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7.夢か現か

 次に目が覚めたときはまた、一人きりの部屋の中だった。

 侍女もメイドもいないこの部屋は、本当に静かだ。


 さっきのは夢だったのだろうか。

 冷静になると、とても現実だとは思えなかった。

 セオルが会いに来てくれたことも、魔力の少ない私が夢のような魔法を使ったことも、妹の顔を見られたことも。

 きっと一人きりで寂しくて、つらくて……そんな孤独から生み出された願望夢だったのだ。


 いや、願望夢ならもっといい展開があっただろうに。

 元婚約者とへいえ、想いを寄せる相手をあんな変態に仕立てあげなくてもよかったはずだ。

 夢の中でさえ思い通りにいかないのだと、惨めな気分で瞼を下ろす。


 そこまで考えてから、違和感に気づいた。

 枕元の花が変わっている。

 今朝は確か、清楚な白薔薇が生けられていたはずだ。

 それが今では、可憐な桃色のアネモネを中心にパステルカラーの花々が彩られている。


 すでに日が変わってしまったのだろうか?

 それともさっきの夢が現実と混濁しているだけ?

 まさかと思いつつも、わずかな期待がこみ上げてくる。


(もしも夢でないのなら…… 千里眼 )


 ダメ元だった。

 儚い夢だったのだと諦めるために唱えた呪文は、いとも容易く私を浮かび上がらせた。

 ベッドに横たわる自身を信じられない気分で見下ろす。


 これじゃ、千里眼じゃなくて幽体離脱じゃない。

 そんなことを考えながら、私は口角を上げていた。


 なにせずっとベッドで寝ているしかない日々だったのだ。

 好奇心に負けて、ドアに手を伸ばす。

 しかし私の手はドアを素通りし、そのまま部屋の外へとすり抜けていた。


 屋敷の中を縦横無尽に飛び回るのは、想像以上に楽しい。

 みっともなく走り回るのは淑女としてふさわしい行動ではない。

 そう言い聞かされていたから、屋敷を駆け回るなど物心ついてからは初めての経験だ。

 そもそも運動自体得意な方ではないから、屋敷の中だけでなく、外でもこんな勢いで体を動かしたことはない。


 今の私なら、もしかしたら馬車より速く走れるんじゃないかしら?

 色めき立つ心のまま調子に乗ってスピードを上げていくと、突然目の前にメイドの姿が飛び込んできた。

 どうやらそこの角から出てきたらしい。


 よけきれない、ぶつかる!


 とっさに目を閉じるも、私の体はすんなりと彼女の体をすり抜けた。

 ここにはない心臓が飛び出そうなほどバクバクしたが、そんなスリルすら楽しくってたまらない。

 浮かれた気分のまま、笑いながらくるくる飛び回っていたから、うっかり自分の行き着いた場所がどこか気づくのが遅れてしまった。


 くるりと空中で縦回転を決めた私がいたのは、玄関ホールだった。

 しかも間の悪いことに、元婚約者のお見送りの真っ最中だ。


「え、妖精……?」


 セオルの口から、変な戯言が聞こえた。

 思わず顔を顰めた私に対し、両親や妹は首を傾げる。


 なんであいつにだけ視えるの?

 どうせならイレーヌに視えればいいのに。


 むむっと頬を膨らませると、踵を返す寸前の彼の口元が動いた。

 声は出ていなかったけれど「おいで」かな?

 なんとなくそう察したが、おいでと言われてほいほいついていくバカはいない。

 無視無視………いや、でも今は精神体だし?

 ついてって困ることにはならないんじゃない?

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