18.名案
結局セオルには、私の2つ隣の部屋があてがわれた。
隣が良かったと不貞腐れているのにドン引きしつつも、内心喜んでしまっている自分に気づかぬふりをする。
彼はもう、私の婚約者じゃない。
そう自分に言い聞かせる。
気持ちにきちんと踏ん切りをつけなくてはならない。
これからイレーヌと並ぶ姿を、嫌でも目の当たりにしていくのだから。
「何かあったら、すぐに俺に知らせてね」
『……うん』
「何もなくても、いつでも部屋に来ていいからね」
『バカじゃないの?』
そんな軽口を叩きながらも、セオルの私を見る目があんまり優しいものだから困る。
これから同じ屋敷で生活していて、私は兵器でいられるだろうかと少し不安になった。
「ところでさ」
『なに?』
「ルールを決めたいんだけど」
セオルの言葉に私は首を傾げる。
『なんのルール?』
「ルールっていうか、お願い?」
『お願い?』
「聞いてくれる?」
背が高いくせに上目遣いで甘えてくるのはずるい!
思わず無条件でうなずいてしまいそうになって、とっさに気を引き締める。
言質を取られてはいけないと、私の理性が叫んでいる。
『な、内容による……!』
「わかった。でも、なるべくオッケーしてね」
『ぜ、善処する』
どんな難題を突きつけられるのかと身構えていたが、セオルから提示されたルールはたったの3つだけだった。
ひとつ、千里眼以外の魔法はセオルが屋敷にいるときに使うこと。
ふたつ、体調に異変があれば包み隠さず話すこと。
みっつ、千里眼で遠出をしないこと。
『それだけ?』
「うん。もっとお願いしてもよかった?」
『そ、そうじゃない……けど……』
ゆらりと揺れる漆黒の瞳に、私の姿は映らない。
実態を伴わない私の姿が、どうしてセオルにだけ見えるのか、今でも不思議で仕方ない。
「どうしたの?」
『ううん、別に』
「教えてくれないんだ?」
『……大したことじゃないってば』
変に食い下がるセオルに苦笑いする。
少し拗ねたみたいに唇が尖ったのが可愛くて「どうしてなのかなって思っただけ」だと、浮かんだ疑問を口にした。
セオルはキョトンとしたあと「そんなこと?」とこともなげに呟く。
『そんなって……だって謎じゃない?魔力の高い人には見えるのかな?外に出て試してみる?』
「必要ない」
『ひっ、必要はあるでしょ』
「愛の力だよ。それ以外考えらんない」
至って真面目な顔でそんな事を言うもんだから、思わず茫然としてしまった。
そんなふわふわした結論でいいわけがないだろう。
『じゃあ、イレーヌにも私の姿が見えてもいいんじゃないの?』
「イレーヌ?」
『あの子は私を愛してくれている………と、思う』
両親とは違って。
そんな皮肉をこぼしそうになって、口をきゅっと結ぶ。
セオルは顎に手を当てて「確かにね」と呟いた。
「でもさ、家族の情と恋情は違うでしょ」
『れっ!恋情って』
「大体童話のお姫様だってさ、呪いを解くのは王子様のキスだってのが………てい、ばん……で………?」
あれ?
なんだか無性に嫌な予感がする。
「そうか……目覚めの………」
ブツブツ呟くセオルの思考を察して、頬が焼けるように熱くなるのを感じる。
いや、実際は温度なんてないんだけど!
そんなことはどうでもよくって!!!
「そうだよ。キスすれば」
『ぜっっっったいだめ!!!!!』
「うおっ、びっくりした」
全力で叫んだ私に、セオルがビクッと肩を揺らした。




