表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネレイド  作者: 唐笠
9/35

家庭の事情と大事な話

家の遠さもあって、結局自宅に帰ったのは十時すぎだった。まぁ、別に門限とかはないので気にすることは無いのだが。

「ただいまー。」

「おう、陸か。今日は遅かったな。蒼夸ん家行ってたのか?」

「うん。まぁ…て、何で知ってんの!?」

「親をなめるなよ。」

恐ろしい親だ…

「結局蒼夸とは離れなかったのか…」

「…」

「…まぁ、気にするな。」

「え?」

「こうなっちまったんじゃしょうがない。頑張って蒼夸を幸せにしてやれよ?あいつ、一人なんだから。」


「…え?」


「えって何だよ、えって。」

「一人ってどういう事だよ…」

「あ?話してないのか?あいつ。」

「どういう…」

「あいつ、親に捨てられてんだよ。」

「…」

それでか。家がああなってたのは…

「どこ行く気だよ。」

今さら誤魔化せないだろう。

「蒼夸ん家。」

「止めとけ。」

「何でだ。」

「聞かなかったことにしろ。」

「は?」

「蒼夸を傷つけたいのか?」

「…」

「いずれ蒼夸から話が有るだろう。それまでは耐えろ。」

「…だ。」

「?」

「いつからだ…?」

「知らん。」

「嘘つけ。」

即答した。確証は無かったが。


「…八年前だ。」


珍しく父が押し負けた。いや、もしかしたらこれ以上は詮索するなという忠告かもしれない。

「俺が引っ越した時か。」

「…」

「俺が関係してるのか?」

「…」

一向に答えは帰ってこない。


「…陸。」

「何だ?」

「交渉だ。」

「は?」

「俺は一個だけ質問に答えてやる。その代わり、俺の質問にも一個答えてもらう。」

「構わない。それで、さっきの質問は?」

「答えは『YES』だ。」

「…!!」

俺が悪いのか。ということは、その代償として俺はこの地を去ったのか。そして、蒼夸は親に捨てられた。じゃあ何故俺たちは此処に戻ってこれた?

「親父…」

「質問は一個までだといっただろう。次は俺の質問に答えてもらう」

「…」

「蒼夸に親しい奴で、怪しいやつは居ないか?」

「?」

どういうことだ?うちのクラスに、怪しい人なんて…


『早くなさい。蒼夸が死ぬわよ。』

『引き返せなくなるのは覚悟なさい。』


「あ…」

「誰か居るのか?」

「永久子かな…」

「…本名は?」

「鳥羽永久子。」

「…」

「親父?」

「分かった。有り難う。」

そう言い残し、親父は自分の部屋へと戻っていった。


翌日


「おーい、陸ー。」

親父の声だ。昨日の事などなかったかのように、声を上げている。

「何だー。」

「蒼夸ちゃん来てるぞー。」

「!?」

今日は休日。そして、まだ朝六時。

仕方なく、パジャマのままで玄関を出る。

「…どうしたの?蒼夸。」

「これから暇?」

朝六時に言われる台詞ではない。

「まぁ、暇だけど。」

「じゃあ、ちょっと出掛けない?」

蒼夸が少々赤くなりながら話す。

「別にいいよ。すぐ支度するから待ってて。」

そう言い残し、もう一度家のなかに戻る。

「陸。」

「んぁ?」

「あの事だけは話すなよ?」

「ん。」

あのときは冷静じゃ無かったのであんな行動に出たが、よくよく考えれば、それを隠している蒼夸に話せる訳がない。

私服に着替え、家を出る。

特に行き先は決まっていないらしく、どこ行こっかと声をかけてくる。取り敢えず、無難にカフェに行くことにした。

やたら長い名前のものを注文する勇気も気力もないので、普通にブラックコーヒーを頼む。蒼夸も同じだった。客は殆どおらず、テラスに数人いて、店内は俺達だけだった。

コーヒーを一口すすり、ふと蒼夸の方を見る。

蒼夸が少し泣きそうになってた。

「どうした!?」

「苦い…」

ブラックコーヒーを初めて飲んだようだ。急いで机の上のミルクと砂糖を入れてやる。蒼夸がもう一度ミルクをすすり、少し笑顔を綻ばせた。

「ビックリしたぁ…」

「こっちの台詞だよ。何でブラック頼んだの?」

「いや、知らないのしか無かったから、陸が頼んでるやつだったら大丈夫かなぁって。」

「ダメだったね。」

「うん。ダメだったよ。」

二人で笑った。

他愛のない会話が弾む。続く。


でも、本当に話したいことはそんなことじゃないんだろ?

顔色を見ていれば分かる。これはあくまで余興に過ぎない。今日、俺の家に来たのは出掛けたかったからじゃない。話に来たんだ。

「蒼夸。」

「ん?」

「話したいことがあるんだろ?」

「…お見通しかぁ。」

蒼夸は静かに微笑んで会話を切った。

「正直、話そうかどうか悩んでるの。陸を巻き込んでいいものか。それに、貴方にこんな話して、引かれないか…」

俺はそっと、机の上にある蒼夸の手に手を添えながら、返した。

「俺は蒼夸を信じてる。」

すると、蒼夸は涙目になって、返した。

「やっぱり、敵わないなぁ。」

すぅ、と蒼夸はゆっくり息を吸った。そこにいたのは、同い年とは思えないほどの貫禄をもった少女とも思えるような、真面目な蒼夸の顔だった。

「あのね…」


ずん。


衝撃が走った。

精神的なものではなく、身体的な方だった。

身が空に投げ出された。机は飛び、窓ガラスは割れていた。

俺は蒼夸の位置を確認し、手で引き寄せ、かかえて自分が下になるよう、向きを調節した。

死を覚悟した。

しかし、その数秒後には蒼夸は俺を抱き抱え、着地していた。何という運動神経だろう。そう言えば、前も俺を抱き抱えて窓から飛び降りてたっけ。ともかく助かった。

俺は衝撃の震源の方を見た。そこには、あかい髪に朱い目をした、少年と少女が突き破った天井の真下に立っていた。

「あの子かな。」

「多分。隣の男はどうする?」

「殺っちゃおっか♪」

「だねー♪」

何やら恐ろしい会話をしている。

「とことん邪魔が入るなぁ…」

蒼夸は静かに呟いた。



「じゃあ、その子を捕らえれば、焔守軍の人員をぐっと増やす方法を教えてもらえる訳ですか。」

「あぁ、多分な。」

「試してみる価値は有りそうですね。


苫部さん。」


「しかし、今さら焔守軍の人員を増やす必要、あるのか?もう、水守軍は壊滅的どころか、あいつで最後なんだろ?」

「いえいえ。利用するのは次回ですよ。次の戦いに備えるんです。」

「なるほど。」

「しかし、何でまた一度裏切ったあなたがまた此方に?」

「ちょっと事情がありまして…此方も信じていただけて助かりますよ。」

「困ったときはお互い様ですわ。」

「ははは…」

陸の父の苦笑が、とても静かな冷たい部屋に響いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ