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4.不埒者

 おむつを最後に替えてもらったのはいつだったかと、回らない頭で必死に考える。

 数分……ってことはない、え、数時間は前?

 排泄の感覚がないから、自分の下半身の状態もわからない。

 万が一粗相をしていたら?

 それを彼に知られたら?

 おむつの膨らみとか匂いとか、そんなものを感じ取られてしまったらーー?


 やばい、絶対耐えられない。

 羞恥と怒りと焦りで頭が真っ白になった私は、咄嗟に呪文を唱えた。


( 突風! )


 その瞬間、強い風が彼を吹き飛ばした。

 座っていた椅子から投げ出され、勢いよく壁に叩きつけられた彼は「ぐえっ」と情けないうめき声を漏らす。

 ひとまず危機を脱したことに安堵するも、自分が何をしたのか理解できず、再び混乱に引き戻された。


 は?は?は?

 今私、詠唱した?

 いや、頭では唱えたけど、口には出してないから詠唱はしていない?

 なのにどうして、魔法が発動したのか。

 それもあんな威力の魔法が。


 魔法とは本来、言霊に魔力を乗せて発動するものである。

 そのため発動には詠唱が必須であり、さっきみたいな略式の詠唱も可能だが、詠唱を簡素化した分、威力も弱まる。

 しかし大きな彼の体をいとも簡単に吹き飛ばしたあの威力は、略式詠唱では到底発揮されないはずだ。


 そもそも、私は魔力量が少ないし、魔法は不得手。

 さっきも魔法も、普段なら強めの風が吹く程度のものだ。

 風を浴びて、彼が冷静になってくれればと思っただけで、彼を傷つけるつもりはなかった。


「いてて……なにこれ、誰の仕業?」


 普段よりも一段低い声で、セオルが言う。

 声色と口ぶりからして、大きな怪我はしていないらしい。

 それでも彼から発せられる空気は、痛いほどひりついているのがわかった。

 侵入者の仕業だと思っているのか、先ほどまでの狼藉が嘘のように、私のベッドを背に庇うように体勢を整え、周囲を警戒している彼の背中は頼もしい。


 でもピンピンしてるのは、さすがにおかしくない?

 壁が砕けるような音が聞こえた気がするんだけど、気のせいだったのだろうか。


「お嬢様!」


 勢いよく扉が開く音がして、血相を変えたメイドが飛び込んでくる。

 そして部屋の中をみたあとしばし固まって、甲高い悲鳴をあげた。


 その悲鳴を聞きつけて、私の部屋には久しぶりに大勢の人が集まった。

 久しぶりに見る両親の姿も、そこにはあった。


「アメリアには会わせられないとお伝えしたはずですが?」


 私のそばにぴったりとくっついているセオルを見て、お父様は頭を抱える。

 明らかな非難の色を含んだ声だったが、彼はひょうひょうと受け流し、あろうことか「了承はしていません」と答えた。


 断られたけど引き下がったつもりはないですって、どういう神経してんだ?

 あんまりなふるまいに、私はこんなに非常識なやつを恋い慕っていたのかと気が遠くなった。


「それより、屋敷の警備体制はどうなっているのです?これほどの威力を持つ魔法を使う者の侵入を許すとは」

「それは……」

「即刻侵入者を捕らえてください。話はそれからです」


 華麗に非難される側から責める側へと転身を果たしたセオルは、きつい口調で両親に詰め寄る。

 犯人は私です、と正直に名乗り出たいけど、会話ができなければ伝えようもない。

 えらいことになってしまったと思いつつも、彼に責め立てられて困っている両親を見て溜飲が下がった私は、案外性格が悪いのかもしれない。


 そのとき、


「お父様……お母様……」


 不安げなか細い声が聞こえた。

 視線を向けることはできないけれど、誰の声なのかはすぐにわかった。


 イレーヌ。

 怖がりで泣き虫で、私の後をついて回っていた私の可愛い妹。

 この状態になってからは、一度も顔を合わせていない。

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