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怪盗ルナレク (3:2が理想。合計五人)

作者: 七菜 かずは

怪盗ルナレク(タイトル仮名)


■役表

アレク  男 :

ルナ   女 :

シバ   犬 :

ここな  犬 :

ディアル 男 :


■CAST(3:2が理想。合計五人)

・アレク

王国の王子さま。正体は、怪盗アレキサンダー。とあるワインを飲む為に、怪盗として盗みを働いている。一人称、俺。自己中心的。俺様。


・ルナ

正体は強気な怪盗、チェルシー。

花屋の時は、凄く優しい普通の少女。(猫を被っている)

一人称、私。とあるワインを全て割る為に、怪盗をやっている。相棒のここなが大好き。


・シバ

ブルーグレート・デーンという種類の大型犬。人間の言葉を話せる。全身真っ黒。大人。4歳。アレクの愛犬。おとこのこ。(性転換可能)

一人称、僕。ここなのことが大好きだが、片想い。

城壁を守っている門番と兼ね役。


・ここな

ルナの愛犬。白い柴犬。子犬。可愛い。1歳。人間の言葉を話せる。おんなのこ。(性転換可能)

一人称、あたし。主人のルナが大好きで、二人は親友のように仲良し。しっかり者。勉強好き。ルナの為に、魔法の勉強を沢山している。


・ディアル

紫屋根の屋敷に住む青年。医者。アレキサンダーとチェルシーが狙っているワインを、100本以上所持している。

一人称、私。俺様。自己中心的。






■開幕


 いつものお昼。

 広場では、花屋や、雑貨屋、靴屋、色んな屋台が出ていて、町は賑わっている。

 綺麗で、平和な町。

 川に囲まれて、石畳の道と、美しく連なる花壇が町の印象を更によくする。


 この国の王子様。アレクが、今日もいつもの時間に、町の花屋にやってくる。


アレク「ねえ。花が一輪欲しいんだけど」


ルナ「っ!」


アレク「ね」


ルナ「き、今日は、どのような花をお探しですか?」


アレク「うーん。今日はそうだなあ……」


ルナ「薔薇や、ダリアはいかがでしょう?」


アレク「ああ、とても綺麗だね」


ルナ「でも、どうしていつも……」


シバ「王子ーっ!」(遠くから駆けてくる)


アレク「あ、シバ」


シバ「もーっ! 何してるんですかっ! うろうろしないで下さいいっ!」


 シバ、アレクの周りをぐるぐる回って。


アレク「あはは。ごめんごめん。すぐ行くから」


ルナ「あれ。その大型犬って……」


アレク「ああ、喋れるんだよ。ようやくね、魔法かけて貰えて」


ルナ「そうなんですか。良かったですね」


アレク「でも、試験何度も落ちちゃってさ。本当に大変だったんだ。お手が出来なくって」


ルナ「ふふ。へえ……。でも、大型犬は頭がいいって言いますよね?」


アレク「そうなんだけど……」


ここな「何よあんた、やっと言葉を話せるようになったの?」


 屋台の下側、幕がかかていた所からくいくいと小さく顔を覗かせるここな。


シバ「あっ。ここなちゃん! ここなちゃんだっ! わーいっ! べろべろべろ」


ここな「ちょっやめてっ! 舐めないでっ!」


アレク「あはは。大好きなここなちゃんに会えてよかったなぁ。シバ」


ここな「ちょっと王子。いい加減その名前、どうにかしたら? そいつ柴犬じゃないのに、シバ、なんて可哀そうよ!」


アレク「えっ。そう?」


ここな「そうよ! あんたね、柴犬っていうのは、そんなバカな品種とは違うんだから!」


ルナ「ちょっと、ここな。王子様にそんなこと……」


ここな「別にいいでしょ? そいつ、ルナに会うためにいつもここに来るんだし。あたしが小言言わないで誰が言うのよ!?」


ルナ「んもうっ! 王子はそんなやましい方じゃないわ! ……すみません、王子……」


アレク「あっ、ははっ。いいんだよっ。……本当のことだしな……」


ルナ「えっ?」


アレク「あっ、ち、違っ」


シバ「ここなちゃーんっ!」


ここな「寄らないで!」


アレク「あっ。とりあえず、これ! 一輪貰っていいかな?」


ルナ「あ、はい。4ゴールドです」


アレク「はいっ! 丁度ね!」


ルナ「ありがとうございます」


ここな「うんうん。例え王子であっても値引かない。そんな所が好きよ。ルナ」


ルナ「あはは……。だって王子、値引くと怒るんだもん」


ここな「さっさと城に帰りなさいよ。ほら、ほらっ」


シバ「あうう、ここなちゃんと遊びたいのにー」


アレク「また今度な。……じゃあ、ルナさん。また明日」


ルナ「はい。また明日っ」


シバ「ここなちゃん、今度お散歩に行こうねーっ!」


ここな「絶対イヤ。さっさと行って」


 王子とシバ、お城に帰っていく。


ルナ「はぁ……。ここな、冷たくない?」


ここな「いいのよ。調子に乗らせたくないの! バカには」


ルナ「ここなは産まれてすぐに、魔法かけて貰えたのにね?」


ここな「知能が違うのよ。知能が」


ルナ「シバくんて、何歳なのかなぁ」


ここな「2歳半」


ルナ「えっ、2歳半!? ……あんなに大きいのに」


ここな「人間とは違うんだってばっ」


ルナ「そっか。そうだよね」


ここな「まあでも、魔法屋のポチさまは、今年で100歳らしいわよ」


ルナ「え!? 犬の限界超えてるねっ」


ここな「人間の限界も越えてる気がするけど」


ルナ「へえ~。妖精とか、精霊とか、そんな感じなのかな」


ここな「ふぅ……」


ルナ「ここなお昼何がいい?」


ここな「そんなことより。稼がなきゃ! あたし、欲しい辞書があるのよ」


ルナ「相変わらず勉強家ですこと」


ここな「そりゃそうでしょ。いつこの町を出て行くかわっかんないのよ?」


ルナ「っ……ごめん」


ここな「違うわよ、謝んないで。あたしは、この町で会得出来るものは、全部会得してから、次の町に行きたいだけよ」


ルナ「……私の為?」


ここな「そうね。まあ、……そっ、そうねっ!」


ルナ「ふふ。嬉しい。……ありがと。とりあえずなんの魔法かけられたいの?」


ここな「延命魔法と、人間化魔法」


ルナ「おお……」


ここな「このままじゃあと十年くらいしか生きれないし」


ルナ「っそれはイヤ!」


ここな「でしょ? それにね。人間になったり犬になったりが自由に出来るようになれば~」


ルナ「ここなと一緒にショッピングが出来るっ」


ここな「えっ?」


ルナ「わぁ~。それってすっごい嬉しい。ほら、服屋さんとか映画館ってさ、犬はインフォメーションに預けないといけないでしょ? あたしそれが凄く嫌だった」


ここな「……ルナ……」


ルナ「楽しみ!」


ここな「ふふ……」


ルナ「……でもさ、延命魔法と人間化魔法って、流行ってるから。他の国でも出来るんじゃない?」


ここな「ん、まあ、多分ね」


ルナ「んー……」


ここな「ま。ここにどれくらい滞在するかは、ルナと“チェルシー”の働きぶりにかかってますのでね?」


ルナ「ううっ……。は、はいはいはいっ。わかってますよっ」


ここな「……今夜はどこに?」


ルナ「一丁目の紫屋根のお屋敷」


ここな「予告状は?」


ルナ「朝ポストに出したっ」


ここな「じゃ、後は行くだけね」


ルナ「うんっ」


ここな「お腹減ったわ」


ルナ「……今日は、鉄火丼にしよっかな?」


ここな「まじ!? ひゃっほー!」


ルナ「ふふ。お向かいの海鮮屋さん好きでしょ?」


ここな「あそっこはほんっと、犬にもサービスいいしね!」


ルナ「あははっ! だね~」






 夜中。近くで、ガラスが割れる音が響く。


ディアル「出たぞーっ!! 怪盗アレキサンダーだーっ!!」


ルナ「っ!?」


ここな「またアレキサンダー!?」


ルナ「……行こう」


ここな「チェルシー。気を付けてね」


ルナ「うんっ」


ここな「いってらっしゃいっ!」


 怪盗姿で、紫屋根の家に忍び込む、ルナ。

 ここなは、屋敷の入り口付近に、身を潜める。


ルナ「っと。……不用心ね。窓が開いてる……」


 ルナは、露出の高い黒いドレスを着ていて。顔の上半分は、仮面を着けている。

 怪盗チェルシーの時は、花屋の時とテンションや喋り方が違う。目つきや口調が、少しきつくなる。色気もたっぷり。


ディアル「っ誰だ!?」


ルナ「っ……。こんばんは。貴方がこのお屋敷のご主人?」


 部屋の扉の前に立っていたディアルの前に歩いて行くルナ。


ディアル「……っああ、そうだ。君がアレキサンダー?」


ルナ「私はチェルシー。予告状、読んでくれなかった?」


ディアル「予告状……?」


アレク「君の予告状は、俺が燃やしたよ。怪盗チェルシー」


 窓際に現れる、怪盗アレキサンダー。 


ルナ「っ!?」 ディアル「!?」


アレク「俺は怪盗……」


ディアル「アレキサンダー!?」


アレク「ご名答。さぁて……あんまり長居出来ないんだ。この屋敷の宝、貰うよ」


ルナ「まっ待ちなさいっ!」


アレク「待てないねっ」


ディアル「っこの屋敷には、宝なんかないっ!」


アレク「いや、ある! そのセラーに入った……ヴィンテージ005(ゼロゼロファイヴ)!」


 ワインセラーを開ける、アレキサンダー!


ルナ「ッ!!」


 ルナ、アレクと同じものを狙う!


アレク&ルナ「乙女の結晶!!」


 同時に掴む!!

 掛け合いはスピーディーに。


アレク「……っ放してくれ」

ルナ「あんたが放しなさい!」

アレク「これをどうしても飲みたいんだ」

ルナ「こんな不味いモノ、飲みたいですって!?」

アレク「不味いだ……?」


ディアル「け、警察を……! っ! そこでちょっと待ってろよ!?」


 ディアル、一階へ降りていく!


ルナ「――っ!! こんなものに価値はないわ!」


 二人、ワインから手を放さない!


アレク「いや! これこそ至宝! 幻のワインだ! もう造られることのない、魔法と命の……!!」

ルナ「ッうるさい!! っ!」(アレクの腹を蹴る)


アレク「がっ!!?!」


 アレク、咳き込み、蹲る。 


ルナ「はっ! あんたみたいなバカな酒好きが居るからっ……! こんなものが無駄に重宝されてしまうのよっ!」


アレク「待……てぇっ!」


ルナ「じゃあねっ! 鈍臭いバ怪盗っ!」


アレク「待てっ!!」


 アレク、無理やりルナを捕まえる!!


ルナ「きゃっ!?」


アレク「っ逃がすか!」


ルナ「ッ!!」


アレク「こっちに渡せッ!!」


ルナ「重い……っ! バカ、どいてよっ!」


アレク「それだけは渡せないっ!」


ルナ「それはこっちの台詞よ!」


アレク「ッ! 顔を見てやる! (ルナ「っ!」) こっちを向け! オラッ!」


 アレク、彼女の上に跨り。彼女の仮面を無理矢理剥がす!


ルナ「イヤっ!! 何すんのよスケベ! あんたの顔も見てやるわっ!!」


 ルナ、抵抗し。アレクの顔を勢いよく引っ掻く!


アレク「ッ!」


 二つの仮面が宙を舞い――。月の目の前でぶつかり合い、屋根を転げて下に落ちていく。


ルナ「――!! ……王、子……?」


アレク「君は……! 花屋の……」


ルナ「ッ!!」


 ルナ、アレクの頬をぶっ叩く!


アレク「ぐぁッ!!」


 アレクの顎を強引に持ち上げ、その場から逃げ出すルナ。


ルナ「っ!」


アレク「待――……くっ!」


アレク「クソ……っ! 覚えてろよ……!」






 紫屋根の屋敷の裏。


ルナ「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


ここな「ルナ!」


 ここなが、足を引き摺るルナに駆け寄る。


ルナ「ここな……」


ここな「大丈夫!? あっ。今回も無事に回収出来たのねっ!」


ルナ「う、うん……一応ね」


ディアル「誰かそこに居るのか!?」


ルナ&ここな「っ!?」


ルナ「ここな、隠れてっ!」


 ライトで照らされるルナ。


ディアル「……! 怪盗……!」


ルナ「っ!」


ディアル「怪盗チェルシー、だったか」


ルナ「……あーあ」


ここな「(ルナ……!)」


ディアル「どうして逃げない?」


ルナ「どっかのバ怪盗のせいで、足ひねっちゃってね」


ディアル「こっちか?」


ルナ「痛っ!!」


ディアル「見せてみろ」


ルナ「っ触らないでっ!! ――ッ! つ――!」


ディアル「腫れてるな。……手を貸してやろうか」


ルナ「ちょっちょっとっ! 何するのよ!」


 ディアルの顔をひっぱたく!!


ディアル「ッ!! …………」


ルナ「あっ……! ご、ごめん、強く叩き過ぎた……。あ、あの……」


ディアル「っ怪我人は大人しくしてろ!!!!」


ルナ「っ!? ハッハイ!!」


ディアル「……私は医者だ。黙って身体を預けろ。そんな無価値のワインより、人の命のほうが大事だ」


ルナ「ひとのいのちって……。別に、ただ足ちょっとひねっただけで……」


ディアル「気付いてないのか。頭から血が出てる。どっか小枝か何かで切ったんだ。……っと」


 ディアル、ルナを抱っこする。


ルナ「っ!」


ディアル「死にたくなかったら、言うことを聞いた方が身のためだ」


ルナ「わ……わかったわよ……」


ここな「きゅうん……」


ディアル「そこの子犬はお前のか」


ルナ「あ、う、うん」


ディアル「こっちに来い」


ここな「っ!」


ディアル「心配するならこの子の側で心配しろ。安心していい、この屋敷は動物は大歓迎だ。私は特に、犬好きでな」


ここな「中に警察が居るんでしょう!?」


ディアル「警察なら、全員アレキサンダーを追い駆けて行った。向こうの方が、懸賞金は高いしね」


ルナ「……ここな、おいで」


ここな「っなによ。ルナになんかしたら、噛み千切ってやるわ!」


ディアル「ははっ。まだ歯は柔らかそうだけどなぁ。お前……ルナっていうのか?」


ルナ「っっ!! ちちチェルシーよ!」

ここな「そそそそうよ! 怪盗チェルシー!」


ディアル「ぷっ」


 ディアル、一階の居間に、ルナを運び。ソファにおろす。


ディアル「よ、っ、っ、っと。……あー重かったっ」


ルナ「っ!? ッ!」


 ディアルの頭を手刀で叩く!


ディアル「たっ!!」


ここな「あんた女になんてこと言うのよ!? がぶがぶっ」


ディアル「冗談だって……あたた……」


ルナ「っ。足を診るならはやく診なさいよ!」


ここな「ちょちょ待ってルナ! あんた、後日高額な請求をするつもりじゃないでしょうね!?」


ルナ「はあっ!?」


ディアル「はは。しねえよ。泥棒から金品を貰える訳がねえ。ほら、足出せ」


ルナ「っ……。どうして優しくするのよ。私、このワイン、返さないわよ。死んでも返さない」


ディアル「いいよ。別に。それと同じの、あと100本以上あるし」(治療しながら)


ルナ&ここな「っええっ!?」


ディアル「?」(きょとん)


ルナ「な……なんで……」


ディアル「んー。何故か? あるんだよね。私は酒が好きじゃねえが。先月死んだ親父が残した山のようなワインの中に、それがいっぱい……」


ルナ「っ全部頂戴!!」


ディアル「頂戴? ……はは。面白いこと言うね。泥棒なのに人に物をねだってるのか」


ルナ「っ……!」


ここな「ルナ、あいや、チェルシー! 落ち着いてっ!」


ルナ「全部あたしが盗むわ」


ディアル「やれるものならどうぞ? ご勝手に。……お前ってそんなに酒豪なのか……ほら。手当て完了」


ルナ「……っ。行くわよ。ここな!」


ここな「うっ、うんっ!」


ルナ「今日のところは退散してやるわ! じゃあねっ!」


ディアル「あっ。待て。忘れ物っ!」


ルナ「っ!? ひゃっ!!」


 ルナ、ディアルに手を引かれ。ソファに倒れてしまい。そのまま彼にキスをされてしまう。


ディアル「ちゅっ! んむ……っ」


ルナ&ここな「!!??」


ディアル「ふふっ。怪盗チェルシー。あんた、可愛くてスタイルもよくて、声も綺麗でとっても私好みだ。気に入った。私のものになれ」


ルナ「っ!! ぜったいイヤよ!!」(彼を強引に押し返し、顔を引っ掻こうとする!!)


ディアル「っと」(彼女の攻撃を避ける)


ルナ「っ……! ボランティア、ありがとっ! でも後悔させてやるわ! 必ずね!」


ここな「っルナー! まままってーっ!」


 ルナとここな、去っていく。


ディアル「ふ。……ルナ……か。金色の瞳。……まるで月の姫だ」


 ディアル、天井の吹き抜けから、満月を見上げて――。






 場転。

 ルナの自宅。

 カラスの鳴き声。


ルナ「っわああああああっ!!」


 ベッドの上で枕を抱き締めながら転がりまくっている。


ここな「ああ、よしよーし。よしよーしっ」


 泣きじゃくるルナを、宥めるここな。


ルナ「っ笑わないでよ!」


ここな「えっ!? 笑ってないけどっ!?」


ルナ「うわああああああああああああん!」


ここな「ちょっ。キスされただけでしょ!?」


ルナ「あっ、あんなっ、はじめてうぉすべてっ……うぉっうばっ、うばわれたっはじめてぇっ……!!」


ここな「大丈夫よ! しっかりしてえっ!?」


ルナ「はじめてだったのにいぃぃ!」


ここな「よしよしーよしよーしっ」


ルナ「しかも王子が……王子がぁアレキサンダー!」


ここな「ああ……。もうダメかも」


ルナ「はっ。そうだ……王子に顔面見られた……」(我に帰る)


ここな「ここに居ちゃ、捕まるかもね」


ルナ「荷物まとめなきゃ!」


ここな「そうね。骨っこつめなきゃ!」


ルナ「ああ……。でもあの屋敷に100本もあるだなんて……」


ここな「うーん」


ルナ「ほとぼりが冷めたらまた町に帰って来て盗み出さなきゃ……」


ここな「そうね。でもまあ何年かはこの町に立ち寄らないほうがいいでしょうけどね」


ルナ「……っ!!」(息を吸い込む)


ここな「何?」


ルナ「キスされたぁ!!」


ここな「えーっ!? 話戻ったーっ!」


ルナ「ドキドキなんてっ! しししししししてないしっ!!」


ここな「した、のね?」


ルナ「だって。だって突然だったし……!」


ここな「ルナ。それ以上殴ったらその枕破裂するわよ」


ルナ「王子……。ずっと好きだったのに……。なんで盗みなんか……?」


ここな「それはあっちもそう思ってると思うけど?」


ルナ「はぁ……最悪」


ここな「王子だって辛いわよきっと」


ルナ「なんで盗みなんか……」


ここな「王子もこんな風になってたりして」


ルナ「はぁ……。もう今日は寝る」


ここな「えっ!? いやいやいやいや! 夜逃げなきゃ!」


ルナ「だあってこのベッド買ったばっかだよお!?」


ここな「貴女花売りの少女の時と比べるとんもうすんごい崩壊っぷりよ!?」


ルナ「あんなんは猫の猫の被りMAXモードだしっ!!」


ここな「猫ね。はいはい」


ルナ「にゃお……」


ここな「ん? 大丈夫か? おーい、ルナ-?」


ルナ「……にゃんこになりたい……」


ここな「にゃんこに?」


ルナ「そう。猫だったら。バカでいても、ぐうたらしてても、どんなにごはん食べても、誰からも愛して貰える……」


ここな「ルナ! 人間を捨てないで!」


ルナ「人間になりたくなぁ~いっ!」


ここな「妖怪なの!?」


ルナ「お酒飲むう!!」


ここな「だめえ! しっかりして! そのワインを見なさいっ! あの苦しみを! (ルナ「っ!」)怒りを! (ルナ「っ!」)恨みを! (ルナ「っ!」)思い出しなさいっ!」


ルナ「……ワイン……」


ここな「そうよ、ルナ!」


ルナ「よし、飲もうっ!」


ここな「だめ!!」


ルナ「なんでよ~う」


ここな「もう酔ってる!?」


ルナ「ワインっていうのは、飲むためにあるんでしょが!」

ここな「チェルシーに聞かせてあげたい台詞ね!」


 アレク、ルナの家の扉をノックする。


ルナ「あんっ?」


ここな「誰かしら。こんな朝方に」


ルナ「ゆ~びんやさんだ~!」


ここな「あっ、ちょっ、ルナ!? 郵便屋がこんな時間に来る訳……」


ルナ「はいは~い。きっとすてきな……おくりもの~」


アレク「や」


ルナ「ッ!!!!」


ここな「っあああああアレク王子!!」


シバ「僕も居るよっー」


アレク「ごめん。どうしても気になって」


ルナ「ひぁぁああああああ……!」


 ベッドの下に隠れるルナとここな。


アレク「あっ! る、ルナ!」

シバ「ここなちゃんっ!」


ここな「もうダメだわ! 包囲されているわ~!」


ルナ「何よ。自分のモノをどうしようと勝手でしょお!!」


アレク「ルナ。やっぱり君がチェルシーなんだね……」


ルナ「っ!」


アレク「君にもあのワインの良さがわかるんだ」


ルナ「ワインの良さぁ……?」


アレク「ね。俺たちは弱みを握られた者同士だ。協力しないか?」


ルナ「どうして王子様なのに、盗みなんかしているんですか」


アレク「あのワインに惚れ込んでいるんだ。もう製造されていない、幻のワイン……」


ルナ「出て行って……」


アレク「ね。どうせなら協力して。一緒に飲もうよ! あのワインの良さを分かってくれる人が居なくてね。困っていたんだ」


ルナ「……っ」


アレク「だから君が同じ立場で同じ目的で盗みを働いていて。正直凄く心強いんだ。まあ勝手にそう思ってるんだけど」


ルナ「くくく……っ」


アレク「ルナ?」


ルナ「ふははっ……。やっぱりあんたも……ね。はぁーぁ……っ。――ッ!!」


 呆れて這い上がり、ベッドに座るルナ。ワインを地面に叩き付け、それを割る!


アレク「ッ!?」


ルナ「私は……これを割る為に盗んでるのよ……。こんなものを、この世から全て消す為に……!!」


アレク「なんで……」


ルナ「なんでって……」


アレク「なんで割るなんて言うんだよ」

ルナ「嫌いだからよ!」

アレク「なんで!」

ルナ「不味いし!」

アレク「君の舌がおかしいんじゃないか!?」

ルナ「はあ!?」

アレク「これがどれ程貴重なものか、わかってない!」

ルナ「わかってないのはあんたのほう!!」


アレク「っ……」


ルナ「出て行って……」


アレク「ルナ……」


ルナ「もう、私だってこの町を出て行くわ」


アレク「どうして……」


ルナ「あんたとあの屋敷の医者に顔を見られてる。呑気に花屋なんて出来ないわよ」


アレク「君が花を売る姿、好きだったんだけどな……」


ルナ「……もう消えて。目障りよ」


アレク「花売りの時はあんなに可愛らしかったのに」


ルナ「……」


アレク「残念だよ、ルナ……。シバ、行こう」


シバ「うん……。ここなちゃん、またね……」


 アレク、出て行く。


ここな「ルナ……」


ルナ「大丈夫よ。ずっとこうしてやってきたんだもの。……荷物まとめて。朝日が昇る前に町を出ましょう」


ここな「……また、同じことの繰り返しなのね」


ルナ「……もう慣れたわ」


ここな「あたしはどこまでも付き合うわよっ」


ルナ「ありがとう……」






 真夜中。三時頃。


ここな「っくしゅんっ!」


ルナ「ここな、大丈夫? 荷馬車、もっと毛布積めば良かったかな」


ここな「あいあ、大丈夫大丈夫。少し寒いけどっ。でもこれ以上荷物は増やせないわっ」


ルナ「次の町に行ったら、何かあったかい服を買ってあげる」


ここな「勉強もしなきゃ!」


ルナ「ふふ。……うん」


 城壁の門。


門番 (シバ役)「そこの者、待たれよ」


ルナ「はい?」


門番 (シバ役)「王子の命により、昨夜から一週間、城門より外へ一般人が出ることは禁止されている」


ルナ「はあ?」


門番 (シバ役)「入国は許可されているが、出国は出来ない」


ルナ「なんでよ!」


ここな「あの王子ぃ……!」


門番 (シバ役)「本日の朝刊に、詳しい理由が……」

ルナ「い・ま! 出たいのよ。いま! どうしてもっ!」


門番 (シバ役)「行商の為か?」


ルナ「そっ……そうっ!」


門番 (シバ役)「では商業許可証の掲示を」


ルナ「あい・やー……えーと」


門番 (シバ役)「持っていないのか? 売るのはその犬か?」


ルナ&ここな「売らないっ!」


門番 (シバ役)「とにかく諦めてくれ。どうしても外出したいのであれば、城に行って王と王子の印を……」

ルナ「んもうっ! 正面突破よ……っ!!」


門番 (シバ役)「ッ!!」


 門番 (シバ役)、持っていた槍の先っちょを、ルナの喉に素早く当てる!


ルナ「っ!」

ここな「ルナっ!」


門番 (シバ役)「無理やりにでも城壁を越えようとする者は、容赦なく捕えよと王子に申し付かっている。この槍の威力、味わいたいか?」


ルナ「っ……やるわね、あんた……」


ここな「ルナ……」


ルナ「わかったわっ。とりあえず引き返しましょ……」


門番 (シバ役)「恐れ入る」


 大人しく引き返す、ルナとここな。


ここな「~っ! ちょっと王宮に文句を言いに行きましょうよっ!」


ルナ「ムダムダ。捕まるだけよ」


ここな「腹立つわねっ……!」


門番 (シバ役)「あのっ! もし!」(追い掛けてくる)


ここな&ルナ「うん?」


ルナ「さっきの門番」


門番 (シバ役)「もしや君、花屋のルナ殿か?」


ルナ「え?」


門番 (シバ役)「ほら、広場の」


ルナ「……そうだけど……」


ここな「な、なに!? 逃げたほうがいいっ!?」


門番 (シバ役)「とある方より伝言を頼まれている」


ルナ「とある方?」


門番 (シバ役)「ああ。君宛てに、二つ。二人の男性から、それぞれに」


ルナ「はあ?」


門番 (シバ役)「内容は同じだ。“ワインを手に入れたければ花屋を続けろ”と」


ルナ「っ! 私に指図するなんて……」


門番 (シバ役)「“花とワインを交換してやってもいい”と、両者、言っていた」


ルナ「偉そうに!」


ここな「あの二人、繋がってるの?」


ルナ「知らないわよっ!」


門番 (シバ役)「なんのことかは良く知らないが、二人ともこの国では――」


ルナ「うっざい奴らね! あんた、今度そいつらに会ったら言っといて! あたしは花屋なんかもうやらないし、すぐにこの国を出て行くんだからって……!」


門番 (シバ役)「了解した」


ルナ「ふんっ! 行こ! ここなっ!」


ここな「う、うん……」


ルナ「むかつくむかつくむかつくっ……! 人のこと馬鹿にしてぇ……っ! 絶対に見返してやる……っ!」






 翌朝。


ルナ「いらっしゃいませーっ。あ、はいっ。40ゴールドですっ。はい、はいっ。……ありがとうございまーすっ。……いらっしゃいませーっ」


ここな「あの……。ルナ……」


ルナ「な・に・かぁ!?」


ここな「うっ! ごめんなさいっ」


ルナ「ふんっ……」


 広場で、いつものように花屋をやっているルナとここな。


ここな「どうして営業しているのかしら……」

ルナ「なにかぁ!?」(喰い気味で)


ここな「うううーっ!」


ルナ「ふん。別にあいつらの思惑に乗ってる訳じゃないわよ。私が花屋を続けてもいっかなーって思っただけっ!」


ここな「う、うーん……」


ルナ「だって! 王子はチェルシーの正体があたしが知ってるんだから。下手な真似は出来ないはずっ!」


ここな「……医者は?」

ルナ「いっ医者はぁ……!」


ここな「あの男、何考えてるかわからないわ」


ルナ「まあ、そうなんだけど。でも……。あ、あいつはっ悪いやつじゃないと思うっ! 簡単にあたしを警察に売ったりはしないっ!」


ここな「そうかしら……」


ルナ「多分!」


ここな「根拠はあるの?」


ルナ「だって、えーと、……っ! わ、ワインが嫌いだって言ってたしっ……」


ここな「えええ。それだけじゃ信じられないわよ! やっぱり逃げましょうっ!」


ルナ「でも警備厳しいしなぁ~」


ここな「はぁ……。絶対すぐに捕まるわ……」


シバ「ここなちゃ~んっ!」


ここな「うっわ」


 シバがその場に駆け付け。すぐに、アレクとディアルもやってくる。


ルナ「!!!!」


アレク「や。ルナ」


ディアル「うす」


ルナ「あああ……」


ディアル「逃げなかったの?」


ルナ「逃げられなかったの!」


アレク「あははっ」


シバ「ここなちゃん、ここなちゃん、ここなちゃ~んっ!」

ここな「寄らないで寄らないで寄らないでっ! あんたの毛がつくでしょおおおお!」


ルナ「何しに来たのよ!」


ディアル「いや~。まあ、ね。怪盗チェルシーの日常を見に?」


ルナ「絶対楽しんでるでしょ!」


ディアル「ははは。そんなことないって」


ルナ「けっ警察に言ったの!?」


ディアル&アレク「言わないよ」


ルナ「なんで……」


アレク「俺だって正体明かされたくないしね。自分の部屋に、今まで国中から盗んだワインがあるし。出来れば君と手を組みたい。……何故かあのワインに恨みがある君の、ワインに対する誤解を解いてね」


ディアル「言っただろ。私は君と結婚してぇんだ。(ルナ「え!?」)警察なんかに渡してたまるかよ」


アレク&ディアル「……」(互いを睨む)


シバ「ここなちゃんっ! 一緒に怪盗やろおっ!」


ここな「ばかっ! いやよ!」


ルナ「……王子……」


アレク「うん?」


ルナ「誤解してるのはアレク王子よ」


アレク「え?」


ルナ「私……。あのワインの味や価値なんて本当はどうでもいいの。でも、どうしてもあのワインを、……この世に散らばったあの“アンル”を、全て消し去りたい理由があるの」


アレク「それって……」


ルナ「(咳払いして)……お医者さん」


ディアル「ディアルだ。ディアル・ヴァーレル」


ルナ「ディアル。私、あんたみたいな人が居て嬉しかった。……あのワインを嫌いだと言ってくれた時、私の気持ちがどうしてか少しだけ救われたの」


ディアル「……君とは違う理由だけどな。ワインの味が苦手なんだ。私は大の水党でね」


ルナ「わかるわ」


ディアル「そこは同じか」


ルナ「ええ。だから。あなたは私を売らないだろうと思った」


ディアル「当然だ」


ここな「はっ、はじめて会ったのに!?」


ルナ「人の善し悪しなんてフィーリングよ」


ここな「ファーストインパクトに誤解があることだってあるでしょ!」


ルナ「わかってるけど」


ここな「ルナ!」


ルナ「ごめん。ここな」


ここな「……でっ!? あんたたち二人は、ルナをどうしたいのよ!?」


アレク「さっき言っただろ?」


ディアル「妻にしたいんだ」

アレク「相棒になって欲しい」


ルナ「なんであたしなの……」


ディアル「お前変わってるよ」

アレク「ワインを割る為だけに盗みを働いているだなんて変わってるよっ」


ルナ「あんたたちに変わってるだなんて言われたくない」


アレク「賭けをしよう」

ディアル「いいな。勝負しよう。ルナ」


ルナ「はぁ?」


アレク「今夜、ディアルの屋敷にワインを盗みに入る。朝までに、ワインを一番多く手に入れたやつの勝ちだ」


ルナ「ええ?」


アレク「ディアルはワインを隠せばいい。ワインを隠して、俺にもルナにもワインを渡さなければ……」


ディアル「お前は晴れて私の妻だ!」


ルナ「ちょっと勝手に……っ!」


アレク「決行は深夜23時」


ディアル「了解っ」


ルナ「ちょっと聞いてっ……!」

アレク「よーしっ。腕が鳴るぞーっ!」


シバ「王子っ! 帰るのーっ!? 待ってーっ!」


ディアル「早速帰って罠を作らねぇとな! じゃあなっ!」


ルナ「ちょっと! こら! 待てーっ!」


ここな「……る、ルナ……」


ルナ「もうどうすりゃいいの……」


ここな「あたしは家で勉強しながら待ってるわっ」


ルナ「おいぃ!」


ここな「だあって足手まといだしー……」


ルナ「はぁぁ……!」






 真夜中。23時。


ルナ「ああもおっ……!」


ここな「おーい。約束の23時ですよ~」


ルナ「ってなんでここなはお気楽にコタツでみかん食べてんのよっ!」


ここな「だぁって。あたしは関係ないしなー」


ルナ「いややややや! 関係あるでしょ!」


ここな「別にルナは誰と結婚してもルナのままよ。へーきへーき」


ルナ「っそこじゃないでしょ!! ああ、もうっ! ほんっとに23時になっちゃったっ! どうしようっ! どうしようっ! かかか仮面っ! 仮面つけなきゃっ!」


 ルナ、焦りながら網タイツを履く。


ここな「ん、と。まあ……。さ? あのー。なんだ。その……。行かなければいいんじゃない?」


 ルナの時が止まる。


ルナ「ッ……!!」


ここな「ね」


ルナ「そっ……! そうよねえ!!」


ここな「でもその代わりに通報されそうだけどね」


ルナ「くっ……! そおっ……!」


ここな「ま。ほら。そんな網タイツ頑張って履かないで。もこもこ靴下履きなさい。風邪ひくわよ」


ルナ「怪盗チェルシーは網タイツがトレードマークなの!!」


ここな「そんなにキレなくっても……」


ルナ「っ行って来るっ!」


ここな「化粧オッケー?」

ルナ「オッケー!」

ここな「後ろ姿オッケー?」

ルナ「オッケー!」

ここな「決めポーズオッケー?」

ルナ「おっけええー!」


ここな「はい。いってらっしゃい」

ルナ「いってきまっーす!」


 ルナ、家を飛び出して行く。


ここな「……大丈夫かしら」






 ディアルの屋敷の屋根の上。


ルナ「っ――! ……やっばい……。足の怪我のこと忘れてたっ……! い、たたっ……!」


アレク「大丈夫?」


ルナ「ッ!?」


アレク「こんばんは」


ルナ「っ! ひゃっ! あっ……!!」


 ルナ、屋根の上から落ちかける……!


アレク「っルナ……!」


ルナ「ッ……」


 アレクがルナを抱き締め。助ける。


アレク「あっぶねー。こっから落ちたら流石に死ぬよ。……もしかして足痛いの?」


ルナ「え!?」


アレク「あ、痛いんだ」


ルナ「なっなんでよ!?」


アレク「わっかりやすいんだよ」


ルナ「バーカっ!」


 少し離れる。


アレク「……ディーが……」


ルナ「うんっ!?」


アレク「あぁ、いや。あの、さ」


ルナ「なに?」


アレク「ディアルのこと。ルナも気になってるの?」


ルナ「はあ?」


アレク「えっ。だって、あんなにせまられて……」

ルナ「あたしは別に……! ディアルとは一回しか会ったことないし。なんとも思ってないけど」(台詞被せて)


アレク「そっかっ……! よかった!」


ルナ「よかった?」


アレク「え、あ、いや」


ルナ「あたし、男の好みはうるさいのっ」


アレク「ふはっ。そっかそっか」


ルナ「なによ。先に行くわよっ」


アレク「待って。怪我してるんじゃ、今日はやめよう。賭けは延期!」


ルナ「はぁ~!? 何言ってんのよ、男らしくないっ!」


アレク「いやいやいやいやいや。そうじゃないじゃん。フェアじゃないだろって言ってんの」


ルナ「はっ。この位ハンデがあったほうがいいでしょっ! お先にっ!」


アレク「あっ……! ルナ……っ!」


ルナ「っ! 三階にもセラーが……!」


 三階の窓から、ワインセラーが見え。その窓を開ける。


ルナ「……っしょと! ……相変わらず不用心ね」


 アンルに触れる。


ルナ「……こんなものが……あるから……」


アレク「ッルナ!! 罠だ逃げろっ!!」


ルナ「えっ?」


ディアル「っ遅い!!」


 アレク、ルナを助ける為に彼女の側へ駆け寄るが――突然床が抜け、二人一緒に地下へと落ちてしまう。


アレク「っわぁぁぁぁぁああああああああ……っ!!」 ルナ「っきゃゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああ……っ!」






シバ「アレク様っ……! ルナさんっ……!」


アレク「う……っ?」


ルナ「ん、んん……っ?」


シバ「アレク様ぁっ!」


アレク「っ!! ……っ? ここは……っ」


シバ「ディアル様のお屋敷の地下です!」


アレク「そっか。俺たち落とされて……気を失ってたのか……。こんな地下に道が……?」


シバ「お二人は僕がしっかりと受け止めましたので! お怪我はないはずですっ!」


 暗闇の地下。壁で光っている灯りが、真っ直ぐな道を照らしている。

 壁は土で、地面は灰色のタイル。


ルナ「う、受け止めた? あたしたち、三階から落ちて来たのよ!?」


シバ「はいっ! 先日、ぽち様にもこもこ化の魔法をかけていただいたばかりで! いつでももこもこできるのです! ぼよんっと受け止めましたっ!」


ルナ「も、もこもこ……?」


アレク「あはは……。遠征に出掛けた時の寝床にしたくて、かけた魔法だったのに……。こんな所で役に立つとは」


シバ「もこもこーっ!」


 シバの身体が膨れ上がり。ふかふかのクッションのような玉になる。


ルナ「お、おお……っ! すごい、なんとも言えない肌触り……! 確かにこれなら良く眠れそう」


アレク「でしょ?」


ルナ「もこもこ……」


シバ「で! 王子! ワイン100本が隠された蔵はこちらですっ! やはりアレク様が睨んだ通りでしたっ!」


アレク「まじか。やっぱり地下に隠してたんだな」


シバ「はい! ここから蔵への抜け道があります!」


アレク「行こう」


ルナ「……っ」


アレク「ルーナっ? 何してるんだよ。早くおいで!」


ルナ「えっ、でも、あたしは……」


アレク「はやく来ないと、俺があのワイン、全部飲んじゃうよ?」


ルナ「……ふふふふっ」


アレク「?」


ルナ「……それでも、いいかもね」


アレク「んだよ。突然弱気な……」

ルナ「全部なくなればそれでいいから……」


アレク「……聞かせてよ。どうしてあのワインを狙うのか」


ルナ「ただ壊したいだけ」


アレク「だったら他のものでもいいじゃん」


ルナ「………………」


アレク「黙るの禁止」


ルナ「言いたくない」


アレク「どうしても?」


ルナ「だって……。こんなこと間違ってるってわかってるから。あのワインが好きな人には、申し訳ないけど」


アレク「影があるねぇ」


ルナ「……行きましょう」


アレク「あのワインを壊したら、君は救われるの?」


ルナ「救いなんて求めてない」


アレク「じゃあ何に復讐したいの」


ルナ「復讐……」


アレク「恨んでるんでしょ? それとも、あの微妙な渋みが、昔食べた何かに似ていて……。なんとなくむかつく?」


ルナ「詮索しないでってば」


アレク「復讐なんて辛いでしょ」


ルナ「……っ。これが答えなの。あのワインは、割らなくちゃいけないのよ!」


アレク「それを、誰かに話したいと思わないの?」


ルナ「話ならここなが聞いてくれる」


アレク「俺だって聞けるよ!」

ルナ「王子には関係ない!」

アレク「関係ある!」

ルナ「どうして!?」


アレク「あのワインを、愛しているから!」


ルナ「っ!」


アレク「だから辛いんだ」


ルナ「……父が作ったワインなの……」(呟く)


アレク「え?」


ルナ「アンルは、父が……」


アレク「なら尚更だ。どうして……!」


ルナ「病弱の母を……家族を捨てて父が一人没頭して造ったのが、このワインよ!」


アレク「っ……。……本当に、美味しいと思うよ……」


ルナ「今更売れたって、どんなに印税が私の懐に入ったって。もう母は居ない! 手術をするお金がやっと手に入ったのに……。完成したワインを全て売って、父も……っ流行り病で死んでしまった……」


アレク「……アンル、……ってさ」


ルナ「っ……っ、う、うっ……」


アレク「L・U・N・Aって……並び替えられるよね」


ルナ「……っ……」


アレク「君に……飲んで欲しかったんじゃないかな」


ルナ「……」






 ワイン蔵。


シバ「っありましたっ! 王子っ! ワインですっ! ほらほらっ!」


アレク「本当だ……。山のようにあるな」


ルナ「……っ」


シバ「早速飲みましょうっ!」


アレク「いや。外に運ぼう。丁度大きなリヤカーもあるようだし。ディーにバレる前に運び出してしまおう」


シバ「はいっ! えっさっほいさっ。えっさっほいさっ」


アレク「……ルナ。大人しいけど。俺が全部貰っていいのかな?」


ルナ「……うん……」


アレク「へ。……ここで俺と戦って。ワイン全部、ぶち割りたいんじゃないの?」


ルナ「……お父さんが」


アレク「うん?」


ルナ「あたしの為にこのワインを造ったって……。名前を見てすぐにわかった」


アレク「……そう」


ルナ「でもそれと同時に怒りがこみあげてきて。抑えつけられなくて」


アレク「……うん」


ルナ「……こんなもの要らないからっ。……私とお父さんで真面目にコツコツ働いて。お母さんに手術受けさせて。……治して。三人で幸せに暮らしたかった……」


アレク「……そっか」


ディアル「ナルミ・ヴァルスと、ドリー・ヴァルス。……ルナの両親の名か?」(いつの間にか、ルナの背後に居る)


ルナ「えっ……。そうだけ、ど」


シバ&ルナ&アレク「っええええええええええええっ!?」


アレク「ディアル!?!?」


ルナ「いっいつの間に!?」


ディアル「君の両親。私の患者だったんだ」


ルナ「えっ?」


ディアル「五年前からな。二人とも、末期の癌で。いつ死んでもおかしくなかった」


ルナ「え……。う、嘘! お父さんが、お母さんの病気は、手術さえすれば助かるんだよって……!」


ディアル「まあ奇跡を信じる人間は沢山居る。だから、二人は四年半も生きられた」


ルナ「……なんで……」


ディアル「アンルは、ご両親の望み全てだった。お前という奇跡の果実の存在を……ワインに代えて世界に贈った。娘と、自分たちの人生は、なんとも美味しく、素晴らしかったと」


ルナ「……どうして……」


ディアル「自慢の娘だと、言ってたな」


ルナ「……っ! っ……うそつきぃっ……ッ!! っぅぁぁああっ……!!」


ディアル「……アレク。賭けは保留か?」


アレク「そう、だね?」


ディアル「ああ。……私のヒロインが泣いていては、いいハッピーエンドが迎えられねえ」


アレク「俺の、でしょ?」


ディアル「ふはっ」


 アレクとディアル、ばちんっと手を合わせ叩く。


シバ「えーと、えーと……」


ディアル「シバ。ここなを呼んできてやれ。……今日は、我が屋敷のてっぺんで、月見酒としようぜ」


シバ「っ! はいっ! ……~ここなちゃ~んっ!!」


アレク「ルナ。……飲んでもいいかな」


ルナ「……っ」


ディアル「おいおい。誰が大金はたいて買ったと思ってる。許可なら私に」


アレク「ディアルのお父さんでしょ」


ディアル「っ。まあそーだがっ。今の所持者は私だ!」


ルナ「の、のむ……」


アレク&ディアル「んっ??」


ルナ「……飲みたい。……アンル」


アレク「っひひっ」


ディアル「おうっ。いーぜっ。んじゃ、上行くかっ」






 紫屋根の上。一番てっぺんのとんがった所の近くに、ルナ。その両脇に、ディアルとアレク。ここなはルナの膝の上。アレクの隣にシバが居る。

 目の前には大きな満月。

 空には、たくさんの星が輝いている。


ルナ「……」(深呼吸して)


アレク「さて皆々様。飲み物は行き渡りましたでしょーかっ!?」


ここな「おー」


シバ「わうわうっ!」


アレク「シバ。犬語になってるっ」

シバ「うっ!?」

ここな「あほねー」


アレク「乾杯する!?」


ディアル「しない」


アレク「えー!?」


ディアル「ルナにとっては、神聖な時間だ。さっさと飲め」


アレク「んー。じゃ、……いただきまーす」


 アレク、ディアル、ワインに口をつける。


ディアル「んっ」


アレク&ディアル「……うっま……」


ディアル「不思議な味だな。私、このワインなら飲めそうだ」


ルナ「っ……」(両手でグラスを持ち、震えている)


ここな「ルナ……」


ルナ「……ねえ。どうしてロゼなんだと思う?」


ここな「えっ?」


ルナ「どうして……赤ワインじゃないのかな」


アレク「ルナが女の子だからでしょ」


ディアル「月に翳して一番可愛く輝くのは、ピンクだからじゃね?」


ルナ「……そっか……」


 少し、沈黙。


ルナ「……そのラベルに描いてある月って、なんでちょっと欠けてるのかな」


アレク「うーん」


ここな「ルナがちょっと頭が足りないからじゃない?」


ルナ「ええ!?」


アレク「あははははは!」


ディアル「んー。やっぱ……。こんなもんで満足すんなよ! って感じか?」


アレク「君は満月のようにいい女だけど、でも君の人生は、まだまだこれから。とか」


ルナ「随分深読みしてる」


アレク「ははっ。そう?」


ディアル「はやく飲めよ」


アレク「おかわりっ!」


ディアル「自分でつげ。五本も持ってきたんだから」


アレク「あいあい! んっ……。んーまいっ。あー。なー」


ここな「んっ。恋をしそうな味ね」


アレク「おや、ここなさん、いける口ですな」


ルナ「っ!? ちょっとここな!? 飲んじゃだめでしょっ!」


ここな「あんたがぼーっとしてるからでしょー」 アレク「いいじゃーん」


ルナ「ここなはまだ一歳なんだからね」


アレク「ええ~っ? 人間だともう成人でしょ?」(もう酔ってる)


ルナ「まだ子犬っ!」


ここな「うっさいわねー」


シバ「アレク様っ。僕もー」


アレク「あや。シバ大丈夫かな~? 一舐めね?」


シバ「わーいっ」


ルナ「……の、飲む……か」


ディアル「はよしろ」


アレク「ど?」


シバ「ん~っ! あまいっ!」


アレク「そんなに!?」


ディアル「まあ甘ぇ、な」


ここな「女子って感じ」


ルナ「も~っ。ここな飲み過ぎっ! 私の分ないし!」


アレク「ルナ。ついであげっからっ」


ルナ「あっ、す、少しでいいっ」


ディアル「まあまあ」


アレク「とくとくーっ」


ディアル「ほら」


アレク「飲んで」


 ディアルとアレクに、並々ワインを注がれてしまう。


ルナ「……いただきます……」


全員「……」


 飲もうとした所を、寸止めするルナ。


ルナ「っ……! やっぱりっ、ムリ! 飲めないっ!」


アレク「えええ……」


ディアル「なんで」


ルナ「だって! これで……全部終わっちゃう気がするの……。私の全部」


アレク「そんなこと」


ルナ「ごめん。……ここな、やっぱり、この町出ようっ!」


ここな「え??」


ルナ「王子。城門、開けてくれない? 私やっぱり、……このワインを……」

ここな「ルナ、もう割るなんて……っ!」

ルナ「割るなんてもう言わないから!」


ここな「っ」


ルナ「アンルを集めて……。世界中に散らばったアンル、全部集めて。そうしたら……きっと飲むから。……っ今回は、盗みじゃなくて! 持ち主にちゃんと頼んで……っ。全部、買い取る!」


アレク「……」


ここな「王子、あたしからもお願い。城門を開けてあげて」


アレク「……わかった」


ディアル「うまいのになー。……まったく。トラウマだらけの人生なんて、つまんねえもんだな。……先に寝る。お前ら勝手に片付けて勝手に帰れよ。じゃーな」


シバ「っ。ばいばーいっ」


アレク&ルナ「……」


ここな「ルナ……」


ルナ「ごめん。じゃあ、あたしとここなも、帰るね」


アレク「あっ。うん」


ルナ「おやすみなさい」


ここな「おやすみぃ」


シバ「ここなちゃんばいばいっルナさんばいばいっ」


ルナ「シバくん、ばいばい」


ここな「ふん」


アレク「……」


シバ「王子?」


アレク「……シバ、」


シバ「はいっ」


アレク「次の遠征、どこまで行きたい?」


シバ「へ?」


アレク「……」


 ワインをくいっと飲み干し。にやっと笑うアレク。






 翌日の午前中。昼前。

 城壁近く。

 鳥の鳴き声。


ルナ「……どーもっ」


門番 (シバ役)「君は……花屋の……」


ルナ「ん、今日は門が開いてるじゃない!」


門番 (シバ役)「ああ……。王子が朝早くに、全ての門の解放を命じられたのでな」


ルナ「そう。よかった。じゃあねっ」


門番 (シバ役)「そんな大荷物で、夜逃げでもするつもりか?」


ルナ「まだ昼前だけど?」


門番 (シバ役)「まあそうだが……」


ルナ「この国、嫌いじゃないんだけどね。でも、もう行かないといけないの」


門番 (シバ役)「そうか……。どこへ?」


ルナ「世界の端っこまで」


門番 (シバ役)「長旅か。……いつか目的を果たしたら。ここへ帰ってくるといい。ルナ・ヴァルス殿」


ルナ「……名前どうして……」


門番 (シバ役)「私はこの国の警備が仕事だ。この国に住む民の名は全て知っている。私が守るべきもの達の名は、存在は、何よりも尊いものだ」


ルナ「……ありがとう。ねえ、門番さんてお酒好き?」


門番 (シバ役)「ああ。酒は大好きだ」


ルナ「そう! ……今度さ。アンル、っていうワイン。ディアルって奴の家に沢山あるから。あ、でもそいつ酒が得意じゃないからさ、貰って、飲んでよ」


門番 (シバ役)「アンル?」


ルナ「うん」


門番 (シバ役)「ロゼのアンルか? 005(ゼロゼロファイヴ)の」


ルナ「え、うん」


門番 (シバ役)「あれならうちにも二本ある」


ルナ「えぇっ?」


門番 (シバ役)「家内が気に入っていてな」


ルナ「そうなの?」


門番 (シバ役)「ああ。だが、ディアル医師の家に、君がそのワインを、預けているのか?」


ルナ「……うん。アンルはね、あたしの父が作ったの」


門番 (シバ役)「……そうか……。っ、……わかった。家にあるのが無くなったら、貰いに行ってみるとしよう」


ルナ「うん。アンルのルナからって言えば、わかると思うからさ。……次の町に着いたら、ディアルに電話入れておく。……えっと、名前は?」


門番 (シバ役)「ムーンだ」


ルナ「えっ」


門番 (シバ役)「ムーン・シュトラフ。私の名だ」


ルナ「っ。素敵な名前ね。ムーン、わかった。ありがとう!」


門番 (シバ役)「行ってらっしゃい」


ルナ「行ってきますっ!」


 街道をしばらく歩く、ルナ。

 ここな、荷台から顔を出して大きい欠伸をする。


ここな「ふぁぁぁぁぁ……」


ルナ「やっと起きたの?」


ここな「んー。なんか誰かと喋ってた~?」


ルナ「ふふっ。なんでもないよっ」


ここな「えーなにー?」


ルナ「門番さんに、挨拶してただけ」


ここな「ああ、あの門番ね」


ルナ「……やっぱり、少しは寂しいもんだね」


ここな「今から引き返してもいいのよ」


ルナ「ううん。……この国は、私には優しすぎる」


ここな「……」


ルナ「癒されたい訳じゃないの」


ここな「厄介な性格してるわよ」


ルナ「ありがとっ」


ここな「いや今の絶対褒めてないでしょ!!」


ルナ「ふふふっ!」


ここな「まったくもう。……んっ? るっルナ! 前見てっ! あの橋に居るのって……!」


ルナ「えっ?」


 長い吊り橋の手前に、黒馬に乗ったアレクが居た。


ルナ「……あ、アレク王子……」


ここな「なによっ。あんた、見送りにしては重装備ねぇ!?」


アレク「これから、隣国まで遠征に行かないとならない」


ルナ「そ、そう……。随分立派な馬ね」


アレク「二人乗り用だからね」


ルナ「二人乗り?」


アレク「うん。……ルナ、俺、アンルを探す旅に出ようと思ってる」


ルナ「え……?」


アレク「っつ……っ! いってて……」(腹を押さえる)

ルナ「っ? 王子?」


シバ「王子ーっ!」


 シバがその場に駆け付ける。


アレク「シバ……」


シバ「酷いですよっ! 僕を置いていくだなんて!」


ここな「……王子、あんたもしかして、家出してきたの?」

アレク「はははっ」 ルナ「えっ?」


シバ「城にお戻り下さい! 今謝れば許して頂けますっ! 怪我までしてるのに……っ」


アレク「俺は戻らない。……シバ、お前はここに残るんだ」


シバ「っ! 王子が行くなら僕だって行きます!!」


アレク「わかってくれ。危険な旅にになると思う。犬を連れては行けないよ……」


シバ「ここなちゃんだって、ルナさんと一緒に行くじゃないですか!」


アレク「でもこの先の国々は、犬の入国を許可していない国が多いんだ! 知ってるだろう!?」


ここな&ルナ「えっ」 シバ「ううう……」


アレク「特に一個先のブラジューディリアは、犬は貴重な食材として、見つけ次第射殺しなければならない法まである」


ここな&ルナ「えええっ!?」


アレク「やっぱり知らなかったんだ……」


ここな「えーと、つまり、あたしだけ野宿ってこと!?」


ルナ「そ、そうなるのかなあ……?」


ここな「えええ絶対にいやああ」


アレク「犬魔法のせいで、犬が人間よりもこわい存在になってきているからね。人間なりの対策を取っている国が、増えてきてるんだ」


ルナ「……そんな危険な国に、ここなを連れて行けない……」


ここな「……じゃあ置いてって」


ルナ「えっ?」 シバ「ここなちゃん!?」


ここな「アレク王子! 一筆書いて! あたしとシバは、お城でご厄介になるわっ!」


ルナ「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ、ここな」


ここな「何?」


ルナ「もう私とは旅をしたくないってこと!?」


ここな「はあ? そんなこと誰も言ってないでしょ!?」


ルナ「ずっと一緒に旅をして来たんじゃない!」


ここな「何言ってんのよ。たった半年でしょ!」


ルナ「ここな……!」


ここな「他の国に散らばったアンルを、全部、ここに持って帰って来なさい。待っててあげるから」


ルナ「……私……」


ここな「ルナ。次会う時は、人間化魔法をかけられた、ここなちゃんなんだからねっ!」


ルナ「!」


ここな「一緒に買い物、行くんでしょ?」


ルナ「……うん……っ」


ここな「残念だけど、隣の国に入ることすら出来ないんなら、今のあたしにはお手上げよ」


ルナ「……ごめん……」


ここな「王子。ここなを頼んだわよ」


アレク「うんっ」 ルナ「えっ!?」


ルナ「い、いや、私、アレク王子と一緒に行くなんて言ってな……」

アレク「昨晩、両親に打ち明けた。俺が怪盗アレキサンダーだと」


ルナ「ッ!? なっ……!」


アレク「今まで国中から盗んだワインと、アレキサンダーの仮面とマントを差し出してね」


ルナ「なんでそんなこと……!!」


アレク「追い出されたかったんだ」


ルナ「貴方は王子なのよ!?」


アレク「いいんだ。お陰で勘当された。晴れて俺は、自由の身。だが親も甘いね。馬と……金だけはたんまりくれた」


ルナ「っ……この国が嫌いなの? 貴方が守って行くべきなのは――」


アレク「ルナ。俺はとあるワインを、一滴残らず飲む為に、旅に出る。……用心棒としてついてきてくれないか?」


ルナ「なんで……」


アレク「君を愛してるんだ……。だから……」


ルナ「……っ」


アレク「ルナ……」


ルナ「……っ願い下げよ!!」(アレクに抱きつく)

アレク「わぷっ」


ルナ「私の足手まといには、ならないでよねっ!」


アレク「あははっ……うんっ。……さ、ルナ、乗って」


ルナ「っしょ!」


 抱き締め合う二人。一緒に馬に乗り、旅立つ――。


ここな&シバ「いってらっしゃ~いっ」


ルナ「いっ……いってきますっ!」

アレク「いってきます!」


 馬はゆっくりと歩み始める。


アレク「いったたた……っ」


ルナ「何、お腹痛いの?」


アレク「アレキサンダーの話をした時に、父上にアバラ数本折られちゃってさー」


ルナ「ええええっ!?」


アレク「母上には、首へし折られかけちゃってー」


ルナ「両親何者!?」


アレク「二人とも元騎士で武闘家だったから」


ルナ「怖っ! えっ!?」


アレク「さってっ。少し飛ばすよっ! ルナ!」


ルナ「っ!」


 アレクとルナの様子を監視していたディアルの側に、門番がやってきて、跪く。


門番 (シバ役)「……無事に旅立たれたようです。ディアル様」


ディアル「ああ、……ったく。……伝説の大悪党、二人の旅立ちか……。っ。こんなこと、歴史書には、書けないな」


 ディアル、内ポケットに入れていた新聞社への告発文を、風に乗せて捨てる。


ルナ「ねえ、そう言えば、ディアルとアレクって、どういう関係なの?」


アレク「んあ? 従兄弟いとこだよっ!」


ルナ「えっ。従兄弟!?」


アレク「うんっ」


ルナ「そうだったんだ……」


アレク「何? ディアルに誘われたら、そっちについってった!?」


ルナ「……っふふ! さて、どうかしら!?」


アレク「こわいなあ」


ルナ「アレク、あたしね……」


 彼を後ろから、ぎゅっと抱きしめる。






END

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