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Rank3「二度目の人生の終わり」

世界暦1204年 第九使徒の月 二週 月天の日


新たに貴族二人ともメル友含めた縁ができてからのポンギーはちょっとキモいレベルで

毎日の農業+鍛錬のルーチンワークを張り付いたかのような笑顔でこなしていた。

ムントリマは残念ステータスなポンギーとは違い、彼の倍くらい働くようになったので

食卓の賑わいも前世での寂しく侘しい一人暮らしよりも向上していたことも手伝い、

さらにはクリエから魔道書グリモアを送ってもらったり、父シモがサプライズで

母ミレイユにペアとなる貴金属の指輪をプレゼントするパーティが発生したりした。


「全く…最近父さんの帰りが遅いと思ったら…格好つけちゃってさあ」

「うるさいな。お前らの父親である前にミレイユの彼氏なんだぞ?」

「彼氏って…おとーさんが彼氏って…」

「おいリマどういう意味だ」

「父さん年甲斐もねぇってことでねーの?w」

「グーで殴んぞムントw」

「あなた…家庭内暴力はいけませんよw」

「(すごく…すごく懐かしくて…あったかいなぁ)………」


ポンギーは小さな幸せを噛みしめていた。


「あ、ポンギー。ちょっとこっちにいらっしゃい」

「? …どうしたの母さん」


ミレイユは自分の胸元を探ると、そこから首飾りを取り出した。


「やっとお父さんシモから夫婦の指輪をもらったから、これを貴方にあげるわね」

「何これ?」


首飾りには何なのかは分からないが凄く自己主張が激しい象徴的な刻印が施されている。


魔除アミュレットらしいのだけれど…あら、そういえばどうしてこの首飾り

魔除扱いなのかしらね…?」

「そういえばお前がこの村に流れてきた時から肌身離さず持ってたよな…

ってそれを息子ポンギーとはいえ人に渡して良いものなのか?」

「別に良いのよ。あなたに指輪をもらったら最初の子にあげるつもりだったから」


ミレイユはポンギーに「大事にするように」と少し強めに言って魔除の首飾りを渡す。


「ありがとう母さん。大事にするよ」

「いーなーポンギー兄ちゃん…」

「リマ。欲しかったら小遣い稼いで隣町の細工屋で買えば良いべっちゃ」


ポンギーは受け取ってすぐに首飾りを装備した。

なんとなく装備品のステータスなんかも見れるのかと注視してたら


===================================

<Gアミュレット>【体+1 心+1 守+1】〔価値グレード:8〕

表面がだいぶ擦り切れていて、刻印は“G”らしきものが

辛うじて読み取れるアミュレット。

自分よりレベルの低い相手にのみ魔除けの効果が発揮される。

===================================


「?!(マジかよ物品のステータスまで見れるのか?!)」


深呼吸して普段着も注視してみたポンギー。


===================================

<お手製の木綿の服>【守+1】〔価値:3〕

母の手作りであること以外は特筆することのない木綿の服。

===================================


「(そういえば母さんいつも何か裁縫してたもんな…)」

「気に入ったの?」


ポンギーをのぞき込んでくるミレイユ。


「ひょうっ?! あ、あ…うん。これホントに魔除けになりそうだね」

「あれ? でも兄ちゃんそれだとギーには良くないんじゃないの?」

「ギーは大丈夫さ、ほら」


ポンギーは魔除けをギーに近づけてみるが、ギーは臭いを嗅いで首を傾げるだけだ。


「んだな。っつうかギーは魔除けだっつうこともわかんねーんじゃねーの?」

「かもねぇ」

「しかしな、ポンギー。だからと言って大口狼ラージバイトウルフに試したりするなよ?」

「わかってるよ父さん」


今一度ポンギーは小さな幸せを噛みしめていた。



世界暦1204年 第十使徒の月 一週 木天の日


今日は大口狼の毛皮があまり取れなかったが、日も暮れ始まったので

ポンギーは物足りなさそうなギーを宥めつつレパン村に戻ってきた。

しかし今帰っても特にやることもないので、ポンギーは村の広場の片隅で

クリエから頂いた魔道書を読んでみることに。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

…先にも述べたとおり基本的に魔法の発動は、

詠唱チャント」+「想像イマジン」+「魔法名を宣言ディクラレイション」=発動

であるが、実際は魔法名の宣言だけでも使えるのである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「え」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

しかしながら、それならば先の法則の意味は何なのかということになる。

その点は安心すべきであり、悲しむべきであることだ。


無詠唱の代償は重い。魔法名宣言だけで発動すると、魔力の消費量が

詠唱込みでの発動の最低でも十数倍必要となるのだ。


流石に「点火イグニシオ」や「霧吹スプレー」などの生活魔法程度では

魔力が枯渇して精神が『一時的に死ぬ』ような事態に陥ることは三、四発程度なら

一般的な健康体の人間ならどうということはないが、そうでない者は

あくまで切り札として使うようにしなければならない。


ゆえに詠唱+想像+魔法名宣言=発動の図式には大きな意味があるのだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「………霧吹スプレー


ポンギーは誰もいない方向に手を翳して魔法名を宣言してみる。

すると彼の掌から文字通り霧吹きで出したような水が出てくる。

同時に全身から生命力が少し吸い取られたような感覚も感じた。


「生活魔法でこれか…使えるのが分かっても…いや、でも…

全然使えないのに比べて良しとすれば…」


ふと、ポンギーは広場の中央付近が騒がしい気がしたのでその方向を見る。

視線の先には意匠デザインこそ様々だが、どう見ても兵士に見える一団が

血や泥に塗れて広場中央でへたり込んでいる。

彼らに水などを差し入れる村人たちもちらほらと現れた。


「またサンドアーメットと小競り合い?」

「今回はガルマー公国の調査兵団らしいのよ」

「川向うからいきなり攻撃してきたんだって」

「じゃあ帰りの途中?」

「当たり前でしょ。スツァブリャ左辺境伯領側から来てるじゃないの」


魔導書を読みつつ、井戸端会議する村の女たちの話も耳に入れるポンギー。


「………すっかり忘れてたなぁ…」


ポンギーは聞き耳もそこそこにして、家路につくことにした。

現代日本のようにTVやネット、ラジオなどで情報がばら撒かれる世界と違って

こういう話はきちんと聞けるべき時に聞いておかないとかつての前世より

困ったことになるということをポンギーは初めて自覚した瞬間であった。



世界暦1204年 第十使徒の月 四週 月天の日


しかしながら、ポンギーの元・現代日本人感覚はそうそう抜けるものじゃない。

だからこそいつものようにギーを連れて魔物狩りと魔法練習を続け、

何時ものように魔法以外のそこそこの成果を得て帰路につこうとした時、


今の故郷ふるさとレパンから

多量の煙が上がっていることを見つけるのに時間がかかったのだ。


「え…!?」


ただならぬ事態だと村へ急ぐポンギー。


しかしレパンは既に大炎上していた。


「な、なんでこんな…………………ッ?!」


ふと、頭上に気持ち悪い気配を感じたので空を見上げると…


「て、天使…?!」


ポンギーの感覚ではそうとしか思えない光輝く人型のモンスターが

未だ燃え続けているにも関わらず、村に光の槍のようのなものを投げ続けていた。

光の槍は半径数メートルを吹き飛ばしては炎上させるとんでもない威力だった。


「村を…何で…クソ…!!」


モンスターへの怒りと本能から来る恐怖で不思議と冷静になれたポンギーは、

光の魔物が村を焼き尽くすのに夢中なうちに、ひとまず村のゴミ捨て場の穴に身を隠し、

どうすればいいのか考えた。


…。


ギーが一緒じゃないことに気付くのはそれから一時間後のことだ。


「…ギー?」


穴から顔を出してみれば、あの光の魔物はいなくなっていた。

しかし村は燃え続けていた。ポンギー一人で消化するなど不可能だった。


「父さぁあん!! 母さぁぁぁあん!! ムントぉぉお!! リマぁああぁああ!!」


自分の体力の低さを嘆きながらも、ポンギーは火事場であることを気にも留めず

家族たちを探し回った。火の気が収まってからも探し続けた。


だが見つかったのは誰とも知れぬ多くの焼死体だけだった。


十数年暮らした村が一晩で全滅してしまうなんて信じたくなかったポンギーは、

寄り添うようにして亡くなっている二人の遺体に、

見覚えのあるペアリングが嵌められているのを発見した時、

自分の中の希望がついえるのを感じ、本義はポンギーとして初めて大泣きした。


……。


…。


泣きすぎて大口狼の群れに囲まれていることにすぐに気付かなかった。

ポンギーは涙で視界が悪い状態だが、愛用のスコップを構える。


「グルルルルル…!」

「畜生…」


ギーがいればこんな奴らは怖くないのだが、今ここにギーはいない。

あの時の光の魔物に怯えて逃げたか、火事に巻き込まれたか定かではないが

今ポンギーの傍にギーはいない。狼の連携攻撃をどうにかスコップで受け流し、

何匹かを叩き殺しながらも自分の体力がどんどん尽きていくことに

小さくも新たな絶望感を覚えるポンギー。

焼け死んでしまった村人の傍で自分は食い殺されるかもしれない。

考えたくはないが、目の前の狼たちの群れの前ではそう考えてしまう。


「げっ!?」


振り回したスコップを狼の最後の三匹がその大口で受け止め、放り投げられたのだ。

リーチの長い武器はスコップしかないポンギーにとって、詰みに近かった。

だが、どんなに恐ろしくてもポンギーは懐の小刀を構えるしかなかった。


「ただでお前らの餌になんかなってたまるか…!」


飛び掛かってきた一匹は、小刀を上手いこと首に刺して倒せた。

別の一匹は「点火イグニシオ」の無詠唱発動で牽制し、これもどうにか

小刀の一撃で胴体を切り裂いて倒せた。

しかし胴体から小刀を抜こうとして、血糊に手を滑らせた瞬間に

ポンギーは最後の一匹で群れのボスらしき狼に押し倒された。


「…ち、く…しょう…」


ポンギーの頭はそのまま大口に飲み込まれる―――


―――ことはなかった。ボス狼と同じかそれ以上に大きな黒いものが

ボス狼にぶつかってきたのだ。衝撃で跳ね飛ばされるも、すぐに体制を整えるボス狼。


「……ギー!?」

「…わふぅ」


ボス狼にぶつかったのは間違いなくギーだった。

だがギーはあちこちに傷を負っていた。実はポンギーから離れたのも

火事場に便乗して獲物を得ようとする狡賢い大口狼の群れの存在を察知した

ギーがたった一匹で数十匹の群れを血祭りにあげていたのだが、

そのうち先ほど突き飛ばしたボスとその取り巻きたちを逃がしてしまい

どうにかそこに追いついたのだが、そんなことはポンギーが知る由もない。


ポンギーはギーがボス狼に睨みを聞かせている間に、小刀とスコップを回収した。


「遅いよ、ギー…!」

「わふ…」


本当はもっと色々モフるなどして感謝したかったが、まずは目の前のボス狼を

何とかしなければいけなかったが、ギーは何気に傷だらけで

ポンギーもスコップを振り回せるかどうか微妙なレベルの体力だ。

でもきっと一人と一匹揃っていれば何とかなると思ったポンギーは、スコップを構える。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」


ボス狼は雄叫びを上げた。一瞬ひるむが、ギーとともにボス狼に向かっていくポンギー。

戦いは五分五分で、どちらかが気を抜いた瞬間勝負は決してしまう状況だ。

ポンギーは力の限りスコップを振るう。すべてはボス狼の頭蓋を叩き割るために。

ギーも力の限り爪を立て、牙を突き立てる。すべてはボス狼に決定的な隙を作るため。


「グルァァアウ!!」

「ギャイン!?」


だが、すべては上手くいかなかった。

わずかに初動が遅れたギーがボス狼に腹を爪で裂かれたその瞬間に、

偶然ポンギーのスコップの一撃がボス狼の顔を切り裂いたのだ。


「クォーン…クォーン…!」


ボス狼はこちらに背を向けて逃げ出す。ポンギーは後を追わない、いや、追えなかった。


「ギー…! あぁ…! 畜生…畜生…!!」

「くぅん……」


ポンギーは必死にギーを治療しようとしたが、ギーの体力はそれこそ

回復魔法を使わなければダメなくらいに体力をなくしていた。

ギーのステータスに表示される命の数値がどんどん減っていくのを見るのは辛かった。

諦めたくないポンギーだったが、どうしようもなかった。


「わう…」


ギーは必死に顔を動かしてポンギーをぺろぺろと舐めてくれるのに、

ポンギーはギーの腹の傷を完全に塞いでやることができなかった。


「そうだ…痛み止めで…!」


ポンギーは荷物の中に痛み止め用の薬草があることをようやく思い出した。

それが何の役に立つのかはわからないが、何かしなければと思っての行動だった。


だが、ポンギーが薬草をすり潰してギーに与えようとした時、

ギーの呼吸は止まっていた。


「おいやめろギー! 死ぬな! まだお前は…お前は…!!」


ギーは目を瞑ったまま「わぅ…」と力なく吠えて、完全に息絶えた。


「あ……あぁ…………あああああああああああああああああああああああ!!!!!」


ポンギーは二度目の大泣きをした。泣きながらギーを抱きしめるが、

ほとんどのモンスターは死ぬと一定時間以内に剥ぎ取ったものを除いて

粒子となって消えてしまう。飼い犬とはいえ

モンスターに属するギーも例外ではなかったのだ。


「遺体くらい…残ってもいいじゃないか…!」


ギーが消えていくのを見るのは両親の死並みに辛かったが、

ギーは大概のモンスターが稀にそうであるように、ドロップアイテムを遺した。

それは小さな剣だった。小刀よりはリーチがあるので片手剣といえば片手剣だろうか。


====================================

忠犬牙小剣ギー・ファング>【体+122 技+89 力+95】〔価値:95〕

[特殊効果:『戦狼の勘』『毒耐性LX(60)』]

主に沢山可愛がられた戦狼が自らの生を終えるとき、その力の一部を

武器化して遺すことがあり、これは剣として遺されたものである。

装備者が戦狼の主であれば、秘められた力を余すことなく発揮できる。

====================================


それはギーの名を冠した魔剣だった。


「ギー………」


ポンギーは涙をボロボロこぼしながら、ギーの遺した剣を装備した。

今までの貧弱が嘘だと思えるくらい体が軽くなったのを感じる。


「………………………ギー、最後まで本当にありがとう」


どこかでじゃれつくギーの鳴き声が聞こえたような気がしたポンギー。


「生き抜いてやるさ…お前の遺してくれたものまで無駄にはできないから…!」


鼻水を啜ってポンギーは晒されたままの焼死体を丁寧に葬るための作業を始めた。


Rank4へ続く

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