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Rank4「王都にて再出発」

世界暦1204年 第十使徒の月 四週 火天の日


村人たちを一人一人丁寧に葬りながら、ポンギーは大事なことに

日が変わってしまってから気付いた。


「どう頑張ったってここで暮らしていくのには限界あるじゃん…!」


やるせなさで一杯になったが、泣き言は言わずに焼け残った家屋などから

色々とかき集めてはみたのだが…


・焦げかけのパン…一斤

・水の入った陶器のビン…約1ℓ一本

・干しブドウ…約500g分一袋

・干し肉…約200g分

・ロープ…約3m分

・エーテリウス銅貨…56枚


「銅貨は…いや、先立つものとして無いと困る…けど…」


とてもじゃないが三日と持ちそうにない。とはいえ焦っても仕方がないので

ポンギーは何とか使えそうな小屋で一晩考えることにした。



世界暦1204年 第十使徒の月 四週 水天の日


そうだ、隣町に行こう。一晩考えるまでもない気がしたのだが、

ここは現代地球の日本と違い、普通に魔物と遭遇するのだ。

慎重にならなければ野盗の餌食か魔物のオヤツになりかねない。

そうと決まったら行動は早かった。動きが鈍らない程度に持てるだけの荷物を持ち、

手製の墓の数々に手を合わせて別れを告げ、レパンを後にするポンギー。


………。


……。


…。


モンスターに出くわさないように半日かけて隣町へ着いたポンギーを

待ち受けていたのは、塩の山だった。

隣町があるはずの場所がほぼ塩の山と平原だった。

何となく原因に見当がつくせいなのか、もうため息すら出ないポンギー。

一応隣町を一回りして生存者がいないかどうかを確認したのち、無事な家屋を漁る。


「ちょっと塩気がある気がするけど…まぁいいか」


少々の水と食料+塩とお金を得たポンギーは、色々思うところはあるが

もうちょっと何か残ってても良いんじゃないかと考えてしまう

自らの生き汚さに少しだけヘコんだ。



世界暦1204年 第十使徒の月 四週 木天の日


やはりここでも生きてはいけそうにないと判断したポンギーは、焼かれる前に村人や

行商人たちから聞きまくって作成した手製の地図を見て

北方にあるファイエルオス大公領か東の国王領=王都、南の左領辺境伯領の何れかまで

足を運ぶしかないのかと考える。今いるグランリュミエル伯爵領の主都グラネペまで

行ってもよいのだが、馬車で数日掛かったという距離的なモノを考えた結果

選択肢から真っ先に除外せざるを得なかった。


大口狼ラージバイトウルフよりも強い魔物に出くわすってのがなぁ…」


如何にギーの遺してくれた魔剣があるとはいえ、大口狼より強力な魔物が

跋扈する他諸侯の領地内を踏破しなければならないのかと思うと、

ポンギーはまたもやるせなさで一杯になった。


「あ~~~~~~~~ハードモードなんていらんのですよ~~~~~~~!!!」


…。


少し泣き言を言ってから消去法で行先を考えることにしたポンギー。

そこで最初に消えたのは大公領だった。


「北方=冬の北は超寒い=凍死…うん。無い」


では南か東かでどうしたもんかと悩むポンギーを悩ませてくれる暇さえ

与えてくれないのがモンスターだった。


「グルルルッルルルルルッルウウウ!!!」

「げっ…」


それはギーの命がけアシストのお蔭で撃退したはずのボス狼だった。

流石にあの時ほどの徒党を組んではいないが…確実に勝利できるかは微妙な数だ。


「狼はしつこいと聞くが…二日程度で戻ってくるなよ…!」


ポンギーはギーが遺した魔剣を握りしめた。せっかく救われた命が

今度こそ散ってしまうのかと嫌な気分になったが、満身創痍ではないし

あのボス狼はどんなことがあっても殺さねばならないと覚悟を決めていたポンギー。


「さあ、誰から僕を食い殺そうというのかな…!」


ポンギーは摺り足で狼たちとの間合いを取る。

ポンギーの動きにボス狼はギクリとしたせいか、取り巻きの狼たちは動かなかった。


「ガァウッ!!」


一匹の狼がポンギーの気迫に圧されそうになったのか、反射的に飛びかかってくる。


「昨日までの僕だと思うなッ!!」

「グェウッ!?」


ポンギーは魔剣ギーを振るった。今までの自分とは思えないくらい

体が軽く動き、襲い掛かってきた狼の一匹を一刀両断したのだ。


「ギー…本当にありがとう…!」


一昨日のような遅れはもう取らない…何故ならギーの形見がここにあるのだ…!

刺し違えてでもお前たちはここで殺す…!

そう覚悟を決めたポンギーの脳裏には以前に食い入るように読みふけった

クリエの魔導書の内容が浮かんできた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

…先にも述べたとおり基本的に魔法の発動は、

詠唱チャント」+「想像イマジン」+「魔法名を宣言ディクラレイション」=発動

であるが、実際は魔法名の宣言だけでも使えるのである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


無詠唱発動の代償の重さはまだ痛感したことはなかったが、

どのみち無事には済むまいと覚悟していたポンギーは

火炎球フレイムボール」を宣言し、狼たちを指さした。


「ッ!?」


何かが体から抜ける感覚と共にポンギーの周りに

十個近くの火炎球が現れ、狼たちに次々と襲い掛かる。


「ギャイン?!」

「ガァウゥッ?!」

「ガフッ!!」


取り巻きの狼たちは体に火が点いたようで、必死に転げまわって火を消そうとする。

ポンギーはそこにもう一度「火炎球」を何発もお見舞いした。


「ギャオオオオン!!」


似たような叫びをあげながら狼たちは炎に包まれる。


「グォォォウ!!」

「クソッ…! やっぱりお前だけはそうはいかないか!!」


火が点きながらもボス狼はポンギーに襲い掛かってくる。

だが先日ほどは素早くなかったので、流石にレベルが上がって魔剣も上乗せされた

ポンギーの身体能力の前では遅く見える。


「今度こそ…今度こそ終わりだッ!!」


ポンギーはボス狼の眉間に魔剣を振り下ろす。頭が綺麗に縦に裂け、

ボス狼は断末魔さえ上げられぬまま絶命した。


「はぁ……はぁ…はぁ………」


肩で息をするポンギーは火だるまになった他の狼たちを見つめていた。


「ギー……やったぞ………!」


ポンギーは膝をつく。そのまま彼の視界はぼやけ始め、

ポンギーは吐き気に似た感覚に襲われた。


「………ですよ、ね……」


ポンギーはそのまま倒れた。

周りで火だるまになっていた狼たちが動かなくなるのはそれからほんの数秒後だった。



世界暦1204年 第十使徒の月 四週 金天の日


ビクッとしてポンギーが飛び起きたのは翌日のことだ。


「い、生きてる…!? いや、まさか夢オチ…?!」


ポンギーは辺りを見渡して、狼たちの焼け跡を確認する。


「…………ら、ラッキー…? …で、いいのか?」


とりあえずポンギーは手持ちの食料と水にがっついた。


…。


先ほどの場所から一歩も動かずに胡坐をかいて考え事をしているポンギー。


「……どうせだから王都に行こう」


ポンギーは改めて手荷物を確認し、そして昨日の戦いを必死に思い出そうとする。


「あの時火炎球を何発撃ったんだ…? ああ、クソ…ちゃんと数えておけば…

ってできるかあんな状況で…!」


とりあえず無詠唱で魔法を発動しても昨日の使用分くらいなら

まず死ぬことはないと発覚し、すなわち牽制程度の使用なら

火炎球くらいの攻撃魔法は使えることがわかっただけでも良しとして、

ポンギーは手作りの地図を頼りに王都を目指すことにした。


……。


…。


日が暮れた頃、ポンギーは早めの焚火をしながら何かの肉を焼いて食べていた。


「狼と犬は…ダメだ余計なコトを考えるな…!」


自分に色々と言い聞かせて肉を食らうポンギーのそばには

何枚かの大口狼の毛皮が畳んで置かれている。



世界暦1205年 第四使徒の月 一週 大日の日


エーテリウス王国、王都リユニオン(の端っこにある)ニューライン区に到着したのは

ポンギーが隣町の跡地から旅立ってから半年後のことである。

ポンギーは自分のステータスをチラ見して何とも言えないため息。


「レベル38……の僕のステータスは果たして平均以上か以下か…」


ポンギーはニューライン区の門番のステータスを見て、

すぐ様目を逸らして額に手を当てて大きくため息を吐いた。


「門番さん僕の半分レベルなのに…! ステータス倍とか…!」


ガックリしてても何かが変わるわけじゃないので、

ポンギーは気持ちを切り替えて門番に町に入っても良いか聞いてみた。


「ん? 入りたければ入ればいいだろう? 何でそんなことを聞くんだ?」

「え、あ…いや…ですよね!」


何か入場に手形なり許可証なんかが必要だったら詰んでいたが、

何だかんだでここは文明レベルが15、6世紀の中世ヨーロッパなので

よっぽど怪しい言動や恰好ないし派手な格好でなければ

基本的に呼び止められることはないのだ。現にポンギーのように

毛皮などの荷物を背負ったりしている人間は後ろにも続々といる。


「さて…着いたのは良いけど…異世界でお馴染みのギルド的なのはあるのかな…?」


ポンギーはとりあえず大通りをまっすぐ進むことにした。


……。


…。


ギルドは確かに存在したが、外の魔物退治やらクエストのほとんどは

エーテリウス王国兵や、ある程度の信頼を得た傭兵がほとんど請け負うことを知り、

一見様お断り状態にはガチでヘコんだポンギー。


「マジですか…」


面倒な話だが、傭兵ないし王国兵としてまず雇ってもらうべきかと思って

認定試験会場に足を運んでみたのだが…見ただけで「あ、これは無理だ」とわかる

キツイ体力測定と戦闘テストを両方パスしなければダメなのだ。

ダメ押しだったのは戦闘テストの見学で、半年間で慣れに慣れた

純粋な殺意を持つ魔物とは違い、かつて前世で見たような

ヤクザや悪党のそれに近い気迫やら悪知恵を巡らせてくる連中と

まともにやり合って勝てる気が全くしなかった。


「な…何で皆…こんなに…」


唖然とするポンギーに兵士の青年が少し不愛想に答える。


「ガルマー公国とサンドアーメット自治区の連中が妙な動きをしているんだ。

だから新人は即戦力になれるような奴じゃなきゃ今は雇えんのだ」

「………うわぁ…」


前世の就職氷河期なんか屁でもない事情にポンギーは再びヘコんだ。


…。


さてどうしたもんかと再びギルドへ行ってもう一度聞いてみると

どうやらポンギーの聞き方が悪かったようで、細々した雑用関係の仕事も

ギルドでは募集しているそうなので、全く金が稼げないわけじゃなかったのだ。


「いわゆる雑士バイターの仕事だな。それなら向こうの掲示板に腐るほど

あるから気になるのを見つけて持ってくるといい」


とりあえず仕事が無いわけじゃないとわかったポンギーのすることは一つ。

王都に着くまでに狩りに狩った大口狼の毛皮や骨を売ることだ。

さすがにテンプレなギルド買取云々はなかったので、ポンギーは

買取をしている商人に当たっていくことにした。


「おや…大口狼の毛皮ですか…」


買い叩かれることは百も承知だと覚悟していたポンギー。


「最近はとんと数が出てないですからね。

一枚当たり銅貨5枚…いや7枚で買い取りましょう」


銅貨一枚でパンが一斤買えることを考えれば、かなりの買い取り金額になって驚く。

当面の資金は何とかなりそうなので、今度は拠点となる場所を如何するかだった。

まぁ半年間のサバイバルに慣れてしまったのでぐっすり眠れそうな環境であれば

何処でも良かったのだが、思いがけない収入に

ちょっとテンションが上がっていたポンギーはいい加減ベッドで寝たいと思ったので

それなりの設備の宿を探すポンギー。


……。


…。


夕暮れになってようやく良さそうな宿が見つかった。


「”山彦やまびこ犬の宿”……何で山彦?」

「犬が遠吠えすれば必ず遠吠えが返ってくるだろ? まぁ看板犬なんて居ないけどね!」


がっはっはっはとオバさんみたいに笑う宿の娘さんのそんな気風も

実は選んだ理由だったりする。


(看板の犬がギーに似てないのがちょっと残念だが…贅沢は言うもんじゃないな)



世界暦1205年 第四使徒の月 二週 月天の日


父娘おやこと数人の従業員で運営する山彦犬の宿…

ここの宿はスツァブリャ左領辺境伯が治める左領開拓地の海でとれた魚介類を卸すため、

王都でもあまり口にできない海産物メニューが名物だとか。

色々思うところはあったがとりあえず宿の朝食に出された

エビ入りのブイヤベースっぽいものを食べるポンギー。


「あぁ…味付けが違うのになんか懐かしい気がする………………………………………

…………………………………………………………………………………………けどなぁ…」


たぶん現代日本人クラスの素材の扱いが出来てないのだろう。

特にエビを始めとした甲殻類の臭みがどうしても気になってしまうポンギー。


「こういうエビは…エビフライにでもすればマシになるんだろうけどなぁ…」

「”えびふらい”って何だい?」

「のをッ?!」


フォークに刺したエビを眺めるポンギーの前には

山彦犬の宿の娘…キティホーラが興味津々な顔で立っている。


「あー…っとその…エビフライって言うのは…僕の親戚の故郷で…」


まさか現代日本で云々かんぬんと話すわけにはいかなかったので、

多少回りくどい言い方になってしまったが、

エビフライの作り方をキティホーラに教えるポンギー。


「揚げ物だからね…その辺が難しいと思うんだけど…」

「揚げ油なら豚脂ラードでも代用できるんだろ?

どうせ使わなきゃ捨てることが多い豚脂の使い道があるだけマシさね」

「まぁ…あ、でもラードを使った方が甲殻類の臭みも消えるかも…」


……。


…。


ポンギーの目の前に現れたのは大きさやパン粉の不揃い加減を除けば

前世でも見たエビフライと遜色のないエビの揚げ物だった。


「言われた通り”たるたるそーす”ってのも作ってみたけどさ? どうだい?」


卵黄と油と酢と塩があるし香草ハーブ漬物ピクルスだって存在するんだから

やるだけやってみようかとキティホーラ達に提案できるだけ提案してみたら

本当にそれっぽいものが出来上がって思いのほか驚くポンギー。


「じゃあ、早速…」


ポンギーは見た目こそ多少不格好だが、カラリと揚がった

異世界生まれのエビフライ第一号を一口大に切り、これまた異世界生まれの

タルタルソース第一号につけて頬張ってみる。


「……! うん! 悪くない!! っていうか美味い!」


ポンギーはキティホーラ達にも試食を勧めてみる。


「あ、私これ好きかも!」

「へぇ…エビの歯ごたえがクセになりそうだな」

「この”たるたるそーす”ってのがさらに味を良くしてると思うぜ」


なかなかに好評だったので、ポンギーはこれを新メニューにしてはどうかと提案した。



世界暦1205年 第四使徒の月 二週 木天の日


山彦犬の宿の食堂スペースは限界以上の人で溢れていた。


「はいはいエビフライですねー! ただ今少々お時間いただきますがー?」

「ちょっとくらい時間かかったっていいから美味しいところを頼むぜ!」

「おーいこっちにエビフライの追加頼むわー!」

「ちょ、ちょちょちょっと待って下さいなー!」


数日前に早速新メニューとして出したエビフライが、まさかの大ブームを起こしたのだ。

海産物の味を知っている他国の雑士はもとより、同盟国のアルダントリア王国から

こっそりお忍びで貴族が噂を聞きつけて食べに来たりで山彦犬の宿は大盛況だった。


「ポンギーとしてやり直せたのもそうだけど…何というか…人生ってわかんないなぁ…」


ポンギーは隅っこでメンチカツとコロッケ、さらにオムライスらしきものを食っていた。


「どうだいポンギー! ”めんちかつ”と”ころっけ”と”おむらいす”の出来は?!

……あ、はいはいもうちょっと待っててもらえるかねー?」


肩で息をしつつ客の呼びかけに返答するが、

すごく充実した顔のキティホーラがポンギーの顔を覗き込む。


「うん。材料の品質以外はもう何も言うことないよ」

「そっか。後は材料の質さえどうにかすればもっと良くなるんだねえ…あ、そうそう

宿代のことなんだけどさ」


キティホーラは宿代の請求書と思われるものをポンギーの前に出す。


「あ、ごめんなさい……そういえば払い忘れてたよ」


請求書の金額を見ておや? と思うポンギー。


「あれ…これ日割りで計算しても銅貨一枚に満たないんだけど…?」

「うちの商売繁盛に貢献してくれたんだ。これからもその値段で泊まってっておくれよ」

「え…ほ、本当に?」


一泊がパン一斤以下の値段…すなわちタダ同然で宿泊することを許されたポンギー。

こうして彼は王都での生活拠点を手に入れたのだった。


Rank5に続く。


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