40.魔法省
「せ、セオルさ――ん!!!」
「どこに行ってたんスか?!急に飛び出してくから、ぜんっぜん仕事回んなくって!」
「ゲ……うるさいのがきた」
どうやらセオルの部下らしい。
ともに半泣きになっていることから、相当ヤバい状況だったことが窺える。
え、そんな状況で屋敷に戻ってきたわけ?
そこまで緊急事態ってわけでもなかったのに?
「あれ?そちらは……課長のご子息の?」
「あ、こないだ来てたオスカーくんだ」
「ど、ども」
「今日もお使い?課長呼んでこようか?」
「あ、いや、今日は」
「あぁ!!!!」
矢継ぎ早に話すふたりにオスカーが困惑していると、そのうちの一人が一際大きな声を上げた。
「女の子乗せてる!!!」
「は!?こっっっの忙しい中どこに行ったのかと思ったらデート?!ふざけんなよ!!」
「そうだそうだ!病床の婚約者はどうした!この薄情者!!」
「あ゛?うるっさい」
やんややんやと騒ぎ立てていた二人だが、セオルのドスの効いた声に怯んだのか、一斉に口を閉じた。
馬の向きを変えたので、私の姿は今、セオルの身体に隠れる形になっているはずだ。
それなのに「女の子を乗せている」ということは、足元でも見えたのだろうか。
いや、というか、視えてる?
うずうずと沸き上がる気持ちを抑えきれず、セオルの肩越しにぴょこりと顔をのぞかせる。
すると、恐怖に引き攣った顔をしたうちの一人が、私を見て目を丸くした。
「えっ?えっ?!」
『え?』
「目!目が覚めたんスか?!よかったですねぇ」
うっすら涙ぐまれて、とっさにセオルに隠れる。
面識はないはずなのに、相手はどうやら私を知っているらしい。
何それ、怖い。
「おい」
「あっ、す、すんません!俺、以前はお父上の部下で」
『お、お父様の?』
「デスクに姿絵を飾られているので、一方的にお顔を存じておりまして」
恐る恐る顔を出す。
まさかお父様が職場に家族の姿絵を飾っているとは思わず、嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な心境だ。
「なぁんだ、そりゃ、婚約者が目を覚ましたなら飛んで行きたくなりますよね。でもそれならそうと、一言くらい」
「な、なぁ……」
饒舌に話す男に、もうひとりの男が顔を青ざめさせる。
話を遮られた男は、不思議そうに首を傾げた。
「なんだよ、変な反応して」
「お、お前……お前さぁ」
「あん?」
「だ、誰と……話してんだよ……?」
なるほど、ひとりの男には視えるけど、もう一方には視えていないのか。
そりゃ、同僚がいきなり誰もいないはずの空間に向けて話し始めたら恐怖でしかないだろう。
深く同情しつつも、とりあえず成り行きを見守る。
「誰って……お前、失礼だろ。ずっと意識不明だったお嬢さんに対して」
「いや、冗談やめろよ」
「質の悪い冗談言ってんのはお前の方だろ?」
「……いや、そもそもさ、その子爵って、ティール子爵だろ?あそこのお嬢さん、もう数ヶ月は寝たきりじゃん?それが目を覚ましたからって、馬に乗ってこんなとこくるわけねえだろ」
「……は?……え……」
あ、これまずい方向だ。
みるみるうちに視える方の男の顔が真っ青になっていく。
いや、真っ青通り越して真っ白だ。
男は震える目で私を見て、セオルを見て、オスカーを見て、同僚を見て、そして最後にもう一度私を見て―――‐泡を吹いて倒れた。
「ぅわっっっっ!しっかりしろ!!」
「ちょ、だ、大丈夫っすか?!」
「うえぇ……」
全力で心配する同僚とオスカーに対して、セオルは心底ドン引きといった反応だ。
さすがにあんまりじゃないだろうか、いい人そうなのに。




