Rank1「魔法でハイテンションも、ステータス直視で現実を知る」
本当は次話も連投したかったですが、できませんでしたm(__)m
世界暦1191年 第九使徒の月 一週 火天の日
エーテリウス連合王国のグランリュミエル伯爵領の『開拓者レパンの村』…
高森本義こと、ポンギーが大人達の会話を寝たふりしながら
(たまにガチで寝たこともあったが)聞いた自分が暮らす村の名前だ。
「この間の夏は暑かったからな、今秋の小麦の収穫は間違いないだろう」
「病気とかも無かったわね。今年は美味しい麺麭がたくさん焼けそうだわ」
今ポンギーを抱きかかえながら喋る女と
その連れ合いの男がどうやらポンギーの両親らしい。
男の名前はシモ。女の名前はミレイユ。名字は無く、それぞれが
「~の子○○」と言った風なもので、名字がある者は基本的に貴族などの
由緒ある家系の証なのだとか。名字持ちのほうがむしろ平民寄りになる日本とは
そこのところが違うようだ…と言うか凄く…中世ヨーロッパ風です…。
「うぅ~…(畜生…腹が減った…だが、アレは…アレだけは…)」
「あら? ねえシモ。ポンギーがお腹空いたみたいだわ」
「ん? そうなのか? …じゃあ俺は外にでも出て小麦の様子でも見てくるかなぁ」
「行ってらっしゃい。羊達の様子もお願いね」
「おう、任せとけ」
席を立って部屋から出ていくシモ。
もう少し粘ってくれてもいいんじゃないかお父さん。
そんな事を思いながらもミレイユは上着をたくし上げる。
「ミルクの時間ですよ~」
「あ~ぅ…(早く歯が生えてくれ俺…! 何が悲しくて母乳なんか…!
自分の母親なんだろうがそうは思えないから色々とキツイんだよ…!
オムツはまあいい。出し切ったら泣き真似して呼べばいい…情けなくても耐えられる…
だが、授乳だけは色々とキツイ…! 色んな意味でものすごく吸いづらいんだよ!
何で俺の新しい母親は無駄に美人なんだよ!)」
強く吸うとミレイユが変な反応をするから余計キツい。
そして時々それを覗き込むシモと目が合った時の微妙さは何とも言えない。
「んぐ…んぐ…(…今日はマジメに何処かに行ったのか…良かった良かっ…
…またかよ今のお父さん!)」
……数年後ポンギーに弟妹が増えるが、それはまだ関係ないことだ。
世界暦1191年 第九使徒の月 一週 大日の日
この世界に新たな生を受けて(?)数日。
大人たちの会話に耳を傾けてて分かったことがある。
聞こえてくる言葉は確かに聞いたことのない異国語なのだが、
「きちんと内容が理解できる」のだ。残念なことに文字に関しては
キリル文字でもギリシャ文字やアルメニアアルファベットでもなく、
ましてやフェニキア文字やサンスクリット文字にも似つかない文字…は言いすぎか、
だが見覚えのない文字で、ここが「異世界かもしれない」ということだ。
「むぅ~(歩けるようになればその疑問も多少は解決するんだろうが…)」
今のところハイハイが限界だ。
そして自分からベッドの外へ出ることなどさらに不可能だ。
「(やはり脳付近の成長は早いな…言葉は既に喋れるだけの造りに成長したが…
体の成長ってのは思っていた以上に意外と遅いもんだなぁ…)」
これまでの赤ん坊からやり直している生活でポンギーが分かったことは幾つかある。
一、耳から入ってくる言葉は間違いなく異国語も「きちんと理解できる」こと。
驚いたことに村ではエーテリウス語、アルダント語、ガルマー語にククルカ語と
行商人が行きかうが故なのか隣国語を含めた四種類もの言語が話されているのだ。
ちなみに話し言葉なら全部理解できるのがありがたい。
多重音声っぽく聞こえるのが多少イラつくが。
二、「見たことのない文字」が、常用文字であると言う事が判明して
ここが間違いなく日本じゃないということ。
三、そして今の生母ミレイユが薪に火を点ける際に一切の道具を使うどころか
「指先から小さな火を出した」のを目の当たりにして…
「魔法?!」
ベビーベッドから身を乗り出しそうになったポンギーはハッとして口を閉じる。
幸いミレイユは能天気に「気のせいかしら?」と何処吹く風で
厄介な展開になることはなかったが、何にせよここは昔は憧れた異世界であることは
間違いないと言う事を知り、面にこそ出さないがポンギーは
「(良いじゃないか…! 楽しい世界が広がってきたじゃないか…!
あのクソみたいな前世と本当の意味でサヨナラだ! イヤッホォォオオオウ!
ざまあぁみさらせぇえええええええええええええええええええええええ!)」
超、ハイテンションだった。
世界暦1191年 第十二使徒の月 二週 水天の日
あれから三ヶ月…ポンギーのテンションはダダ落ちだった。
「自分の能力が見れるとか……
これ何てヌルゲなチート能力だと思っていた……そんな時期が僕にもありました…」
傍に大人がいたら乳児が喋っている云々で大変なことになるだろうが、
ココには自分と同じ乳児が何人かお昼寝しているだけなので何も問題ないだろう。
「………」
ポンギーは目を瞑って念じた…するとポンギーの目の前にウィンドウが展開される。
____________________________
名:ポンギー(0)『シモとミレイユの子ポンギー』
格:1
命:3
心:1
体:1
技:1
力:1
守:1
ウィンドウの内容を全部見る前に閉じるポンギー。
「まぁ乳児ですから…? それも普通なんだと思ってましたよ…?」
ポンギーは隣で涎まみれの顔で寝ている赤子を見て念じた。
ポンギーの目の前に今度は色違いのウィンドウが展開される。
____________________________
名:ガンタス(0)『クルトとアリサの子ガンタス』
格:1
命:8
心:2
体:7
技:3
力:8
守:5
やっぱりウィンドウの内容を全部見る前にそっ閉じするポンギー。
「また…ハードモード人生かよ…」
他の赤子のステータスを見てはため息ばかりのポンギーだった。
世界暦1194年 第二使徒の月 四週 月天の日
流石に乳児の段階で絶望するのはマヌケにも程があると思ったポンギーは、
三歳を迎え、そこそこの距離を歩けるようになった体を活用して
数多くの村人や同年代のステータスを見まくってその平均を割り出し、
「俺…平均3…村全体…平均17…村の子供…平均7…クソが…」
改めて己のステータスが酷いことにガッカリする。
ステータス画面も心の防衛本能なのか流し見しかしていない。
「無理して筋肉付けようにも、すぐ疲れるし…
ましてケガなんかしたら家に缶詰…どうしろと…?」
村のそこら辺で笑えるほど採れる甘草の根っこを齧りながら独りごちるポンギーが
何か小さな包みを持って何処かへ行こうとする今の父シモを見かけたのはその時だ。
「おとーさん…? どこ行くの?(幼児モード中)」
「おおポンギー。何、ちょっとそこまでコイツを捨てに行くんだ」
シモの持つ包みはモゾモゾ動いている。
「ナニをすてに行くの? しにかけたモンスター?」
「ああ、そんなものだ」
今更だが魔法があるだけあってこの世界はモンスターもいる。
だから村の猛者等が周辺の魔物を狩って売って食って…なんてことも珍しくない。
何気に怖いのは牛や羊といった家畜や犬猫もモンスターに属するので油断していると
地球の十倍以上の確率で死ぬ。だから大して気にも留めずにおこうかと思ったのだが…
―きゅーん…くぅーん…―
「父さん! その包みの中身ってわんこ…仔犬だねっ!?」
「やれやれ…お前は耳ざといんだな…ああ、こいつは仔犬だ…
だがあまりにもモンスターじみた姿をしてる…」
前世からポンギーは犬が好きだ。
色々あって結局前世で生きるうちにはついぞ飼えなかったが。
だからポンギーはものすごく目を輝かせる。
するとシモが仕方なしとポンギーに蠢く包みを開けて見せた。
「きゅーん…」
「牧羊犬の仔犬として生まれてきた筈なのに
恐ろしい形相をしているだろう…?
最悪オルトロス種に変異するやもしれんからな…」
シモはそういうが、ポンギーはこのぶっちゃいくな仔犬にそんな恐怖を感じなかった。
というかポンギーにしてみれば黒いナポリタンマスチフに似ている程度のレベルだった。
くどいようだがこの世界では犬猫もモンスターを飼いならして家犬、家猫とする。
そしてポンギーの異世界経験談から言わせてもらうと、この世界では
人間ですら亜神族などにチェンジリング…または「種の限界突破」…
すなわち進化してしまうのが普通らしく、そのため一見ただの犬猫でも
仔がいきなりサーベルタイガーだのフェンリルといった
ヤバイ種に進化することもよくあるそうだ。故にシモは捨てると言っているが
実際はポンギーや子供たちの眼の届かないところで殺処分するのだろう。
そして賢い子どもは人に慣れることがまずありえない種に対する対応は
それが最善なのだとすぐに気付く……ただしポンギーはその辺が異端だった。
「………」
ポンギーはぶちゃいく仔犬を撫でまわしながら仔犬のステータスを見る。
____________________________
名:名無し(0)『戦狼の血族』
格:1
命:16
心:8
体:13
技:9
力:1
守:1
「(人に慣れない…? わんこだぞ? 人の相棒という
最高の天命を与えられたワンコが…慣れないなんてありえねえ!)…
おとーさん! 僕セキニンもつよ! ちゃんと面倒見るよ!
一緒にも寝る! このわんこは僕が飼う!
(そしてクソ弱い俺の頼もしいボディーガードに仕込む!
無論一日中愛情を籠めて超モフりながらッ…!)」
渋い顔をしたシモをポンギーは必死に説得した。
説得しながらポンギーは仔犬にムツ☆ロウさんが如く
自分の匂いを思い切り覚え込ませた。シモが兜を脱ぐのは一週間ほどかかったが、
ぶちゃいく仔犬ことギー(由来は自分の名前の半分)は晴れてポンギーの愛犬となる。
ギーをちょっと中毒者じみたレベルでモフモフしながら純情な子供を装って
魔法が使える村人たちに聞きまわったポンギーのテンションは最悪だった。
「詠唱」+「想像」+「魔法名を宣言」=発動
この図式を知った時はテンションが軽くリミットブレイクだったが、
まず詠唱の為の呪文の発音が難しく、日本語にはあまり要素が入っていない
「母音交替現象」や「末子頭母音一体化発音現象」といった法則や
「四声八調発音」などと言う同じように聞こえるが
最低でも32通りの微妙な発音の違いがある
ポンギー的にはクソふざけたルールの存在があるが故に
魔法の魔の字の領域にすらたどり着けなかった。
「ギーをモフモフしていなかったら僕の心はとうの昔に折れてたお」
ギーはポンギーの顔をベロベロ舐めてくる。
母乳代わりに与えていた乳粥臭かった。
でも気にせずギーをモフモフした。
世界暦1201年 第四使徒の月 一週 木天の日
しかしながらここは農村。家の手伝いを終えれば時間は作れた。
ギーを連れては時々超小型モンスター(虫)や小型モンスター(ネズミ級)達相手に
何気に使えるスコップを振り回して戦いながら魔法の練習をする。
他にやる事というかやりたい事も無いので
かなりの独学+ルーチンワークになってしまったが、ポンギーは
心が折れそうになるたびギーをモフモフヒャッハーして耐え忍ぶ。
そんな事を繰り返しながら七年ほど経ったある日…ポンギー10歳、ギー7才のある日…
「よし、今日はこの辺で十分だ。遊んできていいぞポンギー」
「うん。じゃあ行くぞギー!」
「ばふ!」
____________________________
名:ポンギー(10)『シモとミレイユの子ポンギー』
格:7
命:17
心:8
体:7
技:55
力:6
守:3
ポンギーの激弱ステータスは相変わらずだったので
相変らず防衛本能で流し見だったが。
____________________________
名:ギー(7)『戦狼の血族:ポンギーの犬』
格:27
命:476
心:115
体:358
技:199
力:226
守:154
加護:『戦狼の勘』『毒耐性CCLVI(256)』
「すげぇな…ギーは……ん?!」
愛犬ギーのマジパネェステータスを見て「加護」という項目が目に入った時
ポンギーは自分のステータスも見直すことにした。
____________________________
名:ポンギー(10)『シモとミレイユの子ポンギー』
格:7
命:17
心:8
体:7
技:55
力:6
守:3
加護:『流転者』『遅成長』『貧弱』『精神弱者』『神呪』『苦行の果て――
が、やっぱり防衛本能が働いて最後まで見るのをやめた。
「オゥイェ~…僕ハ何モ見テナイ~…」
「くぅん…?」
頬を伝う涙をギーがべろんべろんと舐めとってくれなかったら
ポンギーのメンタルは豆腐の如くグッチャグチャに潰れていたかもしれない。
泣いては舐めとられ、泣いては舐めとられ、十数分後、
とりあえず気を取り直して村はずれにある湖でいつものように
頑張って魔法の練習をすることにした。
「アインツう゛ェ…もう一回」
…。
「クリシュナーダ・オラシオンセイじゅ…もう、一回」
…。
「ヴァルドヴァロン・エグザイア・ヒュペリオンエクせぇっくしょん!
………僕はもう心が疲れたお」
ふと足元を見ればギーは気持ちよさそうに寝ていた。
時々聞き耳は立てているようだが、それでも気持ちよさそうな寝姿だった。
「僕も寝る…」
ポンギーもギーのそばで横になる。
するとギーが起きてポンギーの胴体近くに座りなおしてきた。
「小一時間ほどおやすみ…」
「わふ…」
一人と一匹は仲良く眠り始めた。
……。
…。
ぱちゃぱちゃと水音がしたので、思わずポンギーは飛び起きた。
ギーも同時に飛び起きる。
「魚のモンスターかっ!?」
「ばうぅ?!」
ポンギーの視界に映ったのは湖を跳ね回る魚型モンスターなどではなく、
一糸纏わぬ全裸の幼女だ。
ポンギーの思考と心臓が一瞬止まる。
脳裏に「レパン村の少年ポンギー。水浴び中の幼女を襲う」とか
「幼女襲われる、犯人は貧弱野郎ポンギー」だの誤解も甚だしいタイトルが
一面を写した新聞がバタバタバタバタと印刷される様が浮かぶ。
そして召し捕られて引っ立てられていく顔モザイクな自分自身も想像してしまい
「?」
水浴びしてた幼女が自分の存在に気づき、
「ああもう俺の人生ここでヲワタ」と思って全身から血の気が引くポンギー。
「どうかしましたです? 具合でも悪いですか? お顔は洗うですか?」
バカ丁寧である種ピュアピュアな返しをされるなんて思わなかったので
今一度ポンギーは思考と心臓が一瞬止まった。
「ばわふ!」
ギーの一吠えが無かったらポンギーの頭は完全にパンクしていただろう。
…。
ポンギーは表面上は平静を保ちながら、青ざめた自分を心配そうに見る全裸の幼女に
「君こそそんな恰好では風邪を引いてしまうよ。服を着なよ」と着衣を促す。
「どうも御親切にありがとうです」
幼女は存外遠くに畳んで置いてあった
自分の服を思ったよりも素早く着替えた。
着替え終わった幼女の佇まいは、
よく見る近所の人とは段違いのレベルで気品が漂っている気がした。
「お散歩をしていたらとても綺麗な湖を見つけたのです」
「でもいきなり水浴びってのは…その…色々と危険な気が…」
「汗を掻いたのです。汗で服を汚してはお母様やばあや達に申し訳が立たないのです」
話しぶりからして間違いなく地元の子じゃないどころかこちら側からしてみれば
間違いなくやんごとない感じの方々のご息女だよねコレは…!
何て考えながら暖かい時期なのにうすら寒くなってきたポンギーは
とりあえず彼女を村まで送ったほうが良いと判断して送ることにした。
………。
……。
…。
道中色々話をしてみれば、ポンギーの予感はバッチリ的中した。
というか幼女が「私の名はクリエ。姓はグランリュミエルです」
何てさっきのほわほわ感は何処にやったんだと言いたくなるくらい
すごくお嬢様らしく畏まって名乗られたのだ。
これで気づかないほどポンギーもバカじゃない。彼女はポンギーの村も含め、
この地域一帯を治めるグランリュミエル伯爵の娘だったのだ!
だからこそ村に帰ってきた時にほとんど見ることのなかった騎士だの
グランリュミエル家の旗だのザ・執事、ザ・メイドさんズとかを見て
ああもうこれフラグ過ぎて死ねるな…とまた己の窮地を覚悟したポンギーだったが、
「ポンギーにはとてもお世話になったのです」
クリエの一言でグランリュミエル伯爵家関係者一同から超感謝された。
しかしポンギーとしては複雑な気分だった。
前世で色々と責められすぎたせいなのかもしれない。
「またいつか会えると良いのですね。魔物使いのポンギー」
「あ、うん……いやちょ僕のギーは魔物じゃ」
「余計ナ事ヲ言ウンジャナイぽんぎー」
「失礼デスヨぽんぎー」
「父さん母さんガッチガチ過ぎだよ!?」
ちなみに弟のムントと妹のリマは逆にほげーっとしてて
コレはコレでどうなんだと思ったポンギー。
「あ、と…グランリュミエル伯爵令j」
「クリエで良いのです。今度遊びに来た時にはまた面白いお話を聞きたいのです」
「あ、はい…僕の話で良ければ…」
馬車から顔を出して見えなくなるまで手を振ってくれるクリエを
見送りながら、ポンギーは中身が中身なので打算的に
グランリュミエル家と知り合いになれたことが果たして吉と出るか大凶とでるか
存外眠れない日々が続いたポンギーだった。
続く