Rank2「農民の僕、貴族の私、騎士のボク、虫っ娘のあーし」
世界暦1204年 第二使徒の月 三週 木天の日
あの出会いから三年…ポンギーも13歳(Lv14)となり、
そろそろ村での成人扱いも近かったが、あの眠れない日は何だったのかと思うくらい
ポンギーの日常ルーチンワークに変化がなかった。
魔法も全然ダメだし、ステータスの伸びも見てて悲しくなる。
超強い愛犬ギー(Lv37)をもふもふしてなかったら
前世に匹敵するしょっぱい人生だっただろう。何しろ二番目の子で
お前本当にポンギーの弟か? と言いたくなる長身の弟ムント(12歳:Lv6)
三番目の子で実は酔っぱらった父シモがやらかして出来た腹違い
(その件でシモはミレイユに殺されかけたが、それは別の話)
で末っ子でもある妹リマ(10歳:Lv5)のステータスは
ポンギーの半分以下のレベルなのに殆ど凌駕されているのだ。
これで兄と慕われてなかったらもう一回人生を終わらせたくなっただろう。
「兄さんすげーな。特にあんな怖ぇ魔犬に懐かれるってのがさぁ」
「魔犬って…そんなにギーが怖いか?」
「わう?」
ポンギーにもふもふされながらギーはムントを一瞥。
ビクッとして身震いするムント。
「怖ぇってもんじゃねーわ! 偶に森で出会っちまう大口狼
(平均Lv9。普通の人間は平均Lv3)より強ぇんだべ?」
「あぁ…まあギーなら14、5匹虐殺できるもんな…」
甘草の根っこを齧りながら、ムントはポンギーを評価してくれる。
体格からして実はポンギーより強い弟だが、性格はかなり良い。
「そーだねー…兄ちゃん体力だけはイマイチだけど、後は全部すごいもんねー」
「体力…はは…………傷つくわ…」
「あっさり傷つかないでよ兄ちゃん…っていうか兄ちゃんの短所それだけだよ?
ほらぁ…ギーが心配そうにしてるよ?」
「わぅ…」
草笛を吹いて遊びながらポンギーを褒めてくれるリマ。
前世から責められてばかりの人生を送ってきたポンギー。
故に何気に猜疑心が拭えないので可愛いはずの弟や妹に対しても素直に喜べない。
もしこれで二人が自分を凌駕する魔法の素質なんかあったらどうしよう…!
なんて疑心暗鬼に陥りそうだった。その様は生ゴミ処分のための
穴掘り作業が、いつの間にか落とし穴レベルにまで掘りすぎるくらいだ。
「………スコップ…鋼鉄製にできるかな」
可愛い弟や妹に対して素直に兄らしく接することのできないポンギーは
魔物を狩って稼いだ小遣いで隣町の鍛冶屋へ足しげく通った。
「おう、これだけの金があれば坊主の言ったようなスコップにできるぜ」
「ほ、ほほほほほほほわああああああ…ハッ?! …ほ、本当ですか?!」
「お、おう…」
ポンギーの目の輝きに鍛冶師のおじさんは引いていたが、
ポンギーにはそれを気にする余裕などなかった。
世界暦1204年 第五使徒の月 一週 金天の日
稼いだ金を馬鹿じゃないのかと言いたくなるくらいにつぎ込んで、
えげつない仕様にした鋼鉄製スペード型ウォースコップとでもいうべき
特製のスコップの完成を心待ちにしながら、
いつものように魔物狩り+魔法練習のルーチンワークをこなしていたある日のこと…。
「ポンギー。何か手紙みたいなのが来てんだが、お前宛か?」
「手紙…?」
シモから手紙を受け取ってみれば、あて名は自分らしい。差出人は…
「クリエ・フォルトゥナ・グランリュミエル…
…ん? んん?? んんん??? キタキタキタキタァ!!」
手紙を読みながら小躍りするポンギーは家族に怪訝な顔された。
「あら、ポンギー…危ないからちゃんと座って読みなさいな」
「ああ…ごめん母さん。でも角にぶつかる前に言ってほしかったな」
「兄さんじゃなくてもいきなり踊りだしたら誰だって変に思うべじゃ?」
「酔っぱらったお父さんなら兎も角、素面の兄ちゃんだからねー」
「酔った俺を引き合いに出してやるなよ…」
何気に言われてる気がしたが、ポンギーは前世から誹謗中傷に慣れっこだ。
それよりもポンギーにとって大事なのは手紙の内容だ。
何せ郵便や交通の都合があるとはいえ三年間音沙汰なかった貴族様からの手紙だ。
農村ルーチンワーク人生に彩を添えてくれる可能性は一つたりとも無駄にしたくない。
そんな一心でポンギーは手紙を読み進めた。話し言葉には不自由しないので
文字を覚えるのは楽勝だ。それが何気にポンギーが村で数少ない
国内標準語としてのエーテリウス国語、隣国のアルダント、ガルマー、ククルカの
三ヶ国の外国語をほとんど支障なく扱える四ヶ国語話者であることが
どれだけ凄いことなのかこの時のポンギーは
まるで理解していないし理解する余裕もなかった。
「えーと…文字はガルマー風の筆記体だけど…うん、ちゃんと標準語だ…」
ポンギーは黙々と手紙を読む。何だかんだでポンギー以外の家族は
話し言葉はできても文字は殆ど読めないのでポンギーの表情変化をじっと見てたりする。
「んで、貴族様から何て内容のお手紙もらったんだ?」
シモの言葉に傍にあったコップの中身を空にして一息ついたポンギー。
「父さん、母さん」
「ん?」
「なあに?」
「明日から貴族と接点のある人たちに
時間の許す限り片っ端から会いに行きたいんだけど、いいかな?」
首をかしげる家族にポンギーは手紙の内容を説明した。
興奮しているポンギーの長文を要約すれば
クリエが七五三を終えてから無事に8歳まで成長したことを祝う誕生会に
あの三年前の恩返しもかねてポンギーがご招待されたそうだ。
両親はぶったまげて、弟妹は羨ましがった。
世界暦1204年 第七使徒の月 二週 金天の日
あれから数か月、ポンギーの周囲は忙しかった。何せレパン村の村長に
なんとなく相談に行ったら大変驚かれたし喜ばれたのだ。
「領主である伯爵様のお嬢様のお誕生会に招待された? それは何が何でも行かねば!
絶対に恥をかいたりかかされることのないようにしなくては!!」
とほかの百姓やら知り合いの行商人やら湧いて出るかのように数多くの人たちから
余所行きの服だのアクセサリーだのを貸し与えられ、貴族に対しての礼節ある行動の
イロハを叩き込まれたかと思えば何故か剣術まで叩き込まれた。
そして気が付いたらグランリュミエル伯爵が統治する
グランリュミエル伯領首都グラネペの大通りで馬車から
降り立ってボケッと突っ立っていたポンギー。
ギーに手をペロペロされて我に返る。
「ってお前ついてきちゃったのかよ!」
「わう?」
道理で道行く人々がポンギーに近寄らないわけだ。
犬や馬などを連れた人間ってのはここでは普通の人には見られない。
ましてギーはポンギー以外にはどう見ても魔物ですありがとうございますな
風体をしているんだからなお性質が悪い。
しかし憲兵的な人たちが「君、ちょっと良いかね?」と声をかけてこないのは
似たような感じの狼やらトカゲやらを連れている騎士風の人たちがちらほらいるからだ。
多分その人たちは詰め込み教育で教わった「雑士」と呼ばれる
賞金稼ぎたちだろう。ポンギーはしまったと思う。
「(もしかして僕、初っ端から恥かいてるんじゃね?)…あぁ、やっちまった」
前世でも味わった『おのぼりさん』を今世でもやらかしたのだとポンギーは肩を落とす。
ギーは心配そうにポンギーの手をぺろぺろする。
「ギー。大人しくしててくれよ」
「わふ」
ポンギーはカバンから村長に借りた貴重なグラネペの地図を取り出して見る。
「グランリュミエル伯爵様の家は…こう行けば近道っぽいな」
ポンギーは大通りの脇道に入っていった。
…。
そして囲まれた。いかにもなゴロツキ連中に。
「馬鹿だね~。黙って大通り真っ直ぐ行ってりゃいいのにね~」
「さ、最悪だ…!」
ギーはおろおろしている。何せ魔物とは戦い慣れているが
主人からは「絶対に人は襲うな!」とキツく言われているのだ。
こんなことなら人との戦い方も勉強しておけばよかったなぁ…と二、三発
ぶん殴られてすっかり前世の弱者根性が出てしまったポンギーは思った。
「んじゃ、そろそろ…おい坊ちゃん。わかってんだろ?」
「うぅ…」
敵は刃物を持っていた。ポンギーも借りた護身用の剣を持っていたが、
数の多さと前世で散々味わってしまったゴロツキへの恐怖で
その剣を抜くことすらできなかった。少しくらいレベルの高い魔物なら
どんなに凄まれてもあっという間にナイフやスコップでスパスパ殺戮して
サクサク素材剥ぎできるが、やはりそう簡単にトラウマは拭えないようだ。
だからこそポンギーは慣れてしまった手つきで財布を出そうとしたその時、
「浅ましい…! 雑士の面汚しめっ!」
なんて透き通るアルトボイスが聞こえたかと思ったら、後ろ側にいた
ゴロツキの何人かが水しぶきとともに吹き飛んだ。
「あ? テメェ何してんだガk」
ポンギーに恐喝を働こうとしていたゴロツキのリーダーっぽい男が
声の聞こえてきた方向を向いたかと思えばくの字に曲がってゴミのようにぶっ飛んだ。
「父上はよく雑士はゴミだと言うが…なるほど、
お前たちのような連中を見ていれば、そのように偏見を持ってしまうのだな」
リーダーっぽい男が壁に激突して"ぐぇ"と唸ったきり気絶したのを見て
吹っ飛ばされずに済んだ数人のゴロツキは逃げ出そうとするのだが、
「許しさえも請わない…雑士の面汚しめっ!」
「うぎゃあっ?!」
ポンギーは見た。短めの水色髪を靡かせ、超格好よく魔法剣的なもので
あざやかにゴロツキたちをゴミのようにぶっ飛ばして熨していく、
同年代と思われる大人になったら間違いなくイケメンになっちゃう騎士っぽい少年を。
「(これは僕が女だったら100%キュンキュンフラグですねわかります)…凄ぇなぁ」
「大丈夫かい?」
少年は中身がミドル世代に到達してるポンギーですら
「俺ハソッチジャナイ俺ハソッチジャナイ俺ハソッチジャナイ」と
呪文を頭の中で唱えたくなるくらい可愛い系の美少年だった。
「わふ!」
「…! あ、どうもすみません」
もしもギーがポンギーに喝(?)を入れてくれなかったら
合算でとうの昔に違う意味で魔法使いになっているポンギーは
ジャンヌ=ダルクの美貌に惚れ込んで美人の奥さんと別れた挙句爵位を捨ててまで
付き従ってしまった(狂人・青髭のモデルとも言われる)ジル=ドレよろしく
ウホウホ系の倒錯者としての人生を歩んでしまうところだったかもしれない。
「無事で何よりだが…相当な強さを持っていそうな使い魔を率いていながら
あの程度の穀潰し共に委縮してしまうなんて…キミ、男だろう?」
「いや、こいつには絶対に人を襲うなってキツく教えてたものですから…」
「優しいね、キミは…でもダメだよ。そういう甘さは捨てなければ…!」
年代が年代であるせいか少年というより、
いわゆる姫騎士ちゃんに説教されているみたいで変な気分になりそうだったポンギー。
ギーが手をぺろぺろしててくれなかったら本当に危ない世界に入場してしまいそうだ。
「っと…ついついお小言が過ぎたね。そろそろボクも行かなくては。
それじゃあまたね…おっと失礼、自己紹介をしていなかった。
ボクはアーリア。アーリア・フェイトブリンガーだ。
キミの帯剣を見るに、剣術の心得はありそうだね。
縁があったら中央教会から北通りにあるボクの家を訪ねてくると良い。
特別に最初の一回はキミに速撃の基本を教えてあげるよ。それではまたいつか!」
「あ、なんかいろいろすみません」
すごく男前だなぁ、俺なんかとは違って…と思いながら
ポンギーはアーリアと手を振って別れ伯爵の家に向かう…
はずだったのだが…どうにも自分の行く方向とアーリアの行く方向が同じっぽい。
「……もしかして、キミも伯爵様に御用かい?」
「一応、クリエ…クリエお嬢様から招待状をもらっているので」
ポンギーはクリエから送られてきた招待状を見せる。
「へえ…! どうやらボクとキミには浅からぬ縁があるようだ!
ならば折角だから一緒に行こうじゃないか! うん! そうしよう!」
美人と知り合えるのはいいが、どうして異性ではないのだろうかと
凄くバカなことを考えながら、ポンギーはアーリアと話をしながら
伯爵様の邸宅へと歩を進めていった。
「今更なのだが、僕の家であるフェイトブリンガー士爵家はグランリュミエル家が
まだグランリュミエル伯爵家として成立する前から仕えているんだよ」
「へぇ…」
何となくわかってはいたのだが、アーリアも貴族だった。
っていうか騎士って段階で貴族ってことくらい
すぐに気づかなきゃダメだろうとポンギーは心の底で反省した。
もしもこれがアーリアじゃなかったら江戸時代宜しく斬り捨て御免モノなのだ。
なんでそんなことが言えるかなんてのはカツアゲされそうになる前に
城下町で道を行き交う人達が皆一様に貴族らしき人たちに道の真ん中を歩かせて
平民らしき人たちは端っこを歩くようにするとか、話しかけられたら話しかけられたで
流石に跪くことはなかったが直立不動で一言一句を
真剣に応答していたりとかする様を何気なく見ていたからである。
「しかし羨ましいな。キミは魔物使いなんだね」
「いや、僕は魔物使いってわけじゃ…」
「そう謙遜することはないよ。ボクも昔はキミみたいに魔物と仲良くできたら…
なんて思って魔物にご飯をあげようとしたこともあったんだ…
…まぁ結果はお察しだけどね」
ポンギーは複雑な気分だった。何が複雑かって主人公っぽい語りをする
アーリアの声がクソ可愛いのだ。まだ声変わりしてないのか
よく聞いてると、くりくりした可愛い声なのだ。
ギーがポンギーの手をぺろぺろする。臭いを嗅いで鼻を顰めるポンギー。
「ナイスだギー。今日もお前のよだれは臭いな」
「ばふ!」
「?」
心がおかしくなりそうになるたびにポンギーはギーをモフって自分の正気を保っていた。
なんでアーリアは花とか太陽とかの良い匂いがするのかわからなかったからだ。
向こうは自分に普通に接してきているのに、そんな良い匂いとクソ可愛い顔と声で
精神弱者なポンギーの男としてのSAN値をゴリゴリゴリゴリメッキョメキョと削るのだ。
そのせいかアーリアの話がまるで耳に入らない。
「(もしかしてステータスの加護にもっとロクでもないやつとかもあって、
今僕が変な気分になっているのはそのせいのか…!)」
「どうしたんだい急に変な顔をして?」
しかし現実を直視したくないポンギーはステータスを見ない。
見ないように努めれば努めるほど、自分の能力を見れない前世は
ほんのりマシ…いいえ、違います…と、もうポンギーのメンタルはスパーク手前だった。
「おっと、そろそろグランリュミエル家の玄関が近づいてきたよ」
アーリアは今一度自分の身なりを整える。その様子をみて
ポンギーも慌てて自分の身なりはおかしくないか…って僕の手超臭いじゃん!
早く消臭的な…ちっくしょうファ★リーズが無いなんて不便すぎる…!
とか心の中で悶え苦しみながらも色々身なりを必死に整えながら
グランリュミエル家の玄関まで歩を進める。まぁ玄関とは言ってもバカでかい門だが。
「フェイトブリンガー家のアーリア。お呼びに預かり参じました」
門番に向かってアーリアは手を軽く左右に広げ、片足を出し膝を曲げて腰を低くする。
ポンギーも慌てて同じようにした。名乗るのを忘れたのはド緊張してるせいだ。
「これはこれはアーリア様…相変わらず我々のような者にまで礼を尽くさずとも…」
「良いんだよ。ボクはグランリュミエル家に仕えているんだから、これくらい常識さ」
「そんなことはございません…アーリア殿のお振舞は良識です………はて?
お一人でいらっしゃると伺いましたが…?」
「ああ…彼は彼でクリエお嬢様から招待状を個人で受け取った
レパン村のポンギーくんだよ」
「ぁ、どぅも…! 僕はこぅぃぅもので、す…!」
前世の社畜時代によくやってた名刺出しのように招待状を突き出してしまうポンギー。
「では失礼…確かにこれはお嬢様の………直筆に、捺印…!?」
「あの…何か不備でも…?」
「ととととんでもございません! ようこそポンギー様! っておい早く門開けろ!」
門番たちは慌てて開門する。
「お嬢様からの招待状って…本当にお嬢様からのだったのかい?」
「え? そうなの…なんですか?」
「ふふ…もうボクもキミも格としては同じなんだ。そんな口調じゃなくていいよ」
アーリアのイケメンっぷりにまた変な気分になったポンギー。
とりあえずギーの頭を軽くモフって正気を取り戻しつつ、
グランリュミエル邸内へと足を進めた。
「……畑と家を合わせたって僕の家の敷地面積の十倍はあるな」
全体で何ヘクタールくらいあるんだろうかと計算してみたが、
非生産的な気がするのでやめたポンギー。整えられた石敷きの長い長い道路を
進んでいった先に身長3メートルくらいの巨人でも余裕で通れる大きな扉が現れた。
物怖じせずノックするのはアーリアで、実は2秒くらいフリーズしてたポンギー。
現代地球でも同レベルの誂えるまででも相当な金と労力がいるのだから、
中世ヨーロッパ程度の文明ではどれだけの金と人材が掛かってるのか想像したら
それだけで正気を保てなさそうだったせいだ。
「ようこそいらっしゃいました、アーリア様」
「やあデュカス。元気そうで何よりだね」
本玄関先で応対したのは思わずセバスチャンだ!
と口走りそうになったザ・執事おじさん。メイドさんも後ろに何人かいた。
断じてコスプレではない格好は、その生地のつくりなどをよく見ればズブズブの
素人でない限り誰でもわかる…と、言いたくなるくらいシッカリした服装だ。
「お連れの方は…?」
「あ、ぼ、僕はこういう者です」
ポンギーは執事デュカスに招待状を見せた。
「ご無礼をお許しくださいポンギー様。本日はようこそ御出で下さいました」
「あぁあ、えぇと…こ、こここちらこそ本日はお呼び頂かしまして光栄でございます」
ポンギーの言動にクスクス微笑むアーリア。冷や汗が滝のように噴出したポンギー。
ちなみに玄関を抜けた先には広い客間があり、そこには
いかにもな両サイド階段とか絵画とかツボとかシャンデリアは流石に無いけど
貴族か金持ち以外ありえねぇ内装が広がっていた。
「デュカス! なぜ私に言わないのですか!!」
そう言いながら階段からテトテト降りてくるのは…ファーストコンタクトから
三年経った割には髪の毛以外あんまり変化が見て取れないクリエ。
「お嬢様。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうなのです。アーリア」
アーリアにギュッとハグするクリエ。
「うわぁ、なんか凄い絵になる…若き勇者と幼い姫みたいな…」
「? もしかして、ポンギーなのですか?」
「フォォウ?! あ、ど、どうも本日はお呼び頂いて――
「挨拶は良いのです。今日は遠路遥々ありがとうなのですポンギー」
「いえいえ! 僕のほうこそお嬢さm」
「普通にクリエで良いと私は昔言ったですよ?」
「あ、ごめん…。僕のほうこそクリエに呼んでもらえて…凄く、嬉しいよ」
とりあえず次の言葉を探そうとしていたポンギーなのだが、
こういう時にどういうわけか指がぺろぺろちゅぱちゅぱじゅるじゅるされるもんだから
ちょっとイラっとしたポンギーは
「ああもう何だよギ…「わふ?」
ギーはおとなしく座ってた。しゃぶられている側とは見当違いのほうに。
「………」
ギギギギギギギギ…と音がしそうなレベルでしゃぶられている側を見るポンギー。
「あむ…はぷ…」
なんか頭に触覚っぽいものが生えてて瞳が複眼っぽく見える女の子が
ポンギーの指を絶賛じゅるじゅる中。
ポンギーは頭がスパークした。
「き、キルケ…キミ…」
「何を…しているです?」
「…………………………………………………ぷは」
「(いとひいてるどうしてぼくはなめなめされてたのかいみわからないなにこれなにこれというかこのこだれしらないむしっぽいかわいいけどなんでぼくのゆびなめてたのなにこれなにこれどうしろどうするどせばいってよわさしゃべんねぇでけろじゃ――)」
「しっかりしたまえポンギー!」
アーリアに肩を叩かれて正気に戻るポンギー。
「ハッ?! わはながなんつってっかわがんねじゃ」
「少しすーはーすーはーするのですポンギー」
「キルケリエル! キミの言動は時たま理解に苦しむ事はあるが、これはさすがに…!」
「んー…なんかあーし的に唾つけするべきかと思っらの」
物足りなさそうに、名残惜しそうにポンギーをじっと見つめるキルケリエル。
ビクッとして思わずアーリアの影に隠れたポンギー。
「きy…ッ!! …え…と…コホン…ポンギーくん。
キルケ…キルケリエル・ハルパー=スツァブリャ左領辺境伯爵令嬢殿は
妖精族と人間族の混血で、この辺りでもあまり見ない風貌の子だけども…
まぁなんというか気に入らない人間の前では姿すら見せない子だから…
キミに対する彼女の言動は…多分ものすごく気に入られているってことだから…
悪く考えないでくれると、彼女の友人として嬉しいんだけど」
アーリアの親切丁寧な紹介も脳内スパーク中のポンギーにはマトモに入ってこない。
「(気に入られ…もしかして、餌に見られ…ヒィィ!)………!!」
しかもさりげなくキルケリエルはクリエの親である伯爵と
互角以上の格をもつ辺境伯の娘ときたもんだ。おっかなびっくりしない理由がない。
「ポンギー…ポンギー…レパン村のポンギー…忘れない、覚えら」
何気にキルケリエルにギュッとされたポンギーだが、
色々と考えすぎてしまい、体が固まって反応できない。
結局落ち着くまでに小一時間かかったが、クリエのお誕生会は
前世で一回だけ御呼ばれしたお誕生会の比ではないレベルで楽しかったし
新たに騎士爵の子アーリア、辺境伯の娘キルケリエルとも縁ができたので
帰宅後に両親やら村長やらに楽しかったかと聞かれれば、
楽しくないといえば嘘だよと答えるポンギーだった。
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