第38話 講義開始
――― 夜。王都技術アカデミー講堂。
アカデミーの学生が講義を受ける大講堂だ。すり鉢状の底にある教壇には、ロキが立っている。生徒席には、サザ王国と「猫の大食亭」の面々が座ってる。技術アカデミー学院長の顔もある。彼らは、ロキの目的を説明するためだけに急遽集められた。深夜なのは人目を気にした国王の配慮だ。そして講堂という場所。ここは長い時間、説明を受けるにふさわしい。
ロキの長い黒髪が美しい。艶やかでシンプルなデザインの黒服が際立っている。先入観を持たずに見れば、これほど麗しい教師も居まい。だが相手は破壊神と畏怖される存在。その場は異様な緊張感に満たされていた。
「選択肢をあげましょう」
ロキは手を腰に当て大声で叫んだ。凛とした話っぷりは、アカデミーの教官の如くである。
「1つ。神代の歴史を知ってヤーナを私に渡す」
「2つ。真理を知って絶望する」
「何なのそれ? 意味がわからないわ」
ベルナルディーナが臆せず言い放つ。
「私としては1つ目の方が楽でいいのだけれど、納得できないでしょう。単に歴史のお勉強ですもの。できれば2つ目の方を選んで欲しいわね。でも真理を知ったら、貴方たちは絶望して正気を失う。すると納得ができないのよね。困った二律背反ね」
両手を肩まで上げて美しい笑みを浮かべる。美形な女性の笑顔は、笑い方一つで恐ろしくも見える。いや、元々の破壊神の顔は誰も知らないのだ。今、破壊神でありロキと名乗っているのは、公国連盟の姫の姿だ。
「ハイ、質問! ”真理を知って絶望する”ってのはどういうことだ?」
今度はキアがベルナルディーナに続いた。講堂に入るまでは恐怖に震え、歯がガチガチと鳴り、満足に顎も噛み合わせられなかった。だがもう怖がっても仕方がない。単なる開き直りかもしれない。研究者としての興味もあった。そして妻となったエルフリーテが居る。たとえロキの機嫌を損ねて死ぬことになったとしても、彼女と一緒なら悔いはない。
「キアさん…。ご結婚おめでとう。相手は400歳のお婆さんだけれど、お幸せにね。もっともその幸せも今日、終わっちゃうかもしれないけど。アハハ」
濃厚な嫌味が込められている。
「で、真理ってのは何だ?」
ロキの的外れな返答に、キアは苛立ちを込めて言い返した。
「それも含めてのお楽しみよ。あと10分以内に決めてね。相談時間を10分もあげるのよ。私って優しい子だと思わない?」
子供のように無邪気に笑う。だがその中身は、人の命を虫と同等と言ってのける破壊神なのだ。無邪気ゆえに恐ろしい。この無垢な顔を見たら、悪魔ですら恐怖で逃げ出すかもしれない。
「よし、皆集まろう」
キアがリーダーシップを取っていた。これもエルフリーテという妻女を得たギルドマスターとしての自信だろうか。
キアの周りに、若きサザ国王、右大臣アルバータ、歴史学者でもある左大臣エコー、そしてベンゲ大将、アルティ総参謀長が集まる。そして大陸一の知識人である技術アカデミー学院長が加わる。あとはベルナルディーナを含めた「猫の大食亭」のメンバーだ。居ないのはヤナだけだ。ヤナはまだ意識を取り戻していない。今頃は護衛付で王宮のベッドに横たわっているだろう。
「どちらにしても我らの命はない」
「楽に死にたい」
「命乞いをして時間を稼いでみたら」
「ヤナ様が目覚められることを祈ろう」
「死ぬ前にもう一度美味い料理食いたかったぜ」
皆が勝手に口を開いていた。相談になっていない。
王の威厳も無ければ、武人としての振る舞いも関係なかった。それも仕方がない。自分の死だけならともかく、大陸全土の命運、その重みが今自分たちにかかっているのだ。誰も責めることはできない。
「ちょっと待った!」
キアが車座から立ち上がった。
「今はそういう話しじゃない。いかに最善の選択をするかだろう?」
「キア殿。意味不明な選択肢に相手はあの破壊神だ。最善などわかるはずもない」
「いや、諦めちゃいけない。1つ目の選択肢は、ヤナとオータスの歴史だけを話すってことだ。その上でヤナを連れ去る。2つ目の選択肢は、恐怖をもたらす話なんだろう。普通の人間が聞いてしまったら、それこそ正気を保てないような」
「ええ、私もキアの言うことが正しいと思います」
エルフリーテが銀髪をかき上げながら、キアの意見を支持した。
「ま、確かに合理的に考えれば至極当然の解釈だな」
これは学院長の意見。キア支持派である。
サザ国王も車座から立ち上がった。
「問題は、”正気を保てないような話”だ。これが精神に作用するような魔法であるとすれば、2を選択するのは間違っている」
「いや、破壊神が今さら精神魔法など使うだろうか? 我々を操りたいのであれば、王宮に現れた時点で既にやっているだろう」
学院長が国王に対等な言葉遣いで反論する。
「ふむ。一理ある。ではどうしてロキは我々に説明して”納得”を求めるのか? 精神魔法を使って記憶を操作し、納得してしまったことにすれば簡単ではないのか?」
「理由は私とヤナ様が魔術回路で繋がっているからです。私が聞いた話はもとより、感情や感覚はすべて共有されます。たとえ表面上眠っていらしても。だから精神魔法で記憶の書き換えなどすれば、直ぐにバレます。そして彼女が望む結末は、ヤナ様との暮らし…」
リーテがしっかりとした口調で話す。さすがは伝説の教皇といったところだ。
だが相手はあの恐怖の象徴、破壊神だ。少しの油断や選択ミスが命取りどころか大陸の存亡にかかわるかもしれない。
「…となるとだ、2を選んで俺たちがしっかり受け止め理解して、目覚めたヤナと話せばそれで問題ないんじゃねぇか」
ベンゲが小難しい議論はもういい、と結論だけを言った。
「…結局はそういうことだな」
最後は国王が纏めてなんとか恰好がついた。どちらにしても、選択を迷っている時間はもうない。
「ロキ殿、我々は2を選ぶ」
代表して国王が大きな声で叫んだ。その声は講堂中に響き渡った。誰も居ない夜中の学院でも、さすがに誰かに聞こえそうな勢いだった。
「わかりました。では真理をお話しましょう」
笑顔と微笑以外は滅多に見せないロキが、珍しく真剣で鋭い顔になっていた。
「まずは自己紹介を。ちなみに質問は随時自由にしてくださって結構よ」
なぜか得意げな口調である。
「私の本名はキュア。ヤーナ、つまりコトワリの娘」
「キュア? ”治癒”って意味ですか?」
「違うわキア。Curiosity(好奇心)の方ね」
「なるほど。性格どおりですね」
少し間をおいてロキことキュアは続けた。
「職業は母と同じ研究者。研究テーマは世界の原理。この世界がどのような仕組みで動いているかを調べる人間ね」
「研究の中でも基礎研究に属する部類じゃな」
学院長が重々しく口を開いた。
キュアはそのまま話を続けた。
1万年前。高度な技術を持った都市が繁栄していた。都市に住んでいたのは神ではない。今と同じ人間、すなわち人類だった。彼らの技術は完璧ではなかった。だが、今の大陸の技術水準から比べれば、まさに神と人間ほどの差があった。
キュアが黒板にスラスラと書き出した。
・星を1~2日間で1周できる
・誰もがいつでもどこでも膨大な知識を共有できる
・何万キロも離れた人間同士が瞬時に会話できる
・産まれる前から将来の病気を特定して治療できる
・平均寿命は90~100歳
・衣食住には困らず、労働は知能を持った機械が代行
・機械は相互にメンテナンス/修理をし合う
・エネルギーは太陽から無限に得ることができる
・天災(火山/地震/津波/台風/気候変動)は完全に予知
・手足や臓器を失った人間も再生可能
・動植物を操作し、都合の良い種に変化させることができる
・数万キロ先の建物を瞬時に破壊できる
「文明の技術水準は、大体こんな感じかしら。魔法には及ばないけれど。貴方たちからすれば、魔法とあまりかわないかもしれないわね」
「ふむ、確かに魔法と変わらぬ。寿命もこの時代は平均50歳。ましてや100歳まで生きる者など聞いたことがない」
学院長が腕組をしながら、独り言のように口を開いた。
「そんなに豊かで高度な文明の中で、人間は何をしていたのだ? 余が思うに人間が働かなくて済むのであれば、やることは娯楽に耽るくらいだぞ」
「その通りよ。さすが王侯貴族の頂点、贅沢の極みに居る人間はよくわかってるわね」
「嫌味な言い方かもしれぬが、庶民から見れば貴族も似たような者かもしれぬ。だが政治はどうだ? 政治だけは機械任せにできぬであろう」
キュアが、黒ドレスの裾を靡かせながら、カツカツと音を立てて教壇を歩いた。
「政治ともう一つ。技術を支える科学研究だけは人間がやるしかなかった。でもこの文明は滅んだ。これが神代の時代。なぜ滅んだかわかる?」
今は深夜で新月。真っ暗な中に大講堂の中の灯だけが煌煌と輝きわたる。おまけに相手は黒髪の美女。こんな状況では、簡単な質問にも答えるのに苦労しそうだ。
「…金にも食べ物にも困らず、毎日誰もが遊んで暮らせるのだろう? 政治なんて要るのか? そこまで高度に発達してるなら、研究も人間はサボるだろう。機械だって知能を持っているんだろう。研究も政治も機械任せにしたってのが、滅んだ原因じゃないのか?」
ベンゲが予想に反して鋭い意見を言った。いや、庶民感覚のベンゲだからこそ、人間の性がよくわかっているのだ。
「俺は違うと思う。知能を持った機械が反乱を起こしたんだろう。それで文明が滅んでしまったとか…」
キアがもっともらしい意見を出す。しかしキュアの態度に変化はなかった。
「動植物を変化させ過ぎて、食物が無くなってしまったとか?」
今度はアルティが慎重に言葉を選びながら切出した。キュアの態度はまだ変わらない。
「実験の失敗…ではないか?」
学院長が低い声で言った。キュアが初めて態度を変えた。教卓の正面に立ち、学院長を指差した。
「大陸一の知識人は一味違いますわね。その通りよ。とある実験が失敗して文明は滅んでしまったの」
「…でも所詮は実験だろ? どんな大爆発が起きたって文明一つが滅ぶような失敗なんてあるのか?」
キアは食い下がった。席を立ちあがっていた。この時代も当然実験は行われている。大規模な兵器を開発する場合、城が黒色火薬の威力で吹き飛んでしまうこともある。キアにはそういう実験しかイメージできなかった。
「実験と言っても爆発や衝撃、あるいは病気をもたらすようなものではなかったの」
キュアの顔が少しだけ寂しさを帯びていることに、エルフリーテが気が付いた。
「ではその”実験”とは何だったのだ?」
今度は国王が椅子から立ち上がり、教卓の前に立ちはだかる。興味が先だって聞きたくて仕方がないといった感じだ。
「国王殿、落ち着いて。順を追って話を理解して頂きませんと。神代の歴史の概要はこんな感じかしら。実験の内容と意味、そして起きた結果を理解するためには、予備知識が必要になるわ」
ベンゲがガタン!と両足を机の上に放り出した。
「なんだよ、お勉強の時間かよ。苦手なんだよな、そういうの。それよりも腹が減ったな。なぁ、ちょっと飯にしないか?」
破壊神相手に大胆な態度。だがもうここまで来ると、開き直りの極地だ。どうせ死ぬなら遠慮などしない。いかにもベンゲらしい割切りだった。
キュアはベンゲの席の前まで来るとニッコリと笑った。誰もが次の瞬間には、ベンゲが殺されているだろうと予想していた。
「やっぱり貴男は面白い。いいわ、ちょっと休憩にしましょう」
キュアの普通の提案に一同の気が抜けてしまった。ベンゲの態度も凄いが、それを簡単に受け入れてしまう破壊神も予想の斜め上を行く。
「宮廷から大至急料理を運ばせよう。深夜だがディナータイムだ」
「国王殿、その必要はございませんわ」
キュアが両手を叩く。どこに潜んでいたのか、たくさんのメイド姿の侍女たちが現れた。全員両手に料理や飲み物を抱えている。目にも止まらぬ速さで、正確に生徒たちへ給仕していく。
「キュア殿、これは一体…」
「知能ある機械。つまり神代の技術に魔法を付与した物よ。この学院の厨房をお借りしました。大丈夫よ、毒なんて入ってないし、何より機械たちの料理の技術はヤーナが付与しているから味は保証付ですわ」
「こりゃあ、うんまい!」
早速ベンゲがかぶりついていた。遠慮も躊躇いもない。
奇妙な晩餐会だったが、味は抜群だった。誰一人残さず料理を平らげてしまった。料理の後片付けも、機械人間たちが目にも止まらぬ速さでこなしていった。気が付いたときには、すっかり元の講堂に戻っていた。
「神代の技術か…確かに人間は働く必要がないかもな」
ポツリとキアがつぶやいた。
* * * *
「では実験の話に入ります。これで真理に一歩近づくわ。でもその時、貴方たちは今と同じ心でいることができるかしらね」
キュアが改めて口にする。実験や真理という言葉。キアには馴染のある単語だ。だがそれが何だというのだろうか。興味が高ぶり、話を早く聞いてみたいという焦りが出る。
「まず簡単なところから行きましょう。キアさん”人間”とは何でしょうか?」
あまりに唐突な質問だった。キアは頭が真っ白になった。
「そりゃあ…まぁ…」
その通り。答えられない。単純な質問ほど難しい。例えば「空はどうして青いのか?」と子供に聞かれたら、これを平易な説明でわからせることは困難だ。
「頭と手足があって、胴体があって…内臓があって血が栄養と酸素を運んで、脳が記憶をして、骨が支えて筋肉が体を動かす。こんな感じじゃないかな」
キアは解剖学的な見た目の話をした。この答えで間違っていない。
「正解よ。ではさらに質問。人間の右足が切断されました。人間は右足の方? それとも胴体の方?」
「そんなの胴体の方に決まってるじゃないか」
その通りである。四肢を切断されて、切断された手足の方を人間と認識する者などいない。
「では上半身と下半身。真っ二つになりました。貴方はどちらを人間だと思う?」
「そりゃ上半身だろう」
キアは迷いなく答えた。だが答えているうちに奇妙な気分になってきた。この感覚はちょうど難問を解くときに似ている。
「では、人間が脳天から真っ二つになりました。貴男にとって人間は左半身?それとも右半身?」
「ちょっと待った! それはもう死んでいるから人間じゃない。どちらも人間の体には違いないだろうけど…」
キアは思わず大声で返答していた。
「良い答えよ。そう、死んでしまったらもう人間ではないの。正確には元人間ね。”人間を構成していた物”になるのよ」
「それがどうした」
「もう少し質問を変えましょう。貴方が座っている机、脚が一本壊れました。机はどうなります?」
「職人に直してもらって使い続けるさ」
「そうね。では真っ二つになった人間、これも治せたら使い続けられるかしら…?」
「人間は神様が作った特殊な物だ。魂が抜けてしまったら治しても生き返らない。これが常識じゃないのか?!」
「机には魂はないけれど、人間には魂という特別な物がある。神代の時代でも同じように思われていた。だからキアさんの回答はとても正しい」
そう言われてキアは、少し得意げになった。だがよく考えると、何か本質的なことを見落としているような感覚があった。
その時、学院長が重厚な口調で発した。
「ではその”人間の魂”とは何なのか? いや、”生物の魂”とは何なのか?」
「それに疑問を持ち、解き明かしてしまったのが、私の母にしてヤーナ。コトワリよ」
一同は”コトワリ”という言葉の響きに、どうしてもあの温情溢れるヤーナの姿を重ねることができなかった。何やら冷徹な感じがするのだ。
「結論から先にいうわ。魂とは”関係性”のことよ」
「…関係性? どういう意味だ」
「人間を人間たらしめるもの、机を机たらしめるもの。実は机も人間も物質的には同じ物なの。ただその構成や構造が違うだけなのよ。そこまはわかるかしら? だからもしも壊れた人間も”完璧に”治すことができれば、生き返るはずなの。論理的には」
「…」
一同は押し黙ってしまった。理解はできるが、心がついていってない。
「ただし、机と人間とでは複雑さの度合いがまったく異なるわ。生物は複雑過ぎて、普通では治すことができないの」
「なるほど。理解はできた。それで、”関係性”というのはどういうことだ?」
「人間を人間たらしてめいる、机を机たらしめているのは、材料を集めて作った”存在”がいるからよ。だから机も犬も猫も鳥も人間も、同じ物質からできているのに違う存在なの。それは物質を作る関係性が異なるからよ」
「…すまん、言ってる意味がわからん」
ベンゲが眉間に皺を深く寄せ、かぶりをふっている。
「つまり、神様みたいな万物の設計図を作る人がいて、その設計図がおまえさんのいう関係性ってヤツだと思っとけばいいのか?」
素人考えは、時に見事に難問を整理する。非常にわかりやすい。
「良いたとえね。万物の本質は、その設計図の方であって目に見えている物の方ではないということよ。だから生物が死に、物が壊れても、設計図なくなる訳じゃないから滅ぶわけではないのよ」
「ちょっと待てよ。机や蒸気機関、家や道路の設計図は職人が作る。じゃあ人間や生物、自然の設計図ってのは誰が作ったんだ?」
「良い質問だわ」
興奮して話し続けたせいか、キュアの額には汗が滲んでいる。だがその顔はとても嬉しそうだった。
「わからないのよ。だからコトワリという研究者は、それを追求した。人間の設計図はどうやって作るのか。誰が作ったのか。…そして答えは出なかった。でも設計図の操作は、何とかできるようになって行ったの」
「設計をしたのは、本当の神様ってことで、その設計図をある程度自在に扱えるようになったのが、ヤーナたち魔法使いってこと?」
キアが自分なりにゆっくり解釈しながら言葉を出していく。
「理解が早くて助かるわ。大体合ってるわね。母は神代の時代でも、最も優秀な研究者だった。だからあらゆる設計図を操作することができた。これを利用したのがつまり”魔法”や”魔術”よ」
「設計図は、私たちが思っている魂ってこと?」
ベルナルディーナが別の視点から口を挟む。
「そう考えてもいいわ。人間や生物の設計図はとんでもなく複雑なの。だから死んだ人間を甦らせるには設計図を入れ替えるしかない」
「ちょっと待った。設計図、つまり魂には記憶は伴わないのか?」
国王がこれまた別の話を差し挟んでくる。
「記憶と設計図は関係がない。だから魂が生まれ変わっても、前世の記憶が残らない。設計図は不変。記憶はその”付録”に過ぎないの。だから記憶を留めるには、別の方法が必要になるのよ」
「…待った待った!」
キアが話を止めた。あまりに次元が高く、白熱した議論に皆理解が追いついていない。この場の誰もが感じていたが、キュアにもいかんともしがたかった。
「整理してみよう」
キアがキュアの横に立ち、黒板に文字を書き始めた。
・命(生物/人間)=設計図+材料
・設計図(魂)は操作や書き換えはできるが創りだせない
・設計図(魂)と記憶は別物。転生がその証拠。
さらにキュアが書き加えた。
・設計図は壊せない。だが壊す方法がある。
・人間の設計図の製作者は不明。
・記憶を留める技術は存在する。
・設計図(魂)の転生技術は不完全。
「以上が基礎知識よ。設計図を自在に書き換えて世界を操作するのが、魔法や魔術なの。だから魔力なんて本来必要はない。図を書き換えるだけですもの。ほんのちょっと手を動かすだけでいいのよ。でも間違えば失敗する。だから設計図の書き換えは、高度な技術と高速な計算能力が必要になるわ。私が”命は等しく同じ”と言ったのは、この設計図がある限り、基本的には死は存在しないという意味なのよ。でも、設計図は摩耗するものだし、それを故意に失わせることもできる。失われた設計図は、材料に戻ってまた別の設計図に再生産されるのだけれどね」
「な、なるほど。つまりこの世の真理は”設計図”ということだな」
国王が一言でまとめてしまった。大勢の発言する発散した話をまとめるのは、さすがに場数を踏んでいるだけあって上手い。
「この世の真理とやらが設計図に書かれた関係性であるならば、どうして実験の失敗から今の状況に繋がるのだ?」
学院長がさらに大局から話をすすめようとする。指導経験の豊富さはダテではない。生徒の話を最後の結論につなげるのは、教官の役割だ。
「ふぅ。疲れたわね。休憩にしましょうか」
恐怖の対象でしかなかった破壊神ロキことキュア。今は興味深い話を熱心にしてくれる教官にしか、一同は見えていなかった。
だいぶ哲学的な流れになって参りました。自分の得意なジャンルを見つけるためにもいろいろ盛り込み過ぎな感はありますが、ご容赦くださいませ。




