59.オルゴール
「それならこちらも相談なのだが」
小さく片手をあげて、父上が言う。
「アメリア嬢は音楽は好むんだったか?」
「音楽ですか?嫌いではないと思いますが」
「いや、知り合いがな、寝たきりの状態であっても耳は聞こえていることがあると話していてな。心地よい音楽が刺激になって、目を覚ましてくれないものかと思って……その……」
歯切れ悪く父上が言って、俺は母上と顔を見合わせた。
父上はそんな俺たちを見て、観念したように口を開く。
「オルゴールをな、いくつか購入したのだが」
「……オルゴールですか」
父上の口から意外な言葉が出て、面食らった。
もごもごと話す父上に、はっとしたように母上が問いかける。
「待ってください。あなた、いくつかって、具体的には?」
「いや、多少?適度……というには些か多めではあるが、その」
「あなた?」
「えっと」
「正直にお話ください」
笑顔で圧をかけながら、母上が問いかける。
もはや尋問だ。
うろうろと視線を彷徨わせながら、父上が言い訳する。
「~~その、たまたま足を運んだ商店の品揃えが良くて」
「ええ」
「アメリア嬢の好みがわからなかったから、とりあえずいろいろ用意してみようと思って」
「ええ」
「……ざっと、20くらい?」
「失礼ながら旦那様、50は優に超えております」
「え、そんなに?」
即座に執事に訂正され、驚きの声をあげたのは父上だった。
自分で買っておいて、自分で驚く意味がわからない。
そもそも50個ものオルゴールって……そんなに種類があるものなのか?
あったにしても、さすがに買いすぎだろう。
頭がおかしいんじゃないか。
そんな思考が顔に出ていたのだろう。
父上は慌てたように釈明し始める。
「だって仕方ないじゃないか。天使とかお姫様とか蝶々とか、可愛いデザインのものがたくさん売ってるんだから!アメリア嬢に似合うと思ったらついあれもこれもと」
「だからといって、あなたはいつも加減を知らないんですから」
「悪かったよ~~」
母上がくどくどとお説教をしているけれど、正直父上の気持ちはわからなくもない。
出張のたびにアメリアにお土産を買って帰るようにしているけれど、本当は一つや二つじゃなくて、両手に抱えきれないほど……いや、馬車いっぱいに買っていきたいと思っている。
引かれるのがわかっているからやらないだけで。
俺、父上の子なんだなぁ。
当然に事実だが、改めて実感してしまう。
「ありがとうございます、父上」
母上のお説教を止めるように礼を言う。
「だがすまん。確かに買いすぎてしまった……」
「いいえ、足りないくらいです。すべての美しいものを俺は彼女に与えたいので」
「そ、そうか!」
俺の言葉に、父上はぱっと顔を明るくした。
しかし、大事なことをひとつ、伝えておかなくてはならない。
「ただ、それはそれとして―――俺以外の男がアメリアに贈り物をすると思うと、実父であっても非常に不快なので、今後はご遠慮ください」
「へっ?」
「約束してくれますよね?」
低い声で問いかけると、父上は「ひええ」と怯えた声を漏らした。
「情けない声を出さないでください。当主でしょう」
「そんなこと言ったって、お前怖いんだよぉ」
「は?」
「そういうとこだよ!バカみたいに圧をかけてきやがって。もっと敬意を持て」
「敬意が持てる言動をお願いします」
「なんだとこら!~~セオルがいじめる」
「あらあら可哀想に。お父様をいじめてはいけませんよ」
「はいはい」
みっともなく母上に助けを求める父上に呆れながら、おざなりな返事を返す。
父上は「絶対反省してないだろ!」なんてわめいていたけれど、ひと睨みすると静かになった。
「で、でもオルゴールは集め続けるからな」
「は?」
改めて宣言され、眉を吊り上げる。
父上は俺から思い切り視線をそらして、早口で続けた。
「来週新しいのが入荷する予定なんだ。――‐別にいいだろ、可愛い娘に可愛い贈り物をするのが俺の夢だったんだ。うちには可愛げのない息子しかいないからな。小さいころもぬいぐるみなんかに興味も持ってくれなかったし」
「あなた、可愛らしいものがお好きですものね」
母上がくすくすと笑う。
いい年したおっさんが何を、と思ったが「ちょっとついてきなさい」と普段使っていない客間に連れていかれた。
中には、山のようなオルゴールの数々。
これを20程度とするのは無理があるだろう。
50でも明らかに少ない……数を訂正した執事も、父上に多少は気を使っていたらしい。




