ピアニストの恋
ああ、ピアノ。
僕は、君に成りたい。
触れれば、綺麗な声で歌う。其れが、どんなに低い音でも、どんなに高い音でも。
決して掠れたりはせず、強く、それでいてしなやかな歌声。
そんな君の歌声が、……否、そんな君が、僕は、狂おしいほどに愛しいのです。
ぴ、 あ、の。
どうやって、呼ぼうか。君の名前を。
なるべく、優しく呼ぼうか。それとも、激しい愛に任せて、大声で呼んでみようか。
ああ、ピアノ! 君のことが……、
そうして、今日も君に触れる。
黒と白で飾られた衣装。
是ほどまでにシンプルで、其れでいて美しい衣服を、僕は見たことが無い。
余計な飾りなど要らぬ、と格好付けているわけでもなし、私などに派手なものは似合いませぬ、と謙遜しているわけでもなし。
其れが、彼女なのだ。ああ、本当の個性とは、このようなものをいうのでは無いだろうか。
彼女こそ、世界で一番の美。
強く触れれば、強い音。弱く触れれば、弱い音。
其れ相応の返事をしてくれる。優しい君。
君ほど、平等な存在が、此の世に存在するであろうか。
ああ、人間が全て、君のようだったら……!
君。
僕は、永遠の愛を誓う気だってある。
分かりきっているのだ。僕が、君に成れないことなど。
其れなら、君に一番近い存在で居たい。
ああ、せめて一緒に死ぬことが出来たら。けれど、君は、一緒に生きることしか許しては呉れない。
僕が死んでも、君は生き永らえる。
そして、僕以外の奴の指で、メロディを奏でてしまう。
ああ、ピアノ。
僕は、君に…………、