36.ヤキモチ
「あーもうめんどくさいんで、タメ口でいっすか?」
うんざりした顔をしてオスカーが言う。
「あ゛?」
「威嚇やめてくださーい。愛しの婚約者が怯えちゃいますよ?」
「え」
オスカーの言葉に、セオルがぱっと私を見た。
私は空気の読める女。
オスカーの意図を汲んで、ちょっとだけ怯えた顔をしてみる。
「ご、ごめん!怖かった?」
『……ちょっと』
「うぅ~~ちょっと気持ちが溢れちゃって。もう怖い怖いしないよ」
『子どもじゃないんだけど』
さすがにちょろすぎないか?
大根すぎる私の芝居を真に受けたらしいセオルは、おろおろしながら顔を覗き込んでくる。
どうやら怒りは落ち着いたらしい。
申し訳なさそうにうなだれる様子が、反省してるわんこみたいで可愛い。
垂れ下がった耳と尻尾が見える気さえする。
思わず頬が緩まないように口を結んでいると、ふっと笑い声が聞こえてきた。
『なに?』
助けてあげたのに笑われるのは心外だ、と訴えるように軽く睨むと、オスカーはひらひらと手を振った。
「んー?いや、お似合いじゃんって思って」
『えぇ?』
どこにそんな要素あった?
私がそう続ける前に、セオルがオスカーの手をぎゅっと握った。
ぎょっとした顔でオスカーが手を引こうとするものの、ずいぶん力が込められているのか、いまだ手は握られたままだ。
「ぅえっ?!ちょ、なに」
「そう思うでしょ?もっと言って」
「へ?え、えっと………ベストカップル?」
「もっと」
「相思相愛!」
「もう一声」
「運命の恋人!!」
いったい私は何を見せられているのか。
はじめのうちは戸惑いの色が濃かったオスカーだが、途中から面白がってるように見える。
「……お前いいヤツだね。タメ口でいいよ」
「お、おう……」
満足したらしいセオルは、そう言って頷き、ようやくオスカーの手を解放した。
何コイツ、やっべぇ~~~~。
からかい半分といった感じで、オスカーの瞳が雄弁に語りかけてくる。
そんなこと今さら言わずとも、身に沁みて実感してるよ。
「で?」
「へ?」
「話の続き」
「あ、あぁ」
切り替え早っ。
初めに話を脱線させた張本人だというのに、セオルは悪びれる様子もない。
オスカーは呆れたようにため息をついてから、話を切り替える。
「思うに、条件があると思うんだよな」
「そうだね。俺だけに視えるのなら愛の力で説明がつくんだけど、君にも視えるなら別の要素があるはずだ」
さりげない愛の力アピールやめてくれないかな。
でもこういうのは突っ込んだらエスカレートするやつだから、スルーが一番。
若干火照る頬も、見ないふりだ。
「ほかにリアが視えるのは?俺とグレイ卿だけ?」
「そのリアってのやめて」
「は?」
「俺の婚約者だから」
ムッとした顔をするセオルに、オスカーが首を傾げる。
そしてしばらく思案したのち、はっとひらめいたように叫んだ。
「??………嫉妬か!」
「そう」
「お、潔いタイプ?普通照れ隠しに否定しない?」
「しない。愛情を隠す意味がわからない」
「え、熱烈~~。すんごい愛されてんじゃん」
『う、うるさい』
「そんでお前が照れんのかよ」
あまりにあけすけにいうものだから、聞いているこちらが恥ずかしい。
耐え切れずに声を上げると、オスカーはいかにも楽しそうにケラケラと笑った。
「ま、お気持ちはわかったけど、俺のことはどうぞお気になさらず」
「無理だけど」
「ちょっとお耳を拝借」
訝しげに耳を寄せたセオルに、オスカーが何やらこそこそと囁いている。
気になって近づこうとするも、オスカーに手で制されてしまった。
セオルは目を大きく見開いたかと思えば、何度も小さく頷いている。
時折視線がこちらに向けられるから、私の話なんだろうけど、なんで本人をのけ者にするわけ?
しばらくこそこそと会話をしたふたりは、じっと見つめあって、がしっと熱い握手を交わした。
なにそれ、怖いんだけど。
何言ったらこんな短時間で信頼を勝ち取れるわけ?




