43.協力
「呪いかぁ……まさかこの時代に出てくるとは……」
『やっぱり珍しいんですか?』
「珍しいというか、過去の遺物だよね。ここに勤めてずいぶん経つけど、今まで噂にも聞いたことないよ」
そう言ってフィリーおじさまは眉を下げた。
「ごめんね。何とかしてあげたいのは山々なんだけど、呪いに関してはわからないことの方が多くて」
『そうですか……』
「ご家族には?」
『いえ、家族には私は視えないので』
「あぁ……」
せめて一人だけでも私の姿が視えれば、説明のしようもあっただろう。
しかし誰も私を視認できない状態で、セオルに呪いについて知らせてくれるよう頼んだところで、話を聞き入れてもらえるとは思わない。
むしろ、ふざけるなと一蹴されるか、セオルの精神状態を心配されてしまうかのどちらかだろう。
「リアちゃんが視えるのはーー?」
『えっと、セオルとオスカーのほかは、魔法省の方数名だけです』
「あぁ、さっき手を挙げさせていたね。誰が挙げていたんだったか……」
『あ、そういえばさっき、セオルがなるほどって』
「何かわかったのかい?」
あの騒動のあと、セオルは確かに正解にたどり着いた様子だった。
おじさまに尋ねられて、セオルは小さく頷いた。
「おそらく魔力量ですね」
「魔力量?」
「魔力の多い人間にだけ、リリーの姿が視えるみたいです」
魔法省で勤める人の多くが、一般人よりも多い魔力を有している。
父のような、一部の事務方を除いて。
その中でもより魔力の高い人だけ、私のことを視認できたらしい。
「さっき泡吹いてたラントも、魔法省の中で10位以内に入るくらい魔力が高いしね。課長もそうだし、オスカーもでしょ?」
「あ、あぁ。同年代ではずば抜けてる」
「セオルはトップクラスだしなぁ」
セオルの仮説に、おじさまもオスカーも納得したように頷いた。
「まぁ、それだけなんだけど」
『それだけ?』
「リリーのことが視える条件はわかった。でもそれは、解決の糸口にはならないでしょ」
『あ、そっか』
勝手に前進したような気がしていたけど、実際はまだ足踏み状態だ。
それでも、コミュニケーションのとれる相手が増えたのは素直にうれしい。
「そうでもないんじゃないかな」
そう言ったのは、フィリーおじさまだった。
『どういう意味ですか?』
「今までセオルに好き勝手させてたのは、正直魔法省を辞められたら困るからだったんだけど」
『あぁ……はい』
「今回複数の職員がリアちゃんの存在を認知したことで、呪いの信ぴょう性は飛躍的に高まったでしょ?」
『はい……?』
おじさまの言いたいことがわからず、首を傾げながら相槌を打つ。
おじさまはにっこりと微笑んで続けた。
「つまり、魔法省として積極的に呪いの調査に乗り出すことができるかもしれないってことだよ」
『積極的に……』
「そう。業務時間外にセオルが一人でコツコツ調べるんじゃなくて、仕事として正々堂々調査ができる。魔道具の使用許可も下りやすくなるだろうし、人手が必要な場合は手が空いている人間を向かわせることもできるかもしれない」
上の許可は必要だけどね、と付け加えてから、おじさまはじっと私を見つめた。
「今まで、頼れる相手も少なくて苦労しただろう。なるべく力になれるように掛け合ってみるからね」
『……っ!ありがとうございます』
「ただそのために、呪いの存在を上に報告しなくてはならないんだけど、構わないかな?もちろん重要機密扱いで、ほかには漏れないようにするから」
『もちろんですっ』
「ご家族の了承も得ることになるけど、話をしても?」
『……あ……』
呪いの解明に力を貸してもらえるのはありがたい。
でも両親は―――娘が呪われていると知って、どう思うだろう。
そう考えると、少し怖くなった。
気味が悪いと思われないだろうか。
あるいは、呪いがうつらないようにと屋敷の外へ追いやられてしまわないだろうか。
両親の愛情を実感してもなお、恐怖心を拭いきれない弱い自分が嫌いだ。
「大丈夫」
膝の上で握りしめていた私の手に自分のそれを重ねるようにして、セオルが囁いた。
何の根拠もない慰めだ。
そう思うのに、セオルが言うなら信じてみたくなるから不思議だ。
ふわふわした気分のまま、こくりと頷く。
すると「よし」とおじさまが立ち上がった。
「善は急げだ。ちょっと呼んでくるね」
『え??は??今?!!』
「ちょっと待っててね~」
止める間もなく、おじさまは部屋を飛び出してしまった。
魔法省内では結構立場のある人だよね?
フットワーク軽すぎない?
口をパクパクさせながらオスカーを見ると、なぜか親指を立てられた。
その誇らしげな顔は何なんだ。




