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花咲く森の獣道

 花咲く森の獣道、出会ってしまった。

 くまさん、なんていう可愛らしい動物ではない。身体はアリスの二倍はあり、鋭い爪をこちらに向け、額には金色の水晶が光っている。初めて実物を見たアリスでもわかる。

 紛う事なき魔獣である。

 両腕を高く上げてアリスを威嚇? する魔獣の口元は赤く、赤い液体にまみれた歯がチラリと見えた。


「しゃー!!」


 魔獣は叫んだ。

 動けなくなったアリスは魔獣と目を合わせたまま固まる。

 じりじりと近づく魔獣に抵抗らしい抵抗をする事もなく素早く肩に担がれた。悲鳴を上げることもできなかった。






「くそっ!」


 第十八部隊新兵デレクは誰に言うともなく頭を掻いた。『森』に入ってすぐ巨大な猪の魔獣に襲われ、四分の一が脱落。奥に進むにつれて魔獣と遭遇する率も増え、死んだ者はいないが動けなくなった者も出てきた。彼らをその場に置いて先に進む。こんなのは自分の目指していた騎士ではないと自分のいたらなさを噛み締めながら。愛読書の騎士物語の主人公のような誇れる騎士にはなれそうにない。


「最新の地図じゃなかったのか!? 道なんてどこにもないじゃないか!」


 隊長は騒ぐ。彼には思惑があった。

 第十八部隊が悪名高い『森』に挑んだのは王都で入手した公爵家領の地図が手元にあったからだ。比較的安全なルートで『森』奥の湖に住まう守護獣の羽を手に入れれば、軍部からも実力を認められると踏んでいた。そうすればあの、いやに緊張感のない第七部隊隊長にぎゃふんと言わせられる。第七部隊の奴らはどうにも気にくわない、そう常日頃から隊長は考えていた。我ら第十八部隊よりはるかに格下の家の出の集まりのくせに軍の花形を気取っている。それでも一応、第七部隊は第八以下の部隊の指揮を取る立場だから『森』を訓練場として使う許可を取りに行った。それをあいつは書類をチラッと見ただけで却下しやがったのだ。本来ならばあちらが頭を垂れなければこちらと面会すら出来ない身分差なのだ。そんなことを考えては沸々と湧き上がる怒りと共に歩調を速める。


「隊長! 魔鳥が!」


 空を見上げると、大人二、三人ほどの大きさの黒い魔鳥がこちらに向けて魔法を放とうとしていた。

 隊員たちは即座に防御魔術を組むが、間に合わなかった者たちの方が圧倒的に多かった。


「隊長! 戻りましょう! こんな魔物の巣窟、命がいくらあっても足りません!」


 撤退命令を、とデレクが進言したが、隊長は押し黙るばかりであった。このまま進み、守護獣の羽を手に入れるのと、自分たちの危険を天秤に掛けているようだった。視界の隅では魔鳥と隊員が戦っている。

 負傷していない隊員はいない。隊の士気も下がっている。ここから奥に進めば確実に全滅もあり得る。デレクは長考状態に陥った隊長に変わり、指示を出した。


「これより奥へは進行できない。仲間を連れて『森』から脱出するぞ!」


「勝手に指示を出すな! 隊長は私だ!」


 声を荒げ、憤然とした面持ちで隊長は叫ぶ。

 これほど戦況を把握できない男が隊長の地位にいたのかとデレクは目の前の男を睨んだ。


「うるさい! こんな状況に守られることしかできない奴は黙ってろ!」


 そして、大声で撤退を叫んだ。


 魔鳥を追い払った隊員たちの中には手足に重傷を負い、自力で逃げることができなくなったものもいた。デレクは他の隊員にも指示を出し、動けなくなった仲間を担いで来た道を引き返した。


 だが、血の臭いに引き寄せられてくるであろう魔獣や獣を手負いの第十八部隊が退けられることは難しい。時間をおかず、魔獣に囲まれてしまった。しかも相手は群で狩りをする狼の魔獣だった。銀色狼は狼の内最強だが、こいつらは黒狼だ。危険度が数段下がるとはいえ、こちらは魔力、体力ともにほとんど残っていない。気力だけで剣を握っているようなものである。

 一匹がデレクに飛びかかってくる。

 デレクは騎士としてあるまじき行動をとってしまった。恐怖に負けてきつく瞳を閉じてしまったのである。これではどんな攻撃にも対処できない。愛読書である『ウィリアム少年騎士道物語』にも書いてあったことだ。


『決して目を閉じてはいけない。騎士(われら)は恐怖に屈してはいけないのだ』


 その一説とともに地上に舞い降りたのは公爵家次期当主、かの騎士物語の主人公の子孫ウィルフィール=ハイディッヒ様だった。


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