42.説明
「え?ほ、ほんとにリアちゃん?」
まだ青ざめた顔のまま、フィリーおじさまが問いかけた。
こくりと頷き『驚かせてしまって申し訳ありません』と頭を下げる。
『あの……ゆ、幽霊ではないので、ご安心いただければ』
「あっっ、だよね?ごめんね、なんか場の空気に呑まれちゃって。ヒンスがなんか勘違いしたのかな」
『えっと……それはそれで、あながち勘違いでもないというか』
「―――は?」
『いや、生きてるんで!!死んでないです!生きてます!!』
「生きて……う、うん……そうだよね。あ、お父さん呼んでこようか?」
『あぁ~~……それはひとまず、大丈夫です。とりあえず事情をお話ししたいんですけど』
私の生きている宣言に、フィリーおじさまは安堵したように眉を下げた。
まだ顔は青白いし怖いんだろうけど、こういう優しいところがおじさまらしい。
何はともあれ、人が集まっているのは好都合だ。
私は右手をピンと高くあげ、声を張り上げた。
『突然ですが、私のことが視える方!挙手をお願いしまーす!!』
その言葉に、その場のおよそ半数程度の人がそろそろと手を挙げてくれた。
残りの半数の人は、急に手を挙げた同僚たちにぎょっとして怪訝なまなざしを向けている。
半分。
思ったよりも多い。
それでも、初対面の彼らの共通項が私にはわからない。
「なるほどね」
そう呟いたセオルを見上げる。
どうやら彼には、正解がわかったらしい。
※
「まぁ、とりあえずお茶でも」
案内された応接間で、フィリーおじさまが自らお茶を淹れてくれた。
お礼を言いつつも、手に取れないことを残念に思う。
それと同時に、なんかこれお供え物みたいだな、なんてうっすら思ってしまったのも残念に思う。
「それで、事情を聞かせてもらってもいいかな?」
『は、はい。話せば長くなるんですけど、まずは驚かずに見てもらってもいいですか?』
「う、うん」
おじさまが頷いたのを確認して、私はちらりとオスカーを見た。
オスカーは不敵に笑って、私の前に仁王立ちになる。
手を伸ばすと、私の腕はオスカーの身体をすり抜けた。
「うぎゃーーーーーーーーー!!!!!!」
わかってはいたけど、おじさまの耳をつんざくような悲鳴が響き渡る。
完全防音の部屋に通してもらっていてよかった。
内密に相談したいことがあるからとオスカーがお願いしてくれたのだ。
実際は「驚かせてやろーぜ」なんて悪い顔して耳打ちしてきたのだが。
でも、おじさまが叫ぶのも無理はないだろう。
おじさまから見れば、愛する息子の背中から腕が生えているのだ。
「お、おすおすおすおすオスカーァァァァ」
動揺しすぎてちゃんとした言語になってない。
正直我ながら可哀想なことをしていると思う。
でも当の息子本人は、笑いを隠しきれずに肩を震わせているのだから許してほしい。
私はすぽっと腕を引き、次は思い切って顔を突っ込もうとした。
息子の背中に知り合いの娘の顔がついているのは相当なホラーだろうが、これほどわかりやすい説明もないはずだ。
しかし上体を動かそうと腰を上げた瞬間「それはダメ」と制止された。
「よその男にそんなにくっつくのはダメ。オスカーでもさすがにダメ」
ちょっと口を尖らせてセオルが言う。
あからさまなヤキモチに、思わずキュンとしてしまう。
『えっと、こんな感じで実は私、実体ではなくて』
「え?え??ど、どういうこと??」
『オスカーの身体を貫通したわけじゃなくて、すり抜けただけなんです。オスカーは無傷なのでご安心ください』
「うん、俺超元気」
「げ、元気ならいい…………のか?」
いまだ混乱中らしいおじさまはクエスチョンマークを浮かべながらも、一旦落ち着いてくれたらしい。
そのまま半ば放心状態のおじさまに、事の次第を説明する。
最初はぼんやりと話を聞いていたおじさまだったが、呪いのくだりから真面目な顔つきになっていった。




