『神の名において貴様を断罪する!』と言われましても、私がその『神』なんですが?
アルコア様を世の中に知らしめたいので初投稿です
「これより、大罪人ミゼーアの処刑を執り行う!」
広場を蟻のように埋め尽くす群衆たちが、処刑人の言葉にわぁっと沸いた。
私は断頭台の上からそんな彼らを見下ろしている。
「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」
誰が言い始めたのか、大衆たちは一体となって私の死を渇望する。
私がどんな罪状でこうなったのか、きっとそれをよく知らない者が大半だろうに。
「聞こえているか、貴様の罪の重さが」
私と向かい合う席に座る王様が、私にだけ聞こえる声で呟いた。
「ふふっ……」
「何がおかしい?」
思わず笑いが込み上げてきちゃう。
だって――
「さぁ……神の名において貴様を断罪する!」
王様がそう叫んだ途端――
押さえ付けられ跪いた私の首に、処刑人の斧が振り下ろされた。
瞬間、世界がぐるりと滅茶苦茶に回転する。
視界の端が真っ赤に染まる。
群衆たちの歓声が更に沸き上がった。
――〝神の名において貴様を断罪する!〟
ふふ……。
やっぱり人間って面白いわね。
私が、その〝神〟だとも知らずにね……。
*
天上に住まう神の力の一部をその身に降ろした人間。
神と人を結ぶ橋渡し。
それが、この国に神の加護を与えてる巫女たる私――〝ミゼーア〟。
……と、表向きには知られていた。
でも実情は、私はこの国で信仰される神〝アルコア〟の人間擬態体なんだよね。
これを知る者は歴代王族と侯爵以上の一部貴族のみ。
逆に言えば、私の処刑を王が認可したという事。
――モーゼス伯爵を毒殺した
私はそんな濡れ衣を着せられて、弁明の機会さえ与えられずに断頭台送りにされた。
つまり、もう神の力は必要ないって事だよね?
わかったわよ。
ふふ、怒ってなんかないわよ?
人間が愚かなんて、今に始まった事じゃないから。
あらら、首が落っこちちゃった。
人間の体に擬態してるから、血もちゃんと出る。
でもね、私を殺したいのならこんなんじゃ全然足りない。
ふふ、人間ってやっぱり愚かね。
「何だ……この違和感は?」
ふふふ。
何って、貸し与えていたものを引き上げただけよ?
この国に限定した神の加護、それを無くしたの。
何百年も私の力でインフラだとか色々回してたみたいだけど、今日でおしまいね。
灯りもつかない、水も出ない。
けれどもう私の知った事ではない。
よっこいしょっと。
「し、死体が……立った!?」
何驚いてんのよ?
あ、そういえば人間って首がもげたら死ぬんだっけ?
ごめんにぇ~、私この体がどんな状態になっても死なないから~。
頭はどこかしら?
あぁ、あったあった。
よしよし、繋がった。血管も延髄も問題なく接続されたわね。
「それじゃあ皆様、さようなら」
少し名残惜しいけど、私の加護はもう要らないみたいだしお別れね。
翼を背中から生やして、飛び去ろうとしたその時。
「な、何をしている! その魔女を殺せーっ!!!」
王様が叫んだ。
処刑人くんや兵士さんたちが、私を殺す為に魔力で身体強化を試みているけど……上手くいかないみたい。
「何だこれは……体が重い……」
「動けねぇ……」
それもそうでしょ?
だって、私の加護はもう無いんだもの。
君たちが望んだことだよ?
さよならは言ったし、もういいよね?
さーて、今度は何処に行こうかしら?
*
ネメシア王国第34代国王メギュストスには、大陸統一という野望があった。
彼の治めるネメシア王国は、守護神アルコアの加護を受けている。
その内約は、ネメシア王国民の魔力総量と出力を数倍に強化する……というもの。
ネメシア王国民であれば、誰でも簡単に上位魔法を扱えるのだ。
これを持ってすれば、他国の制圧など造作もない……はずだった。
だが、それは出来ない。
神の化身と云われる巫女ミゼーアによって、魔力の増幅効果は自国領内のみに限定されている。
「――自らを神の化身などと嘯く痴れ者め」
メギュストスにとってミゼーアは邪魔で目障りだった。
それからミゼーアは、あっさりとメギュストスの謀略に嵌まった。
――本当に神の化身ならば、易々と捕まるはずがない。やはりミゼーアは神を騙る偽者なのだ。
処刑が決まってからもずっとニコニコと笑みを絶やさないのは不気味だが、それも今日まで。
公開処刑は、拍子抜けするほどあっさりと執り行われた。
その首が切り落とされる瞬間まで――ミゼーアは笑みを崩すことはなかった。
全てはメギュストスの思惑通り――
そのはずだった。
「なぜじゃ……何故こうなった……」
処刑から2日後、城の周囲には国民たちが押し掛け、口々に不満を叫んでいる。
灯りや上下水道、料理に使う火すらうまく出ない。
ネメシア王国のインフラは、ほぼ停止状態に陥っていたのだ。
国民たちの不満が王へ向かうのも必然。
このままではメギュストスは王座から引きずり落とされるだろう。
「まさか本当にアルコア様の化身じゃったのか……? ――否、断じてそんなことはあり得ぬ。あっていいはずがない……!」
自らの過ちを認められず、かといって受け入れる道も残されず。
「そうじゃ、全てあの魔女のせいじゃ……! これは悪しき魔女が仕組んだ呪いなのじゃ!」
そうだ、そうに決まっている。
――ネメシア王国は、悪しき魔女ミゼーアに呪いをかけられた。
ミゼーアを殺せば、全てが解決する。
……それは、ただの妄想に過ぎない。
メギュストスは致命的な勘違いをしている。
――ミゼーアは、神は、人間がそう望んだから、それに応えた。それだけである。
だがメギュストスは、決して取ってはならない方法に手を染めようとしていた。
暗く冷たい地下の一室――
「うえぇぇぇん!!」
「やだぁ、助けてぇ……!」
スラム街から仕入れた子供ども二十匹余りが、四肢を縛られ狭い箱に詰められている。
――これだけあれば、〝あの儀式〟を成功させられる。
「神よ……どうか……」
メギュストスは、儀式の成功を神に祈った。
だがメギュストスは気づいていない。知りようがない。
その方法が、神の逆鱗であるということを。
*
ネメシア王国を出てから、私は隣国との緩衝地帯を放浪していた。人の住んでいない、砂漠と荒れ地が広がる地帯だ。
次は何をしようか?
エルフどもの住むあそこに行ってみようか?
岩の上に腰かけて、人間を模した脳で思考している最中。
「見つけた……! あんたが、魔女ミゼーア……!!」
「あら? こんな所で私に何の用かしら?」
凄絶な顔をして剣を私へ向ける、ぼろぼろの布を纏った女の子が立っていた。
さしずめ王国からの刺客、かしらね。私の居場所が分かったのは占術魔法かしら。
仮に私を殺せたとしても、無意味なのにね。
「とぼけないで魔女……! あんたさえ殺せばわたしは……!」
うーん、このまま飛び去ってもいいけれど、粘着されるのもちょっとやだわね。何やらワケアリのようだし?
「ふふ……いいわ、少しだけ相手したげる」
大岩から飛び降りて、砂の上に着地する。
相手の女の子は、剣をガチガチと鳴らすほど強く握りしめている。
「はあぁぁっ!!!」
大振りな一振りが、私の首元を掠めた。
殺る気まんまんね。
「危ないわねぇ。あなた王国の刺客かしら?」
「そう! あんたはわたしが殺す……!」
とはいえ動きはお粗末。素人ほどじゃないけど、ちょっとお話にならないくらいには雑。
ぶんぶん何度も私の首や心臓を雑に狙ってくるけれど、避け易すぎてあくびが出ちゃう。
「きゃっ!?」
ほんの軽く突き飛ばしただけで、あっさりと転んじゃった。
やっぱり戦闘経験ほとんど無さそうよね。なんで来たのかしら。
「このっ……喰らえっ!!」
あら?
体が、重い……?
周囲の枯れ木や岩が宙に浮き、私に目掛けて殺到してくる。
……なるほど、重力かしら。
私を中心に強力な重力場を作り出したみたいね。
そして、この力はただの魔法ではない。
私は集まってきた砂やら岩やらに飲み込まれてしまった。外から見れば球状の塊になっているかしらね。
それに凄まじい圧力……普通の人間だったら一瞬でビー玉サイズに圧縮されてたかしら。
でも、私にとっては大したことないわ。
「っ!?」
重力場もろとも消し飛ばし、私は彼女の前に無傷で舞い降りて見せた。
何を驚いてるのかしら。私は神よ?
想像できうる大概の事はできるの。
「なんでそこまでして私を殺したいの?」
「うぅ……あんたさえ殺せば、元の世界に……帰れるって……!」
剣が私の喉へ一閃。しかし私はそれを手のひらで受け止めて、握り砕いてみせた。
……へぇ。
なるほど、話が見えてきたわね。
――異世界からやって来た者は、世界を渡る過程で大きな力を宿す。
分かりやすく言うなら【チート能力】ってやつね。
この【重力】もその類ね。
……あの王様はこの子を無理やり召喚してわたしにけしかけた……ってとこかしら。
「おうちに、帰りたいだけなのに……!」
元の世界で幸せに暮らしていた、この子を。多数の生け贄を使って。
――それは、ダメでしょ?
「ふふふ……」
えいっ。
眉間を軽くデコピンして意識を刈り取って、と。
ふむふむ、魔術による奴隷契約まで結ばれてるわね。これじゃ命令に逆らえないはずよ。
可哀想に、解いてあげる。
これで晴れて自由の身。
さぁて、次は……
この子を召喚した痴れ者を駆除しに行かなくちゃ、ね。
*
教会でニコニコしているだけのあの女さえ、――ミゼーアさえ居なければ。
後の無いメギュストスは、ついに禁忌に触れてしまった。
「よくぞ召喚に応じ参った、異界の勇者よ」
「へ……?」
床に描かれた巨大な五芒星の中心に、襤褸を纏った少女がへたりこんでいた。
異界の生物を呼び出す召喚陣――禁忌とされる邪法を持って、メギュストスは異世界から一人の少女を呼び出した。
「あ、あの、ここは何処なんですか? あたしは……」
「黙れ! 王に向かって不敬であるぞ!!」
憲兵が少女へ剣を向ける。
「ほっほっほ、よいよい。そなたは選ばれし勇者として、この世界に呼び出されたのじゃ。どうかこの国を救ってはくれぬか?」
「あたしが、勇者……?」
「そうじゃ。この国は今、悪しき魔女ミゼーアによって呪いをかけられておる。この呪いを解くにはミゼーアを討つ他ない」
「……そうすれば、おうちに帰れるんですか?」
「……うむ。約束しよう」
こうして――メギュストスは異世界から呼び出した少女を、ミゼーアにけしかける事になったのである。
だが……
――愚かなガキめ。異世界とはかくも劣った知能の人間しかおらぬようじゃ。
元の世界に帰す方法など存在しない。
そもそもメギュストスは、ハナから彼女を使い捨てにするつもりで召喚したのだ。
――召喚の儀には多数の贄が必要となるが、スラム街の子供なぞいくらでもいる。
もし呼び出した彼女が失敗したとしても、また召喚すればいい。
それに、ミゼーアを殺せて用済みになれば毒を盛るなどして処分する。
ミゼーアの呪いが解けたならば、死して英雄となってもらわねばならない。
しかし、だ。
その企みが叶うことはない。
「こーんばーんわーっ!」
誰もが寝静まった、月のよく射し込む夜――
メギュストスは、夢にまで聞いた声で目を覚ました。
ベッドに横たわるメギュストスを見下ろしていたのは、真っ白な修道服に身を包んだ金髪の少女――
「みっ、ミゼーア……?!」
「お久しぶりです王様!」
「衛兵ーっ! 衛兵!!!」
月明かりの逆光の中でも不自然に浮かび上がるミゼーアの姿に戦き、メギュストスは助けを呼んだ。
ミゼーアのにっこりと細めた瞼から、虹色の光が零れ落ちる。
「っ何者だ!?」
「み、ミゼーアだ!」
駆けつけた衛兵たちがメギュストスとミゼーアの間に割り込み、取り囲む。
王国全体に呪いをかけたとされる〝魔女〟。
たかが衛兵数人にどうこうできる訳がない。
それでも立ち向かった事は称賛に値すべきだろう。
だが……
「邪魔」
ガランと音をたてて、衛兵たちの持っていた武器が一斉に床に落ちる。
たった一言。手すら触れていない。
にも関わらず、衛兵たちは白目を剥いて、立ったまま失神してしまっていた。
「ひっ、ひいぃぃぃ!?」
「こら。アレはダメでしょう? さすがに怒るわよ?」
「な、何のことだ……!?」
「あの子たちのことよ。可哀想に……」
ミゼーアはゆっくりとメギュストスの顔を覗き込んだ。
そしてゆっくりと、その〝瞼〟が開かれる。
――思えば、1度もミゼーアの瞳を見たことがない。
いつもニコニコ笑って、目を細めたままだった。
その瞳はまるで、西陽の射し込む色ガラスの窓のようであった。
7色色とりどりの断片が寄り集まって、『眼』を模倣している。
それはとても、人間のものではなく――
――異次元の彩色
「あ、あぁ……」
今にも正気を手放しそうになる中、メギュストスは理解してしまった。
これが、〝神〟なのだと。
自らの行いがいかに愚かであったかを、まざまざと自覚させられる。
「ごめ……なさ……」
謝罪に意味はない。
後悔はとうに遅い。
恐怖も後悔も畏れも何もかも、メギュストスの全てが無意味。
神の怒りに触れたなら、残された末路は1つだけ――
*
メギュストス王は行方不明になった。
寝室には、メギュストス王の着ていた衣服と、なぜかそれを纏った塩の彫像だけが残されていた。
あの夜呼ばれた衛兵たちは魔女ミゼーアと対峙した記憶はあれど、その後の事は何も覚えていない。
これも魔女の呪いだと人々は囁く。
王は魔女に連れ去られたのだと。
これは人々には伏せられた話であるが――
――王の寝室に残された塩の彫像、それは……苦悶の顔を浮かべたメギュストス王にとてもよく似ていた、という。
王の行方は未だ知れず。
人類は今日も愚かである。
お読みいただきありがとうございます!
この作品を面白いと思っていただけたら、星評価で応援していただけると幸いです!!
好評でしたら連載化するかも……?




