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46.自責と暴論

「リアちゃん、どうかな?」

『……苦しくは、ないです』

「苦しくないの?まったく?」

『身体の感覚がないんです。だから、床ずれの痛みも感じません』

「え、床ずれ?大丈夫なの?」

「床ずれ?!」


 おじさまの言葉に青ざめるお父様に、おじさまが首を傾げる。


「子爵、ご存じなかったんですか?」

「多少の肌荒れがあるとの報告しか」

『あ、でも肌荒れ程度の軽いものなので。今はセオルがこまめに回復魔法をかけてくれるので、すっかり改善しています』

「あぁ、よかった」

「娘はなんと?」

「今は改善しているそうです」

「……そうですか……」


 お父様は、思ったよりも私の現状を正しく把握していなかったのかもしれない。

 侍女のマリアたちから報告はされているはずだけれど、それがどれほど正確なものなのかは疑問だ。

 もしかしたら、状態がひどくなると私への扱いがより悪いものになる可能性を考慮して、意図的にあいまいな報告にとどめていたのかもしれない。


 お嬢様の幸せを願っていますと、悲しそうに微笑むマリアの顔が浮かんできて、胸がきゅっと締め付けられた。


『あの、お世話をしてくれている侍女もメイドも、よくやってくれているのだとお父様に伝えてもらえませんか?ただ女性だけでは限界があって、仕方のないことだったと』

「わかった」


 フィリーおじさまは、私の言葉をそのままお父様に伝えてくれた。

 お父様はそれを聞いて、眉間に深く皺を寄せた。


「私がもっと人手を確保していれば……」

「リアちゃんのお世話は主に侍女とメイドがふたりで?」

「えぇ。……嫁入り前の娘の身体を使用人とはいえ男に任せるのは抵抗があって……しかし、思慮が足りなかったと反省しています。せめて、もう少し人数を配置しておけば」

「違いますよ」


 後悔の念を語るお父様を遮るように、セオルが言う。

 自分を責める必要はないと慰めてくれるのだろうか。

 倫理観がまるでない男だと思っていたけど、ちょっと見直した。


「必要だったのはお世話係の増員じゃありません」

「で、では……?」

「俺です」

「「『は?』」」


 まさかの発言に、私とお父様、フィリーおじさまの声が重なった。

 オスカーはぶふっと噴き出しながら口元を押さえている。


「俺なら羽のように軽いリリーの身体なんて軽々抱えられますし、隅々までお世話することができます。万が一リリーの柔肌に異常が生じることがあれば、迅速に治療もできますし」

『ちょっと、親の前でなんてことを!!』

「いや……娘はまだ嫁入り前の身で……」

「未来の夫が妻に触れることに何の問題が?」

「問題しかないでしょ」

「課長は黙っててください」

「えぇ~~……」


 ダメだコイツ。

 正論を言うフィリーおじさまを一蹴するセオルに、頭を抱える。

 さっきうっかり見直してしまったことに後悔しかない。


「あ、あともう一つ、聞きたいことが」

「な、なんでしょう?」


 お父様が話を切り替え、おじさまが素早く乗っかる。

 セオルはまだ話したりないようだったが『しーっ』と言ってやると頬を染めて黙ったので良しとしよう。


「リアの部屋に暴漢が侵入した日」

「暴漢?!」

「……ええ。魔法でセオルくんに危害を」

「え、セオルに?……セオルに?!」


 お手本のような二度見だ。

 お父様もおじさまの反応に戸惑いながら頷く。


「それで犯人は……」

「お恥ずかしながらまだ……」

「それは心配ですね。何かご協力できることがあれば力になりますので」

「ありがとうございます」


 深刻そうな雰囲気に、冷や汗が滲む思いだ。

 ごめんなさい。

 その暴漢、私です。


 白状したいけど、とてもそんな空気じゃない。

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