41.偽・幽霊騒動
『これ、どうすればいいの……』
「大丈夫、リリーは何の心配もいらないからね」
『いや、大惨事じゃん』
騒ぎを聞きつけたらしい人たちが集まってきて、もはや取り返しのつかない感じになってきた。
オスカーはいつの間にかそばに戻ってきていて、明らかに「ついてきたことを後悔しています」って顔をしてうなだれている。
なんかごめん。
「ラント?!うわっ、本当に泡吹いてるっ」
聞き覚えのある声が聞こえて人だかりに視線を向けると、オスカーのお父様でありセオルの上司であるフィリーおじさまの姿があった。
お会いした回数こそ少ないものの、気さくで優しいおじさまのことは素敵な人だと思っている。
何より、母親似のオスカーとは系統が違うけど、顔がいい。
あの倒れた人、ラントって名前だったんだなぁ。
ラントさん、驚かせてしまってごめんなさい。
思わず手を合わせて頭を下げると、オスカーが小さく吹き出して「死んでねぇから」と呟いた。
確かに、これでは死者を悼むみたいだと慌てて手を離す。
「オスカー?なんでここに……って……え?」
小さくとも息子の声は耳に届いたらしく、フィリーおじさまがこちらを振り向いた。
しかしその視線は、息子ではなく明らかに私に向けられていた。
「え?え?!……な、なんでここに?……は?!」
「ちょ、課長?ご子息がいらしたからってそんなに」
「いや、オスカーじゃなくて……」
「は?!?!こ、怖いこと言うのやめてくださいよ!!ラントも幽霊見て倒れたんですから!!」
「は?ゆ、ゆうれ……」
これ以上フィリーおじさまの混乱を煽らないでほしい。
顔面蒼白になっていく姿を見ていられない。
そう思った瞬間―――‐ゴッッッッ!!と鈍い音が響いた。
なんかすごい勢いで何かが吹っ飛んで行った。
そしてその何かが、私のことが視えない部下の人のおでこに激突したのだ。
「ヒ、ヒンス―――!!!!!」
フィリーおじさまが叫んだ。
あ、この人はヒンスさんって言うんだ。
勢いよく地面に倒れこんだヒンスさんの頭をとっさにフィリーおじさまが支え、何とか後頭部を強打することは免れた。
「ちょっとセオル!なにをしてるんだ!!」
「は?そいつが失礼なこというから」
「だからって部下に魔力ぶつけるやつがあるか!!!」
全力で怒るフィリーおじさまと、まったく悪びれる様子がないセオル。
むしろ、当然の報いだとでも言いたげだ。
ヒンスさんはがくりと倒れたまま、白目をむいている。
あ、これ失神してるわ。
『やりすぎ!!何してんのぉ?!』
「だってあいつ、よりにもよってリリーのことを幽霊呼ばわりして」
『するでしょ!!むしろあっちの感覚のが正常だから!すぐにごめんなさいしてきなさい!!』
「えぇ~~?やだ~~」
やだじゃねぇよ。
あ、待って、普通に会話してたらこれ……。
恐る恐るフィリーおじさまに視線を向けると、口をパクパクさせている。
そして「や、やっぱりゆうれ」まで口にしたところで、オスカーがその口を塞いだ。
「ばか!それ以上言うな!!」
もがもがと暴れるフィリーおじさまを、オスカーが一喝する。
フィリーおじさまはハッとして、ゆっくりと視線をセオルに向けた。
私もつられてセオルの方に顔を向けると―――
『「ひぃっっっ」』
思わずフィリーおじさまとハモってしまった。
まさに般若のような顔をしたセオルは、今にも国を滅ぼしそうなほど物騒な殺気を放っている。
「ほら、抑えて抑えて」
「あ゛?」
「可愛い婚約者が怖がってるって」
「え?」
オスカーの言葉に、般若はあっさり消え去った。
へにょりと眉を下げて「ごめんね、つい」なんて小動物みたいな顔をしてくる。
いや、体格は全然小動物じゃないけど。




