表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/61

28.本心

 泣いてる?

 あのお父様とお母様がーー?


 ドアの前に立つと、ようやく話し声が聞き取れるようになった。

 中に入る勇気はどうしても出せなくて、私はその場で聞き耳を立てることにした。


「……あの子は、いつまであのままなのかしら」


 お母様の疲れ切った声。

 私の存在が泣くほど嫌なのか。

 ぐっと唇を噛み締めて、拳を握りしめた。


「早く死んでしまえば……」

「おい」


 お父様が低い声で窘めた。

 それでもお母様は「だって」と続ける。


「だってそうでしょう?あのままでは、ただ息をしているだけの屍と同じじゃない」

「そうかもしれないが」

「リアは……あの子はっ」


 喉の引き攣れるような音がして、お母様が言い淀んだ。

 それからしばらくの沈黙のあと、2人分のうめき声が聞こえてきて、何かがおかしいことに気づく。


 あれ?

 これが本当に、疎ましい娘について語る声なの?


 気づけば、寝室のドアをすり抜けていた。

 両親は、ベッドに並んで腰掛けている。

 震える母の肩に、父の震える手が添えられていた。


 眉間に深く皺を刻んだ彼らの瞳には、煩わしさや軽蔑の色はまったくなかった。

 代わりに、深い憐憫と悲しみが宿っている。


「花のように笑う娘だったのに!努力を怠らない強い子だったのに、どうしてあんな目に遭わなくてはならないのっ」

「……っ」

「きっとあの子は生涯あのまま……そんな残酷なことがあってもいいの?耐えられない……。痩せていくリアをただ見ていることしかできないのが……人形のように動かないあの子に何もしてやれないのがっ」


 捲し立てるように言うお母様に、お父様は力なく首を横に振った。


「……それでも、目を覚ますかもしれない」


 静かな、それでも懇願するような声に、涙が頬を伝うのを感じる。

 こぼれた涙は、空中で泡のように消えていった。 


「今のあの子は、つらい苦しみのなかにいるのかもしれないわ……」


 顔を両手で覆いながら、お母様が言う。

 寝間着には涙の雫の跡が数え切れないほど刻まれている。


「あの子には意識はないと医者は言うけれど、そんなことわからないじゃないっ……!本当は痛くて苦しいんじゃないかって、もう解放されたいんじゃないかって……そう思ってしまうの………。それに──……」

「……それに?」

「あの子は婚約者を愛していたでしょう……?今はあの娘に寄り添ってくれているけれど、侯爵家の嫡男をこのまま引き止めておけるはずがないもの。いつか彼がほかの令嬢と婚姻を結んでしまったら、きっとあの子の心は壊れてしまうわ……っ」


 ひっくひっくとしゃくり上げながら、お母様が子どものように泣きじゃくっている。

 お父様の頬にも、絶え間なく涙が伝っている。

 二人で肩を震わせて、身を寄せ合って、私のことを憂いている。


『……ごめんなさいっ、ごめっ……なさ……っ』


 とんだ親不孝だ。

 それなのに、申し訳なさよりも喜びが勝っている。

 こんなに二人を悲しませているのに、愛されていることがこんなにも嬉しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ