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逆転

大きな白いお城の高い塔。

強力な魔力で護られている故、人間も魔物も近づけない。

側へ寄ることが出来るのは塔の住人と同じ程度の魔力を持つ者か、近寄るのを許された一部の者だけ。


「何年ぶりかな?元気にしてるかな、あいつ」


塔を見上げながら呟くのはまだ成人前の一人の騎士。

月明かりに長い金髪が神々しく揺らめいた。

塔の住人の侍女――ルドは騎士を案内した。

螺旋状の階段を登る。

立ち入りを禁じられた者が登ると、いつまで経っても最上階の部屋まで辿り着けないとか。

騎士を歓迎するかのように、階段は一段登る毎に段数が少なくなっていく。


「アリス様、ウィルフィール様がおいでです」


扉の前で伝えると、中から可愛らしい声が聞こえた。


「待ってっ!まだ心の準備が――」


騎士はお構いなしに扉を開ける。

いや。

力づくで蹴破る。


「あっ……」


住人は驚いたように声をあげた。

真っ赤なドレス。

漆黒の髪。

騎士よりも頭一つ分身長は低い。

瞳は暗闇の中でも輝く黄金色。

雪のように白い肌。

ドレスの露出は少なく、それが上品であるが、どこか艶がある。

顔の形も美少女と呼べる部類だろう。


「あっ……あの……ウィル――」


おどおどとした様子が保護欲を誘う。

普通の男性になら。

騎士は恭しく手を取り、跪き、手の甲にキスをした。

まるで物語のお姫様と王子様のよう。

――どうしよう!王子様にかしずかれている……!!

ふと、住人はそんな事を考えて頬を赤らめた。


「アリス……」


騎士が名を呼ぶ。

住人はこの時を待っていたと言わんばかりに恍惚とした表情を浮かべる。

「私……ずっと貴女を待っていたの……私の王子様!」そう、騎士に伝え、抱きつこうとした。

伝えようと実際、その形の良い瑞々しい唇を動かしかけた。

騎士はにっこりと微睡むような笑みを見せ――


「いつまで空想の世界の住人のつもりだ!? この●●●野郎ぉぉーーっ!!」


――住人の右頬を思い切り殴った。

グーで。

手加減無しで。いや身体強化はしていない平民の力程度の全力で。

ルドが眺めていて清々しい程に。

住人は反動で壁まで飛び、強く身体を打ち付けた。


「ひ、酷いわ! 今まで侍女以外とは会わないで貴女に純潔を捧げてきたのに!!」


裏切られた! とでも言いたげだ。

しくしくと涙を流している。

幼馴染みには嘘泣きだと直ぐにバレてしまうのに。


「国王様が呼んでるから早くこの塔から出ろ」


騎士は怒りのために額に浮き出る血管を何とか切れさせずに告げる。


「嫌! 貴女と一緒にココで暮らすの!!」


意固地になっているらしい。

騎士は深いため息をついた後、指を鳴らして何もなかった空間から頑丈そうな縄を出した。


「命令なんでね……貴方を縛ってでも連れて帰る」


その縄を見て、アリスは……


「えっ縄で縛るの!?」


瞳を輝かせた。

――ブチッ。

騎士の中で何かが切れた。


「前言撤回。このまま魔力で城まで移動する。ルドさん、荷物よろしく」


早口でそう告げると、騎士は住人を肩に担いだ。


「ちょっと待って! 私はお姫様抱っこの方が――」


無論、住人の台詞は無視である。





十年前。

ある王国に三人の王子がおりました。

三人の前に現れた一人の魔女。

彼女は三人に問いかけます。

「お前が欲するものは何か?」

第一王子は答えました。


「武力だ」


魔女は微笑みながら彼に最強の軍隊と武器を授けました。

第二王子は答えました。


「人望だ」


魔女は微笑みながら彼に目も眩むほどの黄金の山と魅力を授けました。

第三王子は答えました。


「俺は自分の望みは自分で叶えたい」


それを聞いた魔女は――


「うるさいっ! 私がお前の願いを何でも叶えてやると言ってんだろ! マジむか……いや! メガむか……この苛立ちはメガ程度じゃないぜ! テラむかつく!!」


と叫んで、彼に呪いをかけてしまいました。

「ふははは! 私の好意を無にした報いだ!」

魔女は箒に跨がって遠い空の向こうへ飛び去りました。





「――きゃんっ!!」

アリスは硬い大理石の床の上に尻餅をついた。

アリスがウィルの移動魔法によって運ばれたのは国王の前だった。


「アリスよ。お前が塔の中に閉じ籠ってから八年が経った。その間我ら家族がどれだけ寂しい思いをしたことか……」


国王はアリスに慈愛に満ちた温かい視線を向けた。


「お父様……」


つい心にくるものがあって涙が溢れてくる。


「アリスよ!」

「お父様!」


感動的な親子の再会をにやにやと妖しく笑いながら眺めている者達がいた。

アリスははっとして振り返る。

第一王子と第二王子だった。

八年が経った今、第一王子は23歳。

第二王子は20歳。

アリスの兄達はアリスと目が合うと、昔と変わらない意地悪な顔をした。

アリスの脳裏に幼少期のトラウマが蘇る。


「「よう、アリスちゃん」」


二人がまるで示し合わせたかのように声をかけ、近づく。


「いやあぁぁーーーっっっ!!!!! 来ないでぇぇぇーーーっっ!!!!!!」


アリスは叫んでいた。

叫んで部屋を飛び出していた。

八年前、度を越した『いじり』を受けていたトラウマのせいである。


「はっはっは!! 待てよ~アリス~」

「いやあぁぁ!! ついてこないでぇぇ!!」

「コア兄さん、アリスが嬉しがってるよ。それにしてもアリスは可愛いなぁ……僕が食べちゃいたいくらい」

「嬉しがってなんかないわ!! このけだものぉぉぉ!!」


必死で逃げるアリスとそれを嬉々として追いかける二人の兄。


「ふぅ。コアもライドもアリスにべったりじゃ。のう、ウィルフィール」


遅れて国王の前に参上したウィルは礼儀正しく正式な礼をとって国王に報告した。


「国王様、魔女の学園の報告を致します」


国王は待ってました! と言わんばかりに食いついた。

こういう子供っぽい顔はシリアスな場面の凛々しさとは打って変わって、アリスにそっくりである。


「どうであった?アリスにかけられた呪いは――」


ウィルはため息をついた。

そして、告げた。


「アリスにかけられた呪いは――」


そこでアリスの悲鳴が聞こえた。



「きゃあぁぁーー!!!!」

兄二人との追いかけっこの途中で自分のドレスの裾を踏み、転んだ。

兄らがその隙を見逃す筈もなく、アリスは男二人に押し倒されるという状況に陥っていた。


「さあ、愛するお兄ちゃん達にキスをしておくれ」


唇が近づく。

「いやあぁぁ!!やめてぇぇぇーー!!!!」


魔力を飛ばして状況分析したウィルは、アリスに危険が迫ってはいないと判断した。

報告を続ける。


「アリス第三王子の『乙女化』の呪いは既に解けていました」

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