち付けられた時のものだろう。麻の服は破れ、腰には大きな打撃痕が残っていた。
「とりあえずお前は馬車で休んでいろ。私が代わりになるから」
「あはは、どうしたんだい。いつもに増して優しいじゃないか」
笑みがこぼれた。
「けが人に無茶させるわけにはいかないだけだ!!」
ルーチェの顔が紅潮する。
「そういうことかい。じゃあ甘えようかな。有難う。街道をまっすぐ行けばきっとつくだろうから」
「…あぁ、まかせろ」
僕は荷台に乗り込み積み荷の薬草と回復魔法で、痛みと跡が早く消えるよう眠ることにした。
そうして。
「…おい。おーーい!アモール!見えてきたぞ!」
呼ぶ声に目を覚ました僕は荷台の隙間から景色を覗き込んだ。いつの間にか朝になり、奥の山々から流れる清流を囲むように町が栄えている。
「ついたね…!清流の町メルーノ!」
続く




