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27.盗み聞き

 使用人も寝静まった深夜、私の部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 私はそれを合図に肉体を抜け出し、するりとドアをすり抜ける。


「こんな時間にふたりきりって、なんだかドキドキするね」


 セオルが何やら戯言を抜かしているけど無視して『で?』と問いかける。


『証明してくれるんでしょ』

「うん」

『こんな夜中に?』

「うん」


 我が物顔で屋敷内を闊歩するセオルのあとを追いかける。

 向かう先は、両親の私室の方角だ。

 意図的に近づかないようにしていたのに、と足がすくみそうになりながらもなんとか自分を奮い立たせて先へ進む。


 いや待って、その前に。


『なんか、すっごく失礼じゃない?』

「何が?」

『人様の屋敷で何好き勝手動き回ってんの?さすがに客室とか食堂とか自分に関係のある場所以外はあまりうろつかない方がいいんじゃない?』

「そーかもね。……あ、でもリリーはうちの屋敷ならどこでも出入り自由だよ」

『いや、そういう話じゃ』

「あ、でも俺以外の男の私室とかはダメだよ。私室じゃなくても、二人きりになる場所とかはなるべく控えてもらって」

『何の話?いや、行かないし』


 すぐに話が変な方向に行くのは、どうにかしてほしい。

 そんなこんなしているうちに、気づくと両親の部屋の前に立っていた。


『え、家探しでもするの?』

「しないよ」

『でも寝てる両親の部屋にきてどうするっていうわけ?』

「寝てないよ」


 さらりとセオルが言う。

 やば、人の親の生活を把握してんの?


 でも部屋の明かりが消えているようで、ドアの隙間から明かりは漏れていない。

 やっぱり寝ているんじゃないかと思うけど、セオルは人差し指を立てて「しーっ」と小さく囁く。


「聞こえる?」

『??……何が??』

「聞こえないかぁ」

『え、何か聞こえてるの?』

「うん。俺は魔法で聴力を強化してるから」


 何それ怖い。

 盗み聞きし放題ってこと?

 そもそも聴力って強化できるの?


「今の俺、コウモリ並みの聴力だよ」

『コウモリって耳がいいの?』

「うん。人間の15倍くらいって言われてる」

『おー、すごっ』


 素直に感心していると、セオルが頬をポリポリと掻いた。

 暗くてよくわからないけど、頬がほんのり赤く染まっているように見える。


『照れてる?』

「……ちょっとだけ」

『へぇ~~』


 恥ずかしそうにしているのが可愛く見えてニヤついていると、セオルは扉の先をそっと指さした。


「行っておいで」

『は?!?!!?』

「だから、聞こえないなら、中に行っておいでって」

『いやいやいや、ダメでしょ』

「なんで?家族だからいいでしょ」

『なんで??倫理観どうなってんの???プライバシーは??』

「血のつながりゼロの俺が盗み聞きしてるんだから、今さらでしょ」

『それはほんとにそうなんだけど!!!』


 親の私室を覗くなんて、正直気が進まない。

 それでも私の背を押すように、セオルが優しく微笑むから、仕方なく足を踏み出した。


「いってらっしゃい」

『ちょ、ちょっと様子見るだけだから!すぐ出てくるから待っててよ!!』

「はいはい、ごゆっくり~」


 気の抜けるゆるい声が、高まった緊張を少しだけほぐしてくれる。

 するりとドアを抜けたが、室内は薄暗くて見えづらい。

 奥の方からほんのりと明かりが漏れてるのを見て、2人は寝室にいるのだと気づいた。


 両親の寝室に足を踏み入れるのは、いつ以来だろう。

 幼い頃は足を運ぶこともあったが、遠い記憶だ。


 少しの罪悪感を感じながら寝室へ近づくと、わずかに話し声が聞こえる。

 何を話しているのだろう。

 私が聞いても大丈夫な話だろうか。

 婚約解消を告げる両親の冷たい声を思い出して、恐怖心がこみ上げてくる。


 それでも何とか扉から数メートルのところまで近づいたところで、ふと気づいた。

 男女の話し声に、わずかな嗚咽が混じっていることに。

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