扉は開かれた
国王はアリスにかけられた呪いをとく方法を探していた。
「第三王子が乙女だなんて……我は今は亡き妃に顔向けが出来ない!!」
国王はハイディッヒ公爵に呪いの詳細と解除法を調べることを依頼した。
ハイディッヒ公爵家といえば王国一の魔力量を持つ魔術師が輩出される名門。
また、彼らは好奇心旺盛でスリルを愛する。
「私が行きます!!」
答えたのは今年で8歳になったハイディッヒ公爵家の二番目。
長女、ウィルフィールである。
彼女は父親の……あの女好きで見目麗しい、強大な魔力を持った父親の能力を受け継いでいた。
魔力だけでなく、性格も……
お陰でアリスもウィルフィールに心奪われた。
「ウィルフィールよ、お前に長い間会えなくなると知ったら、アリスは悲しむぞ。どうするつもり――」
「ご安心下さい、国王様。手は打ちます」
ウィルフィールは父親そっくりの笑顔を浮かべた。
「――ということで、何年か会えないから」
アリスは事情を理解するうちに悲しくなって、泣き出してしまった。
沈黙の空間にアリスの嗚咽だけが聞こえる。
ふと、ウィルが立ち上がった。
「行かないでっ!!」
アリスは泣きながらウィルの服を掴んだ。
ウィルがいなくなるのは嫌だ、と。
強く。
でも、ウィルの邪魔物にはなりたくない、と。
弱く。
ウィルは跪きながら微笑み、アリスの額にキスをした。
「帰ったら結婚しよう。
何年かかっても必ず僕は君の元へ帰ってくるよ。あの日初めて出会った奇跡を信じるなら、僕達は運命に愛されてるんだから。
……愛してるよ、僕の可愛い人」
廊下で聞き耳をたてていたルドと国王は半ば呆れていた。
真面目な顔をして、こんな台詞が吐けるなんて……
いくらアリスでも騙されな――
「嬉しいわ!!貴女の事、信じて私、待ってる!!」
…………マジで?
しかもこの台詞は一体……?
「美しい君の為に……」
ウィルはそっとアリスの唇を奪った。
廊下の二人は部屋から出てきたウィルを引き留めた。
「何だ、今の……?」
「私の父が愛人が家に押し掛けてきた時によく使っていた手です。
父はあの台詞と涙に加えて媚薬も使っていたそうですが」
最低だな、男として……いや、人として……
ウィルは『魔女の学園』へ調査しに行くことになった。
『魔女の学園』――一流の魔女を育てる学校。
この世の魔女の全てはこの学校の卒業生である。
そこでは魔術の他に呪いの分野も学ぶそうで。
アリスに呪いをかけて飛んでいった魔女はベアという。
はっきり言って落ちこぼれ。
高い魔力量を持ってはいるが、馬鹿。
使い方を知らなかった。
卒業試験は、人間の望みを叶えてくること……。
アリスに呪いをかけたのは自分の魔法を拒否されたから。
「魔女は自分の卒業がかかっていたからあんなにも必死じゃったのだな?」
なんということでしょう。
アリスは魔女が馬鹿だったせいで呪いをかけられたのだ。
「それで?もうその呪いが解けているというのは――」
ウィルは深いため息をついた。
「詳細をお話しする前に……国王様、女装癖があって人見知りでドMで並み一通りでない変態がこの国の王子だとしたらどうですか……?」
どんどん声が小さくなってしまう。
「いや……王子だとしたらっていうか、同じ人として悲しくなるわ」
ウィルは更に深いため息をついた。
沈黙が場を支配する。
「ん……?」
意を決したようにウィルは口を開いた。
「国王様……魔女の魔法は解き方が複雑で非常に困ったものですが、魔女の呪いを解くのは至って簡単なのです」
国王はうんうんと頷いた。
自分でも様々な文献で調べたのだろう。
だが、魔法、呪いの解き方の具体的な答えは載っていなかった。
「呪いの解き方は……初恋の相手と…………キスをすることです」
過去を振り返ってみよう。
アリスの部屋。
中にいるのはアリスとウィルだけ。
廊下で聞き耳をたてるのは国王とルド。
ウィルは父親から受け継いだ手法でアリスを泣き止ませ、その唇を……
「待て!それなら8歳の頃から呪いは解けて……」
ご名答。
ウィルはクラッカーでも鳴らしたい気持ちになった。
……と、国王が何かに気づいた。
「ならば、八年間のアリスの乙女化は……」
「はい……恐らくただの趣味です…………」
つまり、魔女のおかげでアリス君は新たな扉を開けました……