34.泣き言と慰め
「困るわ、オスカーくん」
「いやぁ、すみません」
眉をひそめるお母様に、全然反省してなさそうな顔でオスカーが答える。
「お手紙でも知らせた通り、娘に会わせることはできませんからね」
「はい、わかってます」
「そうはいっても……ん?」
「ん?」
「会わなくていいの?」
「だって会わせられないんですもんね?」
「そうだけど……え、ここまで来てそんなにあっさり?」
意外な返答に、お母様は唖然としている。
確かに見舞いを断らせたくせに家まで押しかけてきたのに、さらっと諦めますなんて言われても意味がわからないだろう。
「代わりに、イレーヌに会っていっても?」
「イレーヌに?」
「あの子は俺にとっても妹みたいな存在なので、気を落としていないか心配で」
「そう……そうね、元気づけてもらえると助かるわ。ありがとう」
お母様はそう言って微笑んで立ち上がった。
そして執事にお茶とお菓子の用意を言いつけ退出する。
ほどなくしてノックの音が鳴り、暗い表情のイレーヌがやってきた。
「久しぶり」
「オスカー……お兄様……?」
オスカーを見たイレーヌは、大きな瞳にぶわりと涙をにじませた。
そうして広げられた腕の中に飛び込んだ。
私が元気だったころ、オスカーは頻繁に家に遊びに来ていた。
面倒見のいい性格で、歳の離れたイレーヌもよく懐いている。
「お姉様がっ、お姉様が……」
ぐすぐすと鼻を鳴らすイレーヌの頭を、オスカーが優しく撫でた。
小さく「うん、うん」と相槌を打ちながら、嗚咽交じりの泣き言を受け止める。
小さな身体で、どれだけの不安を抱えてきたのだろう。
どうしようもない罪悪感と、戻れない日常に打ちのめされそうだ。
「大丈夫。リアは強いから、きっと目を覚ますよ」
「うぅっ……わ、わたしも、そう思う……けど」
「うん」
「でももうずっとっ!ずぅっと眠ったままでっ」
オスカーに縋りついたまま号泣するイレーヌを離れたところから眺めていると、ちょいちょいとオスカーに手招きされた。
『な、なに……?』
「イレーヌ。そんなに泣いてたら、目が溶けちゃうぞ~~?」
イレーヌの顔を両手で包み込むようにして、オスカーが言う。
「もしかしたら、リアは寝てるのに退屈して、意識だけ屋敷内をお散歩してるかもな」
「お、おさんぽ?」
「うん。そのときにさ、かわいいイレーヌが泣いてたら、リアも悲しくなっちゃうんじゃないか?」
「う、う゛ぅぅぅ……」
「泣くなとは言わないけどさ、リアはイレーヌの笑った顔が好きじゃん?前に、イレーヌが笑ってるだけで元気出るとか言ってたし。だから頑張って笑ってみ?」
むにむにとオスカーがイレーヌの頬を揉みこむ。
くいっと口角を上げられたイレーヌは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「ほら、リアもこの顔のが好きだって」
「ぐ、ぐちゃぐちゃだもん」
「それがかわいーの」
な?
同意を求めるように、オスカーが私に視線を投げつける。
思わずこくりと頷くと「ほら」とオスカーが明るい声を上げる。
「リアもそうだって言ってる」
「……お、お姉様はここにはいないもん」
「どうかなぁ。いるんじゃね?少なくとも俺は、そう思うよ」
まっすぐイレーヌの目を見て、オスカーが言う。
イレーヌは瞳を揺らしたあと、小さく頷いて、またオスカーにしがみついた。
オスカーはひたすら、その背中を優しく撫でる。
まるで本物の兄妹みたいに。
そのときだった。
ノックもなしに、部屋の扉が勢いよく開かれた。
思わず全員が扉の方へ視線を向けると、息を切らしたセオルが汗だくで立っていた。




