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使用人たちのお茶会

 最近、アリス様は何かを隠しているご様子です。

 一番最初の異変はお食事の際に果物をこっそりお持ちになったことでした。外でお食べになるとのことでしたので、いつものように私もついて行こうとしましたが、付き添いは必要ないとおっしゃいました。大変焦った様子で。

 その次の日、アリス様は散歩に行ってくるとお一人で出られ、夕方にボロボロになって帰ってこられました。ちょっと転んだ、とおっしゃっていましたが、転んだだけでドレスの裾がギザギザに千切れるのでしょうか?

 また、こっそり厨房に入って軽食をお作りになったと思ったらバケットに入れて外へ......。あれはどう見てもアリス様お一人でお食べになる量ではありませんでした。

 そして今日もアリス様はお一人で外出なされています。私はあの方が幼い頃から侍女としてお仕えしております。年齢の半分を塔の中で引きこもっていたことを差し引いても、このようなことは今まで一度もありませんでした。




「捨て猫でも拾ってきましたかな?」


 執事さんは白い髭を撫でながら優しい目で言った。


「ウィルフィール様も前に一度猫を拾ってきたことがございます。そのお父上など......ええ、まあ、()()()邸に連れてきたものです」


 子供なら一度や二度そういうことはあるものですよ、と微笑みながら紅茶を口に含みます。執事さんは黒スーツがよく似合うおじいさんです。元は孤児の冒険者だったと聞きましたが、上流階級出身だと言ってもいいくらいには品があります。

 私は色々ってなんだろう、と少しばかり気になりましたが、ここでは触れないことにします。触れてはいけないと感じます。


『最近、妖精たちが騒がしい。ピリピリしてる』


 そういえば、という顔をしてスケッチブックの端っこに庭師くんが書き込み、8枚目のクッキーに手を伸ばしました。クッキーは5種類あるのに決まってプレーンのものしか口に入れません。好き嫌いが激しいのでしょうか? 公爵家では使用人全員が厨房で交代で賄いをとることになっていますが庭師くんとだけは食を囲んだことがありません。


「お嬢様が猫を拾ってきたときも一騒動ありましたからね」


 メイド長がプレーン味を追加します。焼きたてみたいです。いただきます。

 あ、紅茶もお代わりしよう。


「猫と妖精って仲は悪くないと聞きました。ピリピリするのですか?」


 一番若いメイドが紅茶にミルクを注いでいます。彼女はミルクを後から入れる派らしいです。ミルク先に入れる派が多い公爵家使用人の中では妙に親近感を覚えます。


「ふむ……ウィルフィール様が拾ってきたのが普通の猫だったら良かったのですが......いえ、結果的には良かったのでしょうか?」

「普通の猫だったら......?」

『その猫、魔獣だった』


 魔獣とはただの獣より生命力や攻撃力が異常に高く、魔法を使うという危険極まりない生物です。一般人に倒せない魔獣は冒険者や騎士団による駆除が必要とききます。猫の魔獣は非常に攻撃的で獰猛、変化の魔法を使い、相手をいたぶって楽しむという残虐性を持つ個体が多いと。

 この領に猫の魔獣が......と呆気にとられている私を気遣ってか妖精たちが私のカップに砂糖をドバドバ入れ始めました。本当にこれ溶けきらないんじゃないかってくらいドバドバ入れています。

 途中で庭師くんがストップをかけなければ、砂糖山盛りになっていたであろう紅茶をかき混ぜます。一応、妖精たちにはお礼を言っておきましょう。


『ウィルのねこ、いいこ~』

『とってもいいこよ』

『ねこすきー』

『『ね~』』


 親指サイズの妖精たちがくるくる空を舞っているように見えます。

 最後の『ね~』だけは聞こえました。

 私には薄い光が頭の上を飛んでいるとしか見えないけれど、人によって違うらしいです。私には薄い光にしか見えない妖精たち、メイド長には光と声が、執事さんは声だけ、庭師くんやウィルフィール様や当主様にははっきりとした姿と声が、それぞれ見え、聞こえるそうです。

 どんな姿なのでしょう? 今度庭師くんに絵を描いてもらいましょう。


 甘い紅茶を飲みきり、今日もお仕事再開です。


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