39.犯罪ダメ絶対
『え、魔法技術発展しすぎじゃない?』
「な、俺も驚いた」
『映像って、そんな鮮明なの?絵とかそんな感じじゃなくて?』
「ほんっとに、自分の目で見てるみたいに鮮明だった」
『嘘だと言ってよぉ~~』
がっくりとうなだれる私を見て、セオルはおろおろとフォローを入れる。
「大丈夫、リリーはいつでもきれいだよ」
『そういうことじゃない!!デリカシーを持て!!!!』
最悪最悪最悪!
絶対に映像は破棄させてやる。
それよりなにより―――‐
『死ぬほど後悔させてやる』
自分でも信じられないほど、地を這うような低い声がでた。
びくっと肩を揺らしたセオルが、あからさまに顔を引きつらせている。
あぁ、今なら人を呪えそうだ。
絶賛呪われているの、私だけど。
『あぁ~~でもさ、これってやっぱ機密事項でしょ?私に話してよかったの?』
「ま、そうだろうけど、いいんじゃね?」
『かるっ!なんで?』
「だってお前、視えないじゃん」
『視えてるでしょ』
「そんなの自己申告だし。視えませんでした、いるとは思いませんでした、で解決!それに、知ったところで悪用しねぇだろ?」
『まぁ』
「なら問題なーし」
ずいぶん軽いが、その軽さがオスカーのいいところだ。
「ほら、そろそろ着くぞ」
オスカーの言葉に顔を上げると、大きな建物が遠目に確認できる。
父親も婚約者もここで働いているというのに、訪れるのは今日が初めてだ。
「あれが魔法省だ」
強固な門に囲まれたその建物は、敷地面積に比べてずいぶんと細い作りになっている。
野外スペースを広くとっているのだろうか。
それにしても、バランスが悪く見える。
たどり着いたのは、門壁の前だった。
入り口から入らないのだろうかと不思議に思っていると、セオルが壁に向かって手をかざした。
そして何か呪文を呟いたかと思うと、先ほどまでそこになかったはずの扉が出現していた。
『え、すごっ』
さっきまでの怒りを忘れて思わずつぶやく。
「えっと……セキュリティー強化のため、認証された魔力を通さないと出入りできない仕組みになってマス」
わざとらしいカタコトで、様子を窺うように顔を覗き込んでくるのは卑怯だ。
困ったように下がった眉と上目遣いが母性本能をくすぐってくる。
コイツは覗き魔、コイツは覗き魔、コイツは覗き魔。
そう自分に言い聞かせつつも、それだけ私を心配してのことだったら仕方ないかも……なんて思い始めている意志の弱い自分を殴ってやりたい。
というか、コイツ、私がこの顔に弱いのわかっててやってないか?
「じゃあ、なかに入るよ。オスカーは待ってて。来省手続きしないと警報なっちゃうから」
「わかった」
そう言って、セオルが馬を走らせたとき―――‐
『へぶっ!!!』
可愛さのかけらもない悲鳴が口から飛び出した。
見えない壁に激突したのだ。
セオルが慌てて馬の向きを変えて私を門から遠ざけ「大丈夫?!」と顔を覗き込んだ。
精神体だから痛みはない。
ただ不思議と衝撃は感じた。
おかげで変な声が出たわけだけど。
おい、背後で肩を震わせて笑いを堪えているやつは、友人として私の心配をしろ。
「へ、へぶって……っ、ど、どんな鳴き声だよっ……くくっ」
『うるさい!オスカーも壁に顔面からぶつかってみたら似たような声がでるよ!!』
「わ、わりっ……っ、でも、おまっ」
全然悪いと思ってない。
まぁ、めちゃくちゃ心配されても気まずいし、これはこれでいいのかもしれない。
「そっか、魔法省は外部魔力を通さないよう結界で覆われてるから。リリーも今は、魔力の塊みたいなもんだし、弾かれちゃうのかも……」
『じゃあ入れないってこと?』
「いや、セキュリティー情報改竄してくるから大丈夫」
『それ犯罪じゃない?ダメでしょ』
息をするみたいに犯罪行為に走ろうとするの、本当に意味がわからない。
でも、だのなんだのとグズグズ言っているセオルに念を押すように、もう一度『だめ』と言い聞かせる。
『法に触れるようなことをする人と結婚するの、嫌なんだけど』
「うっ!!……わ、わかったよ……」
ようやく断念してくれたらしいセオルにほっと胸を撫で下ろしていると、遠くから誰かの叫び声が聞こえてきた。
声をした方に視線を向けると、ふたりの男の人がこちらにかけてくる。
近づいてきてようやく、彼らがセオルの名前を呼んでいることに気付いた。




