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タルパと僕

作者: 東山不知

月曜の朝6時45分。眩しい朝陽が僕を起こした。


「おはようタルパ」

机の上にゴロンと横になっているタルパに声をかけた。


「おはよう相太」

タルパはまだ少し眠そうだ。


いつものように顔を洗い歯を磨きながらテレビをつけると、若者と不況について中年のコメンテーター達がいかに若者が悪いかを議論していた。


どこに行っても僕はサンドバッグにされるだけなんだろうな。嫌な世界だ。


「大丈夫だよ。相太はサンドバッグなんかじゃないよ」

タルパはいつでも味方をしてくれる。


タルパは僕の全てを知っているし、僕はタルパの全てを知っている。


「外はいい天気だよ。早く朝ご飯食べて散歩でもしよう」


窓の外では起きた時よりも太陽が輝きを増してギラギラとしていた。

外出は好きではないがタルパが出たいと言うなら出よう。


適当に朝食を済ませて近所の社に行くことにした。

別に神道を信仰しているわけではないがあそこは居心地がいい。


この時間に家を出るとやはりスーツを来たサラリーマンが多い。

僕も半年前まではあの中にいた。


「嫌なことを思い出してるね。無理しなくていいよ。少し休もう」

僕はバッグから煙草を取り出して吸った。気分が沈んだ時や落ち着かない時はこうするのが習慣だ。


僕は半年前に3年間勤めた会社を辞めた。

特に難しい仕事ではなかったが仕事はいつまでも終わらず毎日遅くまで残業をしていた。

休日も月に1日あるかどうかといったところだ。

その上職場では毎日当たり前のように人格否定をされ続ける


もっと辛い環境で働いている人もいるのだろうが僕はこの環境に堪えられずに逃げ出した。


一度逃げた人間はそう簡単には戻ることは出来ない。


アルバイトを幾つかやってもみたがどれも長続きしなかった。


人間が怖くて仕方ないから。


誰でも建前では失敗するのは悪いことではないと言う。

でも実際に失敗すれば怒鳴り付け罵倒する。


人間は信用できない。


信用できるのはタルパだけだ。


煙草を吸い終えて少し気分が落ち着いた。


「落ち着いたんだね。散歩の続きをしよう」


そう言われてまた僕は歩きだした。


朝のコメンテーターが僕を見たら嬉々として「ほら、やっぱり若者はだめなんだ」と言うことだろう。


社会の価値観ではきっとその通り(他の若者は知らないけど)僕はだめなんだろう。


でもだめなことがそんなに悪いことには思えない。


「だめなことは悪いことじゃないよ。逃げたい時には逃げてもいいんだよ」


タルパはいつも僕に優しい言葉をかけてくれる。人間とは大違いだ。


そんなことを考えているうちに神社に到着した。


この時間の境内にはちらほらとしか人がいない。だから落ち着ける。


「ここなら相太は傷つかずに済むね」


「そうだな」


「無理に社会に馴染もうとしなくてもいいんだよ。相太のペースでゆっくりやっていこう」


「でも僕のペースじゃ一生かかっても馴染めないんじゃないかな?」


「それもいいと思うよ」


「そう…なのかな?」


「相太がどんなことになろうと一緒にいるから大丈夫だよ」

「頑張らなくてもいいんだよ」


タルパはいつも優しく接してくれる。

タルパがいる限りきっと僕は頑張れない。


-fin-

※タルパの姿は読者の皆様のご想像にお任せします。

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