29.種明かし
「どうだった?」
散々泣き腫らした顔をした私を見て、にまにまとセオルが笑う。
私は顔を背けて、自室に向かって歩みを進めた。
セオルは後ろをゆっくりとついてくる。
暗い廊下に、セオルの足音だけが響いていた。
私の足は確かに床を踏みしめているのに、感覚すら得られない。
『ねぇ』
窓の外から、月明かりが差し込んでいる。
私は窓から夜空を眺めながら問いかけた。
『どうしてわかったの?』
「何が?」
『お父様とお母様のこと』
だって、二人とも完璧なポーカーフェイスだった。
婚約解消を告げたときも、セオルが見舞いに来た日だって、微塵も態度に悲しみを滲ませていなかった。
「わかるよ」
『だからなんで』
「だってさ、同じ人を愛する者同士だからね」
なにそれ。
文句を言ってやりたいのに、言葉に詰まってしまう。
「ま、ほんとはちょっとズルしたんだけど」
『は?ズル?』
「ほら、情報収集は何事においても大事だから」
『??どういうこと?』
首を傾げて訊ねても、セオルは気まずそうに目をそらすだけだ。
でも、隠されると余計に気になる。
『ちょっと、ちゃんと言いなさい』
「ん~~っと……でもなぁ……」
『怒らないから』
「えぇ、それ絶対怒られるやつじゃん」
よくわかってるじゃん。
そう思いつつも、にっこりと笑ってスルーする。
「……言わなくても怒られるやつだ」
どうやら白旗を上げてくれたらしい。
こくりと頷くと、諦めたように話し始めた。
「子爵家で寝泊まりするようになってからさ、夜中はちょっと屋敷を探索っていうか、調査っていうか……してて」
『うん』
「一応?ほんと一応なんだけど、まぁ、何事もまずは疑ってかかるべきでしょ?」
『うーん?』
「いや、捜査の基本だから」
『事件じゃないんだけど?』
「事件みたいなもんでしょ」
『……まぁいいや。それで?』
話が脱線しそうなので、適当に流して続きを促す。
セオルは言いづらそうに口をもごもごしていたが、じっと見つめ続けていれば観念したようだ。
「~~屋敷内を盗聴しながら徘徊してましたっ」
『は?』
「聴力強化して、聞き耳立てて回ってたの。犯人は近くにいる可能性が高いでしょ」
『犯人って……そもそも、魔法による肉体干渉があったとしても、それが呪いだと確定したわけでは……』
「ううん。確定してる」
『え。そうなの?』
「うん」
いつの間にそんなに話が進んでいたのか。
難しい話を適当に聞き流していたから、うまく理解できていなかったらしい。
さすがに自分が情けない。
うぅ、と呻き声を上げてうなだれると、セオルが慌てて「ごめん」と謝ってくる。
違う、セオルが悪いんじゃない。
悪いのは自分だと、首を横に振る。
「いや、俺がわかるように説明できてなかったせいだから」
『違う。私の頭が悪いばっかりに』
「リリーはバカじゃないよ。興味がないことに一切関心を持てないだけで」
フォローされているはずなのに、そっちの方がタチが悪いんじゃないかと思ってしまう。
『……で?もっかい説明してもらってもいい?』
「もちろん。何度でも」
私に残されていた外部魔力の痕跡はわずかで、使用された魔法の特定は容易ではなかった。
候補を絞っては検証するのをひたすら繰り返したが該当する魔法は浮かび上がらず、調査は困難を極めた。
ここまでが、私の把握している内容だ。
「使用された魔法はわからなかった。でも、使われていない魔法は把握できた。それによって、消去法でアプローチできたんだ。魔法の作用している箇所、影響の範囲、体内の魔力の流れなどから総合して考えて、おそらく脳の神経に作用しているんだと思う」
『神経?』
「うん。身体を動かすための指令は、脳から体の各部位に出されるでしょ?その指令を伝達する神経が魔力によって遮断されているみたい」
指令が遮断。
それなら、身体が動かないのは納得できる。
でもそれって、身体の感覚も損なわれるものなのだろうか?
それとも、感覚を感じる神経も遮断されているってこと?




