37.遠乗り
『え、なに、結局何の話?』
「俺は女友達の括りになった」
『は?』
「いいお友だちだね。さすがリリー」
『はぁ?!』
何がどうなったら、婚約者の男友達を女友達として認識できるんだ。
ニヤニヤと楽しそうにしているオスカーは絶対教えてくれなさそうだから、あとでセオルを問い質そう。
そう決めて話を戻すことにした。
『で、条件って?』
「導き出すにはちょっと」
「サンプルが足りないよなぁ」
『じゃあ、もっと視える人を見つけられたら?』
「仮説は立てられそうだよね」
それが呪いの解消に繋がるのかどうかはわからない。
でも、協力者が増えるならそれに越したことはないだろう。
何より分からないことが多すぎる現状では、どんな情報でも喉から手が出るほど欲しいものだ。
「じゃあ、行こうか」
そう言って、セオルが手を差し出した。
どこへ行くのかわからないまま、私はその手を取っていた。
※
で?
何この状況?
今私は、馬に乗っている。
実体はないから、馬に取り憑いているといったほうが正しいのか。
いやどうでもいいな。
「夢みたいだ」
向けられる熱視線が痛い。
私を腕のなかにすっぽりと抱える格好のセオルは、なんともご満悦の様子だ。
なんでこんな状況になったのかというと、精神体の私が視える人を探すためには、行動範囲を広げる必要があると判断したからだ。
初日にセオルとともに馬車に乗ったのを除けば、精神体の私の行動範囲は屋敷内に限られていた。
本当は屋敷の外にも出てみたかったけど、心配だからとセオルが渋るから我慢していたのだ。
しかし屋敷内で私が視える人には遭遇しなかった。
ならば屋敷の外に出るしかないとなったわけだけどーーーー
『だからって私までなんで馬に?飛べるのに』
「ああ~~幸せ」
『話を聞け!!』
普通に馬と併走して飛ぶ予定だったのに、セオルが私と同じ馬に乗れないなら出発できないとか駄々をこねるからこうなったのだ。
なかなか馬を走らせないセオルに馬番が不審な顔をしていたから、仕方なく、本当に仕方なく同乗してここに至る。
「遠乗りって、今までしたことなかったでしょ」
『そうかもしんないけど』
「リリーとやりたいことリスト、一個消化できた」
『なにそのリスト』
「これからの長い人生で、ひとつずつチェックつけていこうね」
『勝手に言質を取ろうとすんな』
至近距離で密着しているのがとてつもなく恥ずかしい。
普段より何割か増して口が悪くなっている自覚があるが、セオルは一切気にしていないようだ。
「おふたりさーん。俺の存在もお忘れなく」
ニヤニヤ笑いながらオスカーが言う。
なんだか面白そうだからとついてきたが、本当は私を心配してくれているのだと思うと、同行を拒否はできなかった。
「ま、眼福だけど」
『なっ?!』
「ふたりとも顔は整ってるし、劇の一場面みたいで絵になってる」
『何言ってんの』
セオルはまだしも、私は平々凡々な顔をしているというのに、どういうつもりなんだろう。
新手の嫌みか?
喧嘩なら受けて立つぞ。
そんな気持ちを込めて睨みつけると、大袈裟なため息をつかれてしまった。
「自覚がないのも困りもんだよね」
「だなぁ。苦労してんだな」
「わかってくれる?」
二人してバカじゃないの。
そう噛みつきたかったけど、相手にしたら向こうの思う壺だと顔を背ける。
子どもの頃に乗馬を習ったことはあるが、こんなにスピードを出すのは初めてだ。
風を切るように移り変わる景色を眺めるのは、なんとも気分がいい。
どうせなら、感覚まで味わえたらいいのに。
「元気になったら、次は生身で出かけようね」
『……ん』
穏やかに語りかけられ、小さく頷く。
嬉しそうに微笑むセオルに、口元がむずむずした。
「気分は?大丈夫そう?」
『うん』
「肉体とのつながりは?」
『しっかり感じる。戻ろうと思えば、すぐに戻れる感じ』
「よし。ならもう少し行ってみよう」
肉体とのつながりは、直接的な距離とは比例しないらしい。
セオルは精神体が肉体から離れることのリスクを懸念していたが、問題ないようで安堵する。
もう少し進めば、セオルの職場の魔法省がある。
オスカーに私が視えるのであれば、彼の父親にも視えるのかもしれない。
そう当たりをつけた私たちは、目的地を魔法省へ決めたのだ。
上司の許可もとらずに職場を飛び出して屋敷に戻ってきたらしいセオルは、煩わしそうに眉を寄せていたが。
『あれ?そもそもさ、なんで帰ってきたの?』
「え?」
『無許可で飛び出したってことは、たまたま帰ってきたわけじゃないんでしょ?でも家にいなかったのに、なんでオスカーが来たってわかったの?』
率直な質問をぶつけると、あからさまに目をそらされた。
なるほど、よろしくないことをしたということだろう。




