28.本心
泣いてる?
あのお父様とお母様がーー?
ドアの前に立つと、ようやく話し声が聞き取れるようになった。
中に入る勇気はどうしても出せなくて、私はその場で聞き耳を立てることにした。
「……あの子は、いつまであのままなのかしら」
お母様の疲れ切った声。
私の存在が泣くほど嫌なのか。
ぐっと唇を噛み締めて、拳を握りしめた。
「早く死んでしまえば……」
「おい」
お父様が低い声で窘めた。
それでもお母様は「だって」と続ける。
「だってそうでしょう?あのままでは、ただ息をしているだけの屍と同じじゃない」
「そうかもしれないが」
「リアは……あの子はっ」
喉の引き攣れるような音がして、お母様が言い淀んだ。
それからしばらくの沈黙のあと、2人分のうめき声が聞こえてきて、何かがおかしいことに気づく。
あれ?
これが本当に、疎ましい娘について語る声なの?
気づけば、寝室のドアをすり抜けていた。
両親は、ベッドに並んで腰掛けている。
震える母の肩に、父の震える手が添えられていた。
眉間に深く皺を刻んだ彼らの瞳には、煩わしさや軽蔑の色はまったくなかった。
代わりに、深い憐憫と悲しみが宿っている。
「花のように笑う娘だったのに!努力を怠らない強い子だったのに、どうしてあんな目に遭わなくてはならないのっ」
「……っ」
「きっとあの子は生涯あのまま……そんな残酷なことがあってもいいの?耐えられない……。痩せていくリアをただ見ていることしかできないのが……人形のように動かないあの子に何もしてやれないのがっ」
捲し立てるように言うお母様に、お父様は力なく首を横に振った。
「……それでも、目を覚ますかもしれない」
静かな、それでも懇願するような声に、涙が頬を伝うのを感じる。
こぼれた涙は、空中で泡のように消えていった。
「今のあの子は、つらい苦しみのなかにいるのかもしれないわ……」
顔を両手で覆いながら、お母様が言う。
寝間着には涙の雫の跡が数え切れないほど刻まれている。
「あの子には意識はないと医者は言うけれど、そんなことわからないじゃないっ……!本当は痛くて苦しいんじゃないかって、もう解放されたいんじゃないかって……そう思ってしまうの………。それに──……」
「……それに?」
「あの子は婚約者を愛していたでしょう……?今はあの娘に寄り添ってくれているけれど、侯爵家の嫡男をこのまま引き止めておけるはずがないもの。いつか彼がほかの令嬢と婚姻を結んでしまったら、きっとあの子の心は壊れてしまうわ……っ」
ひっくひっくとしゃくり上げながら、お母様が子どものように泣きじゃくっている。
お父様の頬にも、絶え間なく涙が伝っている。
二人で肩を震わせて、身を寄せ合って、私のことを憂いている。
『……ごめんなさいっ、ごめっ……なさ……っ』
とんだ親不孝だ。
それなのに、申し訳なさよりも喜びが勝っている。
こんなに二人を悲しませているのに、愛されていることがこんなにも嬉しい。




