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和やかなお茶会

 第一王子であるイドリス=コアと、第二王子であるダヴィーズ=ライドは談笑していた。

 そこへ定刻通り現れたのは隣国レインウォールズ王国王女、ロータス=レインウォールズ。


『いい茶葉が手に入ったので内内で茶会を開こうと思う』


 レインウォールズ王国へ王子たちからのお茶会の招待状が届いたのはつい先月のこと。ほんの数十年前の戦争の際、どさくさに紛れてしれっとこの国から独立した歴史を持つレインウォールズは対等という形をとりながらも、この国に頭が上がらない。ゆえにこれは招待状ではなく、強制召集の報せであるとレインウォールズ上層部は焦りに焦った。


「お前なにかしでかしたのか!?」

「俺はなにもしてない!」

「拙い本出版したとか?」

「調べてみましたが特に気に触るような出版物はありません!」

「なんだ!? なにが原因なんだ!」

「わからねえ! わからねえ!」


 ロータス=レインウォールズの父、すなわち現王は涙目だった。いい年して宝物庫に引きこもり、嫌だ行きたくないあそこの王子怖い嫌だ嫌な予感する絶対ヤダと駄々をこねた。研究資料と半年分の食料を宝物庫に持ち込む程度の本気である。

 仕方なく名乗りを上げたのが第一王女ロータスである。

 あのジジイ覚えてろよ、とロータスは歯を食いしばりながら転移魔法を発動させる。

 絶対に必要になる、と侍女が胃薬を用意してくれた。

 腹黒系王子との茶会なんて執筆活動のネタを拾いに行くと考えなければやっていけない。現在抱えている連載小説の為にロータスは重い足取りで茶会に向かったのだ。



 茶会の参加者。

 第一王子。第二王子。ロータス。

 以上三名。


「はめられた!」


 ロータスは叫ぶ。

 たしかに内内の茶会。

 現王の悪い予感は的中した。

 武の誉れ高い第一王子と人望の厚い第二王子は爽やかな笑顔を作った。二人の真っ赤な髪と金色の瞳は芝の緑によく映え、鮮やかな絵画を見せられているような気にもなった。雷に打たれたようにロータスが固まった笑顔のまま挨拶をすると、王子たちも挨拶を返した。

 席につくとメイドが三人分の紅茶を運んでくる。

 肩をはっていたロータスであったが、美味しいお茶を口にしたのと王子たちが当たり障りのない話題をふってくるのでしだいに警戒心が薄れていった。


「ロータス様、アリスの件なんだけどね」


 さりげなく第二王子が話題を変えた。

 さっきの話のついでだよ風を装っているが、これが今日の本題であるとロータスは感じ、無意識に背筋を伸ばした。


「はい。わたくし、アリス様の家庭教師をさせていただいております」

「アリスがうちの弟だっていうのは知っているみたいだな」

「ええ。ウィルフィール様よりうかがっております」


「ふうん」


「……なにか問題がありましたでしょうか……?」


 無言の間に堪えきれず問うと、王子たちは似た笑みを浮かべた。


「いや、なんでもないよ」

「ウィルフィールが事情を話したならそういうことだろう」


 うちの弟をよろしく、と第二王子にウインクされた。

 何も知らないご令嬢なら黄色い声援を飛ばしたくなるのだろうな、とロータスは遠い目をした。そこで思い出す。自分がご令嬢が喜ぶような王子様方のネタを拾いにここへ来たのだということを。


「そういえば、お二人はウィルフィール様と幼馴染だとか」


 同じ年頃の貴族なら誰でも知っている有名な話である。

 ウィルフィールの家は三大公爵家の一つで()の次に高い身分を有している。この国では幼い王子王女が王族という立場を振りかざすことのないよう身分の高い家の子供を幼馴染として付ける。丁度いい子供がウィルフィールしかいなかったということで年は離れているが、彼女が三歳から八歳までの五年間だけ第一、第二王子の幼馴染とした。

 側室を持たないこの国の王は亡くなった妃との間に三人の子をなした。同母の兄弟である二人だが、乳母と教育係がそれぞれ違い、幼少期は互いに王位継承を争う形となり仲は険悪だった。

 跡目争いから大戦に発展させた過去を持つ王は当時三歳のウィルフィールにこれを解決せよと命じた。

 それに対して首を縦にふった真面目なウィルフィールは幼馴染として見事二人の仲を取り持ち、現在では表立って敵対することはなくなった。


 というのが、社交界での美談である。

 ウィルフィールがどのようにして仲を取り持ったのかははっきりとは知られていないが、三歳の愛らしい女児と素直で聡明な十歳、七歳の子供である。きっと三人で花畑で手と手を取り合うような和やかなやり取りがあったのではないか、そう思われている。


 実際のところ、ウィルフィールは幼馴染というより教官として二人の王子に接した。


「あのウィルフィール様が普通の子供と同じような可愛らしい行動をとるとは思っておりません」


 そこに気づいていたか、と王子は目を丸くした。と同時に感じ取った。

 彼女から被害者(自分たち)と同じ匂いがするということを。

 それから心の中で手を握り合った三人はウィルフィールの悪行について語りだした。


「ウィルフィールがそんな非道なことを……」

「あのウィルフィールならやりかねない」


 そんなやり取りに花を咲かせた。


「王子様方の一番の恐怖体験は何でしょうか?」


「やっぱり一番怖かったのはアレかな」

「ああ、アレか」

「何でしょうか?」

「ちょっとオイタしちゃって、『森』のダンジョン入口に半日放置された」

「『森』とは公爵家の……? 入口、ですか?」

「谷底みたいな形になっていてね。魔力を持った生命が入口に近づくとヤツらが出てくるんだ」

「ヤツら......とは」

「命には別状なかったんだ」

「命には、な」

「兄さんも涙目だったよね」

「人外が初めての奴には言われたくないな」


「はっはっは」

「あっはっは」


 表では仲の良い王子たちがテーブルの下で互いの足を蹴り合いながらも和やかなお茶会は過ぎていくのだった。





 ぐすぐすと泣きべそをかくアリスは無事、『森』ダンジョン入口から保護された。

 何があったのかルドが尋ねたが、うまく聞き取れなかった。


「…………ぬるぬる、ねとねと……ううううう……き、き……もちわる、か……った、…………なめくじ、な……んで…………」


「アリスが『邸へ戻りたくない』って駄々こねたから、聞き分けの悪い貴族を放置するとたった一時間で素直になる場所に放置してきた。……わすれてた」


 ウィルが苦笑する。


 そんな場所にアリス様はこんな時間まで放置されていたのですか!? とルドは叫びそうになる。

 それを遮ったのは邸で働く女性陣だった。


「美肌効果あるんですよ」

「お肌すべすべになります」

「いいですね!」


 害は無いみたいなので良しとしよう。


「ごめんなさい……もう勝手に一人で出歩いたりしない……ちゃんと良い子になります」


「ぜひそうしてくれ」


 満足そうなウィルのその反応に、これが初犯ではないことをルドは悟ったのだった。


粘液に美肌効果のある巨大ナメクジさん。

群れを作って魔力をナメナメする。

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