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逆‼


「ここからがウィルの……ハイディッヒ公爵家の領土なのね!! 森が素敵ね!!」


あれは『森』――拷問所。


アリスは窓の外からの景色を目を輝かせながら眺めている。

まるで遊園地に遊びに来た子供のような顔。

アリスとは正反対に、ウィルは憂鬱そうな顔をしていた。


「どうかしたの、ウィル?」


アリスが訝しそうな表情をする。


「いや……何でもない」


咄嗟にそう答えたが、ウィルの頭の中には気がかりなことばかりがあった。


――どうして国王様はアリスを私に預けたのだろうか……

無意識にため息をついた。


アリスとウィルとルドを乗せた馬車は活気溢れる街中に入っていった。





「わぁ、人がたくさん!!」


アリスは城から出たことがないから初めてなのだろう。

出店を見るたびに、「あれは何?」とか「これは?」とか興味津々だ。

ウィルはそれらを細かく教えながら、思った。

――まさか、国王様はアリスに社会勉強をさせるつもりなのでは……?

間違いではなさそうだ。

アリスが社会を知ることで自信にも繋がり、人見知りを直す気なのか!?


「ここから先は歩く」


馬車の運転手に伝え、三人で街中を歩く事にした。


歩きながら、ウィルは細々とアリスの質問に答えた。

ふと、民衆の視線がアリスに集まっていることに気づく。

首を傾げていると、小さな男の子達がこちら側へ走って寄ってきた。


「ウィル様~」

「どうした?」


ウィルの親友の弟達だった。

最年長の男の子が台本を読むみたいな棒読みで尋ねた。


「そのお姉ちゃんはウィル様のお嫁さんなの?」

「っ!!」


激しく反応したのは大衆の視線を怖がってウィルの袖を掴んでいたアリスだった。


「私が……ウィルの……っ!!」


何か感銘を受けているらしい。


「いや、違うから」


ウィルが疲れたような苦笑いで否定した。

お嫁さんって……


「あなた達! ウィル様に向かって何を言ってるの!?」


弟達を追いかけて来たのは彼の姉のメリルだった。


メリルはウィルと同い年で親友。

ふわふわとした茶色の長い髪がゆったりと揺れて、芳しい花の匂いがした。


「メリル姉ちゃん! ウィル様が彼女さん連れてきてるよ~」


男の子が声をあげた。


「違うって!」


即座にウィルは否定した。


「彼女さんじゃないの? ……じゃあ、遊びなの?」


別の子が尋ねる。


「ウィル様達は何して遊ぶの~?」

「ボクは鬼ごっこがいい!」

「オレはかくれんぼがいい!」

「え~お前はダメだよ! 魔法使うじゃん」


子供達は騒ぎ始める。


「もう! あっちに行って遊んできなさい!」


兄弟の一番年上であるメリルが言うと、弟達は素直に従った。


息を弾ませながら、メリルはウィルと視線を合わせた。


「ウィル様、すみませんね。街の人達が弟達を使ってそちらのお嬢様の素性を探ろうとしていましたの」


ウィルはくすりと笑った。


「メリルも知りたくて走って来たんだろ?」


図星だった。

メリルは照れ笑いをしながら、「バレました?」と頬を赤らめた。

ウィルは「ここだけの話だ」と前置きして、メリルの耳に囁いた。


「この子はこの国の第三王子だ」


メリルは聞いた瞬間に目を大きく見開き、アリスとウィルを見比べていた。

そして急に「逆ですよね!」と大きな声を出して笑った。


アリスは何故か、不満そうにウィルとメリルを見つめていた。


「あぁ、アリス。この子は雑貨店の娘さんでメリルっていうんだ。いい子だから仲良く――」


アリスの視線に気づいたウィルがメリルを紹介するが、そっぽを向いてしまった。

わけが分からない。

だが、気をとりなおして。


「皆にも伝えたいから広場に行こうか」


ウィルが言うと、街の皆が広場に集まってくれた。


「今日から私、ウィルフィール=ハイディッヒはこの子の教育係となった。人見知りを治して社会勉強もさせたいと思う。皆も協力してくれ」


ウィルの声は魔力で拡張され、全ての民に届いた。

アリスは今まで生きてきてこんなに大勢の人間を見たこともなく、囲まれたこともないので、小さくなって震えていた。

ウィルはちらりと後ろのアリスを見たが、思った通り硬直していたので、何か一言言わせるのはやめにした。


「アリス、大丈夫だよ。皆優しい人達ばかりだから」


ウィルが微笑むと、アリスは初めてウィルの袖を放し、群衆を眺めた。

色んな髪と瞳の色をした人達がいる。

似ている人はいるが一人一人が違っていて、全く同じ人間は一人もいなかった。

呼吸の深さも、瞬きの瞬間も、動きも皆バラバラだ。

気迫と言うか、気合いと言うか……

アリスは大勢の人間の力を感じた。

大勢の人間がそこに`いる´ということが何だか不思議な事に思えた。





ハイディッヒ家の屋敷。


アリスに簡単に使用人達の紹介をし、屋敷内を案内していたらもう暗くなってしまった。


アリスの荷物は全てウィルの部屋に運ばれた。つまり相部屋状態。

アリスがそう希望したし、国王もそれが良いと言ったからである。

ウィルには断る理由もなかったので今、この状態。


「ウィルフィール様、これ……大丈夫なんですか……?」


ルドが心配そうにウィルに尋ねた。

アリスは風呂に入っているため、部屋にはウィルとルドしかいない。


「ん?」


「いや……だから、その……」


ウィルは少し考えた末に、何かに思い当たった。


「ルドさんに後でちゃんとハイディッヒ家の使用人を紹介するよ。悪い奴はいないから安心して――」


ルドは言いかけたウィルに首を横に振った。


「違います。私が心配するのは貴女様です……」


ウィルには何の事か分からない。

新しい職場に慣れることが出来ないかもしれないことを心配していたのではなかったのか?と首を捻る。


「この部屋……ベッドが一つしかありませんよ……」


そう。

この部屋はただのウィルの自室である。

ベッドは大人三人が寝られる程の広さがあるが、本来は一人部屋なのである。


「それがどうしたの?」


ウィルはルドの発言の意図が掴めず困惑する。


「だだだだだだ・か・ら!! ベッドが一つしかないんですよ!? 二人で夜にどこで寝るつもりですか!?」


ウィルはさらに首を傾げた。


「ベッドなら広いし、二人で寝ても十分じゃ――」


「何を言っているのですか!! 貴女様は女の子ですよ!」


「うん。そうだけど……?」


だから何だというのだろうか?


「アリス様は……『男性』なのですよ……」


ウィルは分からない、というような顔をしていた。


「では……貴女様の人生のために……はっきり申し上げます!」


ルドが冷や汗をかきながら深呼吸を繰り返した。

ウィルはまだ理解できていない顔をしていた。

ルドが唾を飲み込んだ。

また、深呼吸をする。


「まかり間違って貴女様がアリス様のお子を身籠ってしまわれたら……」


ルドはあんなに心の準備を繰り返したのに最後は尻すぼみになってしまう。

「淑女にこんなことを言ってしまうなんて……」という後悔もあった。


ウィルは子供について少し考えた後、ふっと笑った。


「アリスには無理だろ(笑)」


ご丁寧に語尾にカッコワライとつける。


「……」


「もし子ができたら私が責任とって結婚するよ!」


ドヤ顔で決めたウィルに、ルドは「逆‼ それ逆だから‼」と全身全霊でツッコんだ。


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