目的
月面観測所の所員がモニターを見ながら叫んだ。
「な、なんだこれは!」
そこに映し出されていたものは、円盤型の物体。クレーターの中央付近にゆらゆらと浮かんでいる。その形は明らかに世間一般にいうUFOだ。他の所員たちも集まってきて、モニターを食い入るように見つめている。
「UFOだ。」
「いや、どこかの国の探査機じゃないのか?」
「そんな情報はないぞ。」
ざわつく所員が見つめるモニターの中で、そのUFOらしき物体は静かに着地し、動かなくなった。
「宇宙ゴミじゃないのか?」
「いや、なにか光ってるぞ。」
「拡大できるか?」
「また何か来たぞ!」
騒ぎ立てる所員が見つめる中現れたのは、もう一機の円盤だった。最初の円盤とは少し違う。いわゆるアダムスキー型のものだ。同じようにゆらゆらと着地した。そしてさらにもう一機、今度はかなり大きく細長い形をしている。そしてその数は瞬く間に増えていき、大小合わせて100機を越えた。
「緊急事態発生!月面に未確認飛行物体が集結!」
情報は一瞬で世界を駆け巡った。
「侵略だ!宇宙人との戦争だ!」
人々はパニック寸前になり、世界中の軍隊が臨戦態勢に入った。国連緊急会議も開かれた。ただし月面のUFOと思われる艦隊?にはなんの動きも見られない。
「特に攻撃されているわけでもないし、もしかしたら友好的なものかもしれん。とりあえず見守るしかないか。」
国連幹部の一人がそうつぶやいたとき、一機のUFOが浮き上がった。最初に来たやつだ。そして一瞬で地球の上空にやってきたかと思うと、険しい山岳地帯の方に飛び去った。
「始まったか!」
「追跡しろ!」
世界中に緊張が走る。レーザーやミサイルが発射準備に入る。そしてそのUFOはある山岳地帯の谷間へと消えた。各国の空軍機が後を追う。最新鋭の追尾システムも奴らにとっては原始的なものかもしれない。だがなんとか居場所を突き止めた。そこは大きな洞窟。その入口はまるで巨大なサメが口を開けたような形をしている。こんな洞窟がいつからあったのか誰もわからない。いったい中に何があるのか。なんのためにここに来たのか。さまざまな憶測が飛び交う中、世界中の軍隊が洞窟の周りを固めた。
「月面よりまた一機浮上!」
その情報と同時に、洞窟から最初のUFOがゆっくりと出てきて一瞬で上空に消えた。入れ替わるように先ほど月面で浮上したUFOが洞窟へと入っていった。依然として攻撃を加えるような様子は見受けられない。
「UFOの整備工場?給油基地?」
さまざまな意見が交わされている間、UFOは数十分おきに入れ替わり立ち代り出入りをしている。
「このまま見ているだけでいいのか。」
「危害は加えてないのだから、争う必要はない。」
「いや、中でなにかを採掘しているかもしれない。地球にとっては損害だ。」
かくして特殊部隊が編制された。もちろん中で何が行われているかを調べる為だ。完全武装といっても奴らにどれだけ有効かわからない。極秘に開発された異星人の言葉を翻訳する装置も持ち込まれた。特殊部隊がサメの口型の洞窟に入る。しばらく進むと細長いプレートがあり、文字か記号のようなものが書いてある。世界の全ての文字を知らなくてもそれが地球上のものではないことがわかる。さらに奥へ進んでいく。白い建築物とガラスの壁が見えてきた。そばに先ほどのUFOらしきものがある。建物の中には白衣のようなものを着た人影が見える。
「実験施設か?」
「地球の人間が協力しているのか?」
「いや、あれが宇宙人じゃないのか?」
さらに近づくと、何か金属を削るような音が聞こえてきた。
「やはり何か採掘しているのか?」
特殊部隊はガラスの壁までたどり着き中を覗き込む。何かの機械の周りに白衣を着た人間が4人。女性もいる。機械の上に宇宙人らしきものが横たわっている。横のソファーにも宇宙人が座っている。何かしゃべっているようだが地球の言葉ではなくわからない。
「おい、翻訳機を使え。」
翻訳機を彼らの方に向ける。特殊部隊の隊員たちは翻訳機の周りに集まり彼らの会話に聞き耳を立てる。
宇宙人「いやぁ、やっぱり歯医者は先生のところが一番だよ。痛くないし丁寧だし。銀河系中探してもこ んな歯医者はないよ。」
先 生「そりゃどうも。なんか最近ネットの口コミで広がっちゃって患者さんがすごく増えたんですよ。 おかげでパーキングも月極めで借りてね。あ、N星人さん、今日は神経抜いてますからね、痛む ことはありません。来週新しい歯をいれましょうね。」
宇宙人「ありがとうございます。それとまた助手の女の子がかわいいんだよなぁ。こちらも銀河系一だ よ。」
助 手「まぁ、N星人さんったら。はい、今日は1560宇宙ドルですね。次の方どうぞぉ。受付54番 のS星人さーん・・・」
月面でまた一機のUFOが浮かび上がった。