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アリスの初恋

アリスは走っていた。

兄達から逃げるためである。


「はぁ……はぁ……」


ドレスが足にまとわりついて動きにくい。

でも、脱いで男性用の服に着替える気はない。

ドレスが可愛いから。

リボンやフリルがたくさんついていて、フワフワで綺麗で……

アリスは可愛くて綺麗なものが大好きなのだ。


「アリスちゃ~ん!どこ行ったの~?」

「お兄ちゃんの可愛いアリス~?」


二人の少年の声が響いた。

アリスはビクッと肩を震わせ、静かにその場を去った。


アリスの二人の兄らはよくアリスで遊ぶ。

父は兄弟同士でじゃれついているだけだと思っているらしいが、違う。

アリスの兄であるコアとライドは言うなれば捕食者、アリスは被食者。

追いかけ回すのは日常茶飯事。

キスされたり、身体を触られたり。

身体は男でも、心は乙女なのだから止めてほしいと思っているのに……


「アリスちゃん見~つけた!」


後ろを振り返ると、兄らの姿。

二人とも赤毛に黄金色の瞳を持っているが、微妙に色が違っている。

第一王子のコアは燃える炎ような真っ赤な赤毛。

第二王子のライドはコアよりの赤毛よりは少しまろやかな、ストロベリー色をした赤毛。

武力を魔女に願ったせいか、コアは逞しい体つきをしていた。

以前、狩りで熊に襲われかけた時、素手で捻り潰したとか。

ライドは見るからに優男。

まだ少年だというのにあらゆる世代にモテモテだそうだ。

二人とも綺麗な容姿をしている。

これがアリスにとっては大問題なのだ。

近づかれると動けなくなる。

これも魔女の呪いのせい……?


「今日もお兄ちゃん達がいっぱい可愛がってあげよう!」

「アリスが嬉しがってるよ、兄さん」

「ホントだ!泣く程嬉しいんだ~」

「はりきっちゃうなぁ」


違う!!

怖い。

口を押さえられてるから声を出せない。

兄達は微笑みながらアリスの髪を撫でた。

ちなみに、三兄弟でアリスだけが黒髪。

兄二人は父親似だが、アリスは母親似だった。


アリスは身体を押さえられながら足をばたつかせて抵抗する。

このまま汚される!?と思って瞳を閉じた瞬間。


風を感じた。


身体が軽い……?


見ると、身体を押さえつけていた兄達はいなくなっていた。

少し離れた場所に兄達は吹き飛ばされていた。

その側にはアリスと同い年くらいの少年……?


「王子様、訓練をサボって何をしていらっしゃる?理由によってはなかったことにしてさしあげます」


輝く金色の髪を後ろで適当に一つに纏めて、王子二人を見下すような碧眼で見つめていた。


「「いや……アリスが……可愛かったから……」」


二人がそう答えると、その子は黒い笑みを浮かべた。


「却下です。訓練場に貴殿方を飛ばします」

「「えっ!?ちょっ――」」


兄達は飛ばされた。

後に残ったアリスは、何が起きたか理解できないでいた。

その子はアリスの側に跪き、手を差し出した。


「大丈夫ですか?可愛らしい、お嬢さん」


アリスの頬が朱に染まった。

おずおずと手を出す。

人見知りのアリスは家族と使用人以外とは口を聞いたことがない。

でも、勇気を持って声を出した。


「助けていただいてありがとう……私はアリス……あの…………あなたは?」


「ウィルフィール=ハイディッヒ。ウィルとお呼びください、アリス」


優しい人だ!とアリスは心の中で叫んでいた。

さっきから心臓がバクバクしている。

私……ウィルのこと……好きだ!!

ウィルはアリスをお姫様抱っこして城まで連れていってくれた。


「じゃあね!」


ウィルはそれだけ言って帰った。

アリスの鼓動はまだ速いままだった。

ウィルの姿が見えなくなった後にルドに尋ねた。


「ウィルって何者なの……?」


金髪に碧眼、魔法使い、兄達への態度――

どこかの高貴な王子様のような少年。


「ウィルフィール様は本当に王子様みたいな方です。公爵家のご令嬢ではありますが――」

「女の子!?」


男の子だと思っていた。

そうか……女の子か……

アリスは誰にも聞こえないくらいの大きさでそっと呟いた。

「友達になれるかな……?」




魔女に呪いをかけられてから一年。

アリスは7歳になった。

呪いをかけられる前は女の子らしいところといえば、母親譲りの顔だけだったのに……

今は中身も女の子である。

人見知りで貴族の子供達と遊ぶこともなく、同い年の友人もいなかった。

親しくする人間は家族と侍女のルドだけ。

でも、心の奥底では同い年の友人がほしいと思っていたし、独りでいるのが好きではなかった。

だから、あの子――ウィルと友達になれたら、と思った。

とはいえ一人で城の外に出たことのないアリスはウィルが城に遊びにくるのをただひたすら待つしかないのだった。


ウィルが城に遊びに来る日は朝から忙しい。

ドレスを選んで髪をとく。

短髪だがアリスとしてはこだわりがあるのだ。

丁度、準備が出来たのを見計らったかのようなタイミングでいつもウィルはドアをノックする。

初対面で見た男の子用の服もかっこよかったが、可愛らしいドレスを纏うウィルも素敵だ。


「こんにちは、アリス王子♪」


わざとアリスが嫌がる王子呼びをするのもウィルが好きだから嫌じゃなかった。


「ウィル!私、大人になったらウィルと結婚したいわ!!」


アリスがこう言う時、ウィルは決まって万人を虜にする笑顔で言うのだった。


「無理」

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