蒼夸の言葉と途切れた電話
朝。
と言うか相当早く起きてしまった。まだ4時過ぎだ。まだ日も出ていない。
「…暇だ…」
まるでそのぼやきを聞いていたかのように、絶妙なタイミングでメールが届いた。蒼夸からだった。
『話がある。直接会って話したい。』
どうせ暇なので、応じることにした。
『分かった。どこにいけばいい?』
『案ずるな。もう君の家の前だ。』
急いで自室のカーテンを開ける。
蒼夸が立っている。目が合うと、片手をピッとあげ、挨拶を求めていた。
無視して、普通に外に出る。
「…なんかしてくれてもよくない?」
第一声がそれか。
「ごめんごめん。で、話ってのは?」
蒼夸が少し顔を赤らめた。
「あ、うん。えっとね…」
かなりきょどってる。
「…歩きながらでいい?」
「うん。構わんよ。」
二人で歩き出す。目的地があるわけでもなく、ただただ歩く。まだ相当暗い。
ということは、蒼夸が家に来るときは、まだ真っ暗だったのではないか。というか、まだ電車の始発も出てない時間だ。歩いて来たのか?俺でも一時間は掛かるぞ?
「べ、別にメールでもいいかなって思ったんだけど、やっぱ大切な話は直接話した方がいいかなって…」
今日は普通な話し方なんだな…
ん?
「なぁ、蒼夸。」
「な、何?」
「なんで俺のメアド知ってる?」
「ギクッ」
…
「と、ととと永久子に教えて貰って…」
「いや、永久子にも教えて無いから。」
「…」
「…」
「…ご免なさい。勝手に陸の携帯の中調べました。」
「ぶっ。」
思わず吹き出した。いつものきつく当たる蒼夸とのギャップがあまりにも面白かった。
「あはははは。」
「ちょっ、笑わないでよー!」
蒼夸がポコスカと猫パンチを繰り出す。もちろんダメージは無い。
「素直に聞けばいいのに…ぶふっ。」
「だ、だって恥ずかしいじゃん!!好きな人のメアド聞くなんて…」
「……………え?」
「……………あ。」
長い沈黙が俺たちを包む。
「い、今なんて…?」
顔に手をあて、踞っていた。。
「…あ、あのー…蒼夸さん?」
「ま、待ってー!!気持ちの整理させてー!!」
「いや、それこっちの台詞!!」
また沈黙。
「…あのね。」
切り出してきたのは蒼夸だった。
「まぁ、話したいことが二つあって…ひとつはその事で…まぁ、今度返事が欲しいと言うか…」
つまり、端的に言えば告白か…
ゴッ
思いっきり電信柱に頭を打ち付ける。
「ちょっ、陸!?」
「…何でもない。気にしないで。」
保て!!平常心!!
「…うん。また今度返事するよ。で、もうひとつって言うのは?」
「あの…一応確認しておきたいんだけど…陸はどっちの種族なの?」
「え?何の話?」
「何って、水守と焔…」
ふと、目を覚ました。
「おう、陸。起きたか。」
起き上がり、周りを確認する。ここは自宅だ。間違いない。
「あれ?俺外に出て…」
「なにいってんだ?ずっとそこで寝てたぞ?」
「えぇー…」
ゆ、夢か…
まあ、冷静に考えたら、あんな時間に蒼夸が来るわけないか…
「それより、時間大丈夫か?もうすぐ始業だぞ?」
「もっと早く言えよ!!」
ダッシュで駅に走る。いつも通らない狭い近道を通る。今朝、夢の中で蒼夸に告白を受けた場所だ。
「…」
思い出して、少し恥ずかしくなって、不意に横を向いた。
血が浸いていた。
電信柱に。
これは、
今朝頭を打ち付けた、
電信柱。
何故?
今朝のことは
夢か。
現か。
俺は遅刻しそうなことも忘れ、ただただそこに立ち、血の浸いた電信柱を見つめいていた。
プルルルルル
プルルルルル
「はい、もしもし。」
「蒼夸か?」
「はい…
陸くんのお父さん。
何でしょう?」
「今朝言ったこと、分かっているよな。」
「え、えぇ。」
「お前が人並みに恋するのは別に構わん。所詮、俺らやお前らは人外だ。そこに関しては関与はしない。だが、戦争は別だ。」
「…」
「今のあいつは中立だ。水守軍でも焔守軍でもない。そもそも、あいつはその事を、知らない。いや、俺が知らせていない。お前も気づいていたはずだ。あいつは焔守軍と対峙した時、本性を見せるどころか、相手が見えていなかった。これは、まだあいつに自分が人外であることに気付いていない証拠だ。」
「…それで、本題は何ですか?」
「あぁ、すまん。話が逸れた。ここからが本題だ。
お前は以前、陸を戦争に巻き込みたくない、と言っていたはずだ。それは水守内で決められたこととなり、あいつには、人間としての人生を歩ませる、と決めたはずだ。ならば、何故お前は陸を誘導する?」
「…」
「誰の差し金だ?」
プツッ
プー プー プー…