解せぬ気持ちと誤魔化す親子
その日、蒼夸は俺をおいてすぐに帰路についていた。まぁ、本来俺は電車通学だから、歩いて帰らされるよりかはずっといいが。
「ちょっと待ってー。」
駅に向かっている俺を永久子が走って追いかけていた。
「話があって…」
「蒼夸のこと?」
なんとなく予想がついた。
「いや、ちょっと違うよ。」
「違うだと!?」
予想外デス。
「なんで蒼夸に言っちゃうかなー。」
あぁ、そのことか。ほぼ蒼夸のことだし。
「いや、はっきりさせときたくて…」
「で、返事は?」
期待する目で俺を見ている。
「いや、蒼夸が、違うからー!!って叫びながら走り去っていった。」
「あ、うん。一緒に帰ってないあたりから、なんとなく予想はついてたけどね。」
「別に俺が思い人って訳では無さそうだけど。」
(こいつ、鈍い!!蒼夸…お気の毒に…)
永久子が、少し残念そうな顔をする。
「あっ、ごめんね?引き止めちゃって。」
「うん。というか、俺も聞きたいことあるんだけど。」
「何?」
「なんで永久子は、そんなに蒼夸に協力してるの?」
「あ、うん。まあ…いろいろとね。」
「言いづらいこと?」
「まぁ、ね。」
「ならいっか。」
別にそれほど知りたかったわけでもないし。
「じゃあ。」
「うん。また明日。」
別れの挨拶を済ませた後で、永久子が耳元でそっと呟いた。
「早くなさい。蒼夸が死ぬわよ。」
「は?」
「じゃあねー。」
謎の台詞を残し、二度目の挨拶を言い残し去っていった、訳あり少女の背中をただ見ることしか出来なかった。
家に帰るとすぐに永久子の言葉を思い出す。
蒼夸が死ぬわよ。
死ぬってどういうことだ?それはあれか?社会的にってことか?いや、でもそれだったらあんな深刻そうには言わないだろう。そう言えば、蒼夸に協力する理由を聞いたときに、なんか渋ってたな…
永久子は、蒼夸の何かを知っている?
まあ、なに考えても、答えが出るわけもないので、諦めて寝ることにした。と、その時。
「ただいまー。陸ー、飯作れー。」
「飯くらい、自分で作れよ!!親父!!」
「しょうがないだろー。母さんが居なくなるまで自炊なんてしたこと無かったし。」
そう。俺の母さんはもうすでに亡き人になっている。とはいっても、あまり母さんの記憶はない。なんたって、小二の頃の記憶を覚えていないのだから、もっと幼い頃に死んだ母さんの記憶などない。
仕方なく料理を始める。そう言えば、母さんはどんな人だったのだろう。優しいとか、可愛いとかは、やたらと親父に聞かされたが、姿を知らない。
「なぁ、親父ー。」
興味本意で聞いてみることにした。
「なんだー?」
すでに酒を飲んで、だいぶ酔いが回っているようだ。
「そう言えば、母さんの写真とかないのー?話は聞かされたことは沢山有るけど、見たことないからさー…」
「ない。」
即答だった。酔いが回っているとは思えない早さだった。
「まぁ、無いなら無いでいいけどねー。」
「また蒼夸か?」
え?
いや、その質問は意味がわからない!!
どこから蒼夸が出てきたんだよ…
「いや、全く関係ないけど…」
「ん?そうか…」
そういって、再び酒を飲み始めた。
「何で蒼夸が出てきた?」
「いや、気にするな。」
「いつまで誤魔化すつもりだ?」
「…どういうことだ?」
「親父、何か俺に隠してるだろ。」
「何か証拠があるのか?」
「いや、ないが…でも…」
「だったら、余計なことに首を突っ込むな。」
「余計なことって何だよ!?家庭内の問題に首突っ込んで、何が悪いって言うんだよ!!」
「いいから黙ってろ!!これは家庭内だけの問題だけじゃないんだよ!!」
「…」
「…早く寝ろ。」
完全に押しきられた。
だが、何かを隠していることは確かなようだ。
正直な所、この事に関しては、完全に興味本意で調べている。実際、今のままでなにか悪いことが起こるっていうことは無さそうだ。本当に首を突っ込まない方が良いのかもしれない。