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踊る阿呆に見る阿呆。僕は手中で踊る阿呆。

「まぁ、否定はできないんだけどね」

 嘘から出た誠、なんて言葉が、この国――日本にはあるらしい。

 らしい、なんて曖昧な言い方で茶と言葉を濁しながら、僕の中の時間と思考は停止していた。

 今、僕の前に居る想い人。

 そんな彼女の、幼馴染み。

 その二人と僕は、学校帰りに近所のお祭りに来ていた。

 二人の様子を見ながら、僕は祭り特有の楽しさに心を踊らされていた。

 二人の仲の良さに、嫉妬すらせず微笑ましい気持ちにさえなっていた。

 で、からかい半分で、僕は想い人にこっそりとこう話しかけた。

『もし二人きりになりたかったりするんだったら、僕は適当に暇を潰してくるぜー?』

 と。

 瞬間、想い人はいつもより高い声で声色高く、

「いきなり何言ってんの私とアイツがそんな関係になる訳がないじゃない馬鹿じゃないのアンタの目は節穴なの!?」

 叫んだ。

「え、いや、違うなら良いんだけど、」

「いや――」

 そして、

 今に、

 至る。


「はぁ」

 僕は一人、祭りを歩いていた。

 二人を残して。

 僕ははぐれたフリをしながら、クールに去ったのだ。いやクールじゃないけど。むしろ熱いけど。目頭とかが。

「馬鹿みたいだ」

 想い人を祭りに誘って、二人きりかと浮かれたら想い人の幼馴染みが居て。

 まぁ普通に楽しもうか、と思ったら突然の自爆により僕は致命傷を負った。

 ただ一人で、小さい円を描きながら同じ場所で踊っていただけじゃないか。

「はぁ」

 くぴ、と甘ったるい缶コーヒーで喉の乾きを潤しながら自虐する。

 でも、この心の傷と穴と絶望と憂いと渇きは潤いそうに思えない。

「――……ちっくしょうッ!」

 叫んで直後、僕は右手を振り上げた。

 目下の地面をめがけて、振り上げた。

 その手に持った缶ごと、振り上げた。

 そして、

「ッ!」

 ガンっ! と異音が響く。

 雨が作った水溜まりに新たな色が加わっていく。

 へしゃげた缶は、今の僕のようだ。

 流れ出る色は、心の血液のようだ。

「……」

 ひょい、と拾い上げた缶の中には、まだ少しだけコーヒーが残っていた。

「捨てなきゃ、な」

 ついやってしまった事だが、零れた液体は雨が水に流してくれるだろう。

 でも、まだ流れていない液体は、僕がどうにかしなければならない。

 だから、

「……」

 怒りの如くぶちまけた液体ではなく、未だ胸中という名の缶に残ったコーヒーは、

「はぁ」

 飲み下す。

 飲み下せない思いと共に。

 飲み下せない想いと共に。

 えづきそうになりながら。

 吐き気すら押さえながら。

 飲み下す。

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