55.不調
※今回からしばらくセオル視線になります。
※時間軸は物語冒頭にさかのぼっています。
「アメリアの調子が悪い?」
「ええ。そのため、明後日のお茶会はキャンセルしたいと」
「そう」
ペコリと頭を下げて退室した執事を見送ってから、軽くため息をついた。
愛する婚約者との逢瀬は、月に2回程度。
本当はもっと頻繁に会いに行きたいけれど、余裕のない男だと思われたくなくて、我慢している。
「大丈夫かな」
アメリアはあまり風邪をひかないから、体調不良でデートをキャンセルすることはめったにない。
それなのに前々日にキャンセルの連絡をしてくるということは、相当具合が悪いということだろうか。
今すぐにでもお見舞いに飛んで行きたいけれど、生憎仕事が立て込んでいて時間を作れそうにない。
いや、正直強行突破しようと思えばいくらでもできるわけだけど、きっと彼女はそれをよしとはしないだろう。
真面目で誠実なアメリアは責任感が強く、自分の仕事を簡単に投げ出すようなやつなんて軽蔑するかもしれない。
後ろ髪を強くひかれながらも自分を律し、お見舞いの手紙を書いて、花束を手配した。
一日でも早く、アメリアが元気になりますように。
その願いが打ち砕かれたと知ったのは、それから2週間後のことだった。
もともと、違和感を覚えてはいた。
律儀な性格のアメリアのことだから、回復したら手紙を送ってくれるだろうと思っていたのに、一切の音沙汰がなかったから。
「……は?」
執事が持ってきた手紙を握る手に、力がこもって、くしゃりと音を立てた。
差出人は、アメリアではなくその父、ティール子爵。
手紙には「娘の容体が芳しくなく、しばらく会わせることができない」と丁寧な言葉で書かれていた。
魔法省へ馬を走らせ、子爵の働く部署へ足早に向かう。
普段よりも暗い顔をしているように見える子爵は、前触れもなくやってきた俺に目を丸くしたが、非難することはしなかった。
「お手紙を拝見しました。アメリアの具合は……」
「手紙にも書きました通り、人と面会できる状態ではなく」
「医者には?」
「もちろん診せております。しかし回復にはほど遠く」
「……何の、病なのですか?」
声が震えないようにするだけで、精いっぱいだった。
心の奥底から、恐怖心がとめどなくあふれ出る。
もしもアメリアが重い病に冒されていたとしたら、もしも命を落とすようなことがあったとしたら。
全身を巡る血液が凍り付いてしまったかのように冷たく感じる。
彼女を失って、生きていける気がしない。
「それが―――わからないのです」
「……わからない?」
「ええ。主治医だけでなく、方々から医者を呼んで診てもらっているのですが」
子爵の話によると、とくに身体的な異常は見られないのに、身体がどんどん動かなくなっているらしい。
指先から始まり、腕、足、そして今では、満足に起き上がることも難しいそうだ。
信じられない思いで、お見舞いに行かせてほしいと懇願した。
しかし子爵は、顔を伏せて首を横に振る。
「申し訳ございませんが、人前に出せる状態ではないのです」
「かまいません。一目姿を見られれば充分です」
「―――ご容赦ください。娘もあの状態を婚約者に見られることは望まないでしょう」
あの状態?
人目に晒せないほどの状態?
ますます血の気が引いて、しつこく食い下がった。
しかし子爵が首を縦に振ることはなかった。




