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青春シリーズ

これが俺の生徒会活動

作者: SIM

 扇風機が室内の空気を循環させる。だがそれによって成されるのは、湿度の高いもわぁっとした空間の形成だった。

 風がまったく入り込まない、狭い室内でブゥゥーンと翅を鳴らし回る扇風機。この生徒会室に置かれている冷涼物はこれのみだ。

「あー……クーラー。クーラーはつかないの?」

 ポツリと漏らした俺の一言に、共に項垂れていた会計が体を起こし答える。

「今どきクーラーって言う人、久しぶりに見ました……普通エアコンじゃないの?」

「じゃあエアコン。エアコンはつかないの?」

「なんでそれを、前の大規模改装の時に言わなかったの……今さら言ったって遅いわー」

 そんなこと言ったって、あの時まだ春だったじゃん。超過ごしやすい毎日送ってたじゃん。

 それにお前も、『これで完璧!』とか言ってたじゃん。

 なんて文句を一つくらい言ってやろうかと思ったが、この暑さの中で不毛な口喧嘩をする気にもならない。また机にべたーっと突っ伏す。

「だいたい、ワタルちゃんが扇風機一つ壊したのが悪いんじゃん……おかげで会室の扇風機は『カズマ』一つだけ。独り占めもできないしー」

「その扇風機に名前つけるのは何なの?頭がお花畑なの?涼しいんだろうなぁ。ちょっと俺もそこに連れてって」

「死ね」

 女の子に死ねと言われて凹むほどのプライドも持ち合わせていない。いっそ、死んで涼しくなるのなら喜んで死にましょう。嘘です。


 夏真っ盛り。

「……プール、入りてえなぁ」

 いや、別にプールに入るまでしなくてもいい。あの冷たいシャワーを浴びるだけでもいい。

 そんなことを思うくらいには、暑い。

「…………」

「…………」

 お互い、ただ机に突っ伏すだけの時間が続いた。

「……やっぱ、家から出るんじゃなかった」

「……引きこもり脳、乙」

 何となしに言ったのであろうその会計の一言に、俺の意識は覚醒した。

「否!引きこもりではない!俺はただのお家大好きっ子だ!強いて言うなら家ごもり!」

 と、引きこもりを強く否定し、また倒れる。

 会計はそんなことどうでも良さげに唸っている。

 そもそも俺、なんで今日学校に来たんだっけ?

 会計なんかはともかく、副会長であるところの俺に夏休みの仕事はないのだが……。

 いや、ぶっちゃけ副会長ってのは仕事がない。本当ホント。単なる会長のサポート。まあその会長は校外交流とやらで今は不在なので、実質俺の仕事はない。

 だから今日は、別の用事で来たはずなのだ。

「……あ、そうだ。地域通信の記事書かなきゃいけないんだった……」

「あー、ワタルちゃん、それもやらなきゃいけなかったんだっけ」

「お前に押し付けられたからさぁ」

「てーへーぺーろー」

「聞くだけで暑くなるような言い方はやめてくれ……」

 地域通信に載せる記事を、この度私が担当することとなりました。はいー、拍手ー。

 ってなわけで、俺は今日学校にきたのだった。

 ちなみに会計は諸々の書類処理があるから、夏休み中もちょくちょく学校に来ている。

「会計ならもーちょいパソコン使えるようになれよ……せめてタイピングだけでも。なんでちょっとタイピング速いからって俺がやんなくちゃなんないわけ?……まいいや、適当に終わらせよ」

 パソコンを立ち上げたことによって、また少し暑くなった気がする。

 ええい、早く終わらせてやる!

「……んで、俺ってば何の記事を書けば良いの?」

「あー、あれ、先月の体育祭の」

 体育祭なるものが、先月、まだ少し涼しい中で行われた。それについて、結果や生徒の様子はどうだったか、などをまとめれば良いのだと言う。

 なんだ、それならまだ楽だ。

 それっぽいことでマスを埋めるのは昔から得意だ。おかげで弁論発表をやらされたことなんかもある。なんか言い回しが大人びているからだとか、視点が違うだとかで。

 今回もそんな感じで行こう。

 なかなか手は進まなかったが、指を動かし続けているうちにそれなりに埋まって来た。

「優勝したのどこだっけ?」

「たしかー……あ、私たちだわ」

「二年一組……っと。終わりー。こんなんで良いよね?」

 のそのそとパソコンを覗き込む会計を他所に、俺は財布を持ち立ち上がる。

「ちょっと自販機行ってくる」

「あ、待ってー。お金渡すから私のもなんか買って来て」

「あいよ」

 廊下はまだ少し、開放感のある涼しさがあった。

「これ、下手したら廊下の方が涼しいんじゃないのん……?」



 ぴったり十分で戻ってきた俺を迎えたのは、会計のやたらと輝いた笑顔だった。

「お、おう……どした」

「んー?なんでもないよ〜?(何か怖ろしい笑み)」

 とりあえずジュース、と言う会計にコーラを渡し、俺も醤油のような色をした液体を喉に流し込む。くぁっ、たまんねえ。

「んでさぁ、ワタルちゃん。これなんだけどぉ」

 やけに甘い声で話しかけてくる会計。

 ……嫌な予感しかしない。

「き、急に冷たいモノ飲んだからトイレに行きたく──」

「あぁ、それ私もだから我慢しろ♡」

 ガッチリ肩を掴まれたせいで逃げられない!!

「んー、とにかくここに座ろっか」

 そう言われ、俺が座らされたのはパソコンの前。ディスプレイに映るのは俺が打ち込んだ、地域通信に載せる記事。

「……あのー、何か不備が?」

「んっふふ〜」

 怖えですよ?

「ワタルちゃん、とりあえずもう一度読み直そ?」

 言われた通り、自分が打ち込んだ文章を読み直す。……別に誤字脱字があったりはしない。何がいけないのだろうか。

「あ、わからない?じゃあもう一度」

 言い知れぬ恐怖を背後に抱え、ある意味では涼しくなったところで二度目も読み終わる。

「…………」

 サッパリわからん。

 え?なんで俺怒られてんの?

「あのさぁ──」



『○○高校体育祭!』

 今年は例年より少し涼しい中で行われた体育祭。とは言っても暑いモノは暑い。こんな中で汗をかこうとか馬鹿げてると思いながらも、みんな自分の競技をこなそうと奮闘する姿が見られました。


(中略)


 流れ落ちる汗がグラウンドの土を濡らし、それで滑らないかなーと期待していたリレー。だがその期待は裏切られ、誰も転ばず全員がゴールしてしまいました。結果的には良かったのかもしれませんが、トリを飾るにしては少し面白味にかけていたと思います。

 来年こそはみんなで、誰かが転ぶ姿をカメラに収めましょう!


(中略)


 結果としては二年一組が優勝ということでしたが、これはクラスの結束の結果と言うよりは、むしろ一人一人がバラバラに、個人で頑張ったからこそだと思います。みんなで仲良く、などの甘い思想より、己のために、という姿勢が、クラスを優勝へと導いたのではないでしょうか。


(中略)


 最後に、来年は暑そうなので体育祭はない方が良いと思うのですが……みなさんはどうですか?署名があれば、この案を提出できるので……同志をお待ちしております!



「──ぜんぶ書き直せッ!!」


 俺はクソ暑い中、頭が湧くような、優等生みたいな記事になるまで直させられたのだった。

ふと、こんなことがあったなぁ、と。

あの頃の自分は、良くも悪くも中二病で……あ、今もでした。

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