図書館国家の王女3
「国家予算がぁぁぁぁぁ!!」
温室に響き渡る悲鳴。発信源は王女様。
ロータスは泣き叫びながらウィルの袖を掴む。
魔石はピンからキリまで、様々な値段の者がある。鉱山で採れるもの、海底で採れるもの、魔獣からとれるものなど。状態の良し悪しや大きさ、希少性、効力などから相場が決められて取り引きされている。
アリスが粉々にした魔石は小さいが、最高に魔力を溜め込み、効率が良い部類である。また、魔力が空になると黒く、魔力を溜め込むとその魔力の系統の色になる。この国の騎士団で所有していたなら壊しても新しく魔獣狩ってこいそれでチャラだと言われる程度のモノであるが、レインウォールズ王国は小国である。また、国が魔石などに使える費用などほとんどない。
いたい。かなりいたい。
それこそ泣き喚いて地べたを転がるくらいにはいたい。
「あ......ロータス、代わりの魔石はこちらで用意しよう」
「ありがとうございますぅぅぅ!!」
「あの......ごめんなさい」
何が原因かは分からなかったが、自分のせいであることは理解できた。まだ放心状態のロータスを見て、自分がしでかしたコトの大きさを感じたアリスが頭を下げると、ウィルは笑いながら頭を撫でた。
「ただの魔力飽和だから気にしないで」
魔力が飽和したせいで魔石が耐えきれなくなって壊れたのだと、ウィルは説明した。
「予備の魔石を持ってきてくれ」
執事は「なつかしいですなあ」と笑いながら邸に入っていった。
「ウィルフィール様も幼い頃はよく意図せず研究材料を生産なさっていましたものね」
メイド長が布袋に粉々の魔石を詰める。これは長兄の研究材料になるらしく、後々持って行くという。
落ち込んだ二人を落ち着かせていると、執事と庭師がロータスが持ってきた魔石相当のものの他に、握り拳大ほどの魔石と、人間の頭より少し小さいくらいの魔石を運んできた。
「魔石ってこんな大きさのもあるんだ」
色とりどりの魔石を前にアリスは声を漏らした。
「ええ。それぞれのいわくはまた今度語ることにいたしましょう」
お茶目な執事はそう言ってウインクすると、ウィルの後ろに下がった。
「アリス、これ全部に一斉に魔力を送るんだ」
「全部、一斉に?」
「きっと、そのくらいで丁度良い」
アリスは言われたとおり、魔石に手をかざした。手に魔力を集めて魔石に降り注ぐイメージだ。さっきとは違い、魔石が壊れる気配はない。
一番早くに光ったのはロータスが持ってきたような小さな魔石で、それを見たウィルが「もういいよ」と言った。だが、アリスには一度集めた魔力を止める方法が解らない。
気づいたウィルは「こっち」と一番大きな魔石を指差す。
一度集めた魔力を魔石に全て注いだ。強く光ったのとほぼ同時に集めた魔力はなくなった。足から力が抜けてメイド長に支えてもらわなかったら倒れていた。
差し出された果実水を飲んで息をつくと、魔石が視界に入る。
真っ黒いままだった。
「あれ......? なんで?」
ちゃんと魔力注いだよ? と不安げにウィルを見つめると、ウィルも不思議そうな顔をしていた。
触ってみると微かにあたたかく、握り締めると魔力の流れを感じるので確かに魔力を込めた後であることがわかる。魔石を光にかざしてみると、魔力で染めた魔石と同じように透明に光った。
「魔力は充分溜められた。光にかざせば魔力が有る無しは分かるだろう」
ウィルはまだ放心状態から完全には抜けきっていないロータスに魔石を手渡すと、契約の準備をした。若干こちらが有利になるように。
かくして第三王子アリスは図書館国家の才女と名高い王女を家庭教師にした。