15.呪いと魔法のスクロール
呪い。
他者の肉体や精神を蝕む魔法。
確か遠い昔には、そんな魔法が存在したと言われている。
しかしそれも古くに廃れてしまい、今ではおとぎ話の中にしか登場しない言葉だ。
彼は古代魔法の研究を専門にしているから、その一環で呪いについても詳しいのかもしれない。
それでも、呪い?呪いかぁ………。
そんなものがよりにもよって私にかけられることがある?
そもそも一体誰がそんなものを扱えるというのだろう?
私には人に恨まれる覚えもなければ、そんなだいそれたことができる知り合いにも心当たりがない。
「もしも呪いを受けたのであれば、なんらかの魔力痕跡が見つかるかもしれない。このスクロールに触れてみて」
そう言って彼が私の手をとり、サイドテーブルに置いてあったスクロールに触れさせる。
仄かな光を発したその魔法道具は、くるくると丸まっていた紙を広げていく。
伸びた箇所には、数式のようなものが浮かび上がっていた。
なにこれ、おもしろーい。
魔力の少ない私は魔法経験も乏しい。
世の中には便利な魔法道具が溢れているけれど、私に扱えるのは魔力の少ない者でも使える初級アイテム程度。
それこそ部屋の照明だとか、冷風機だとか、生活のお役立ちアイテムくらいのものだ。
スクロールも初級のものしか触ったことがない。
でもこれは、間違いなく中級、あるいは上級スクロールだろう。
魔力の痕跡を辿るだなんて難しいことが、初級スクロールでできるはずがない。
魔力の流れを感じないことから、スクロールには、私ではなく彼の魔力が注がれているのだろう。
やがて光が止まり、スクロールも動きを止めた。
彼は私の手をそっとベッドに横たえ、スクロールを確認する。
あ、そっち向けられると見えない!
滅多に見られない光景に、戸惑いより好奇心が勝ってしまった。
( 千里眼 )
衝動に抗えずに唱える。
ふわりと浮かび上がる感覚のあと顔を上げると、目を丸くしたセオルと視線がぶつかった。
セオルがあまりにも嬉しそうに微笑むものだから、無性に恥ずかしくて肉体へ戻りたくなったけれど、せっかく出てきたのだからと踏みとどまり、彼の持つスクロールをのぞき込んだ。
うん、全然わかんない。
見たこともない数式や文字の羅列に目眩がしそうだ。
「ほら、ここをみてごらん」
一点をぴっとセオルが指さす。
ここと言われても、やっぱりわからない。
「外部魔力の痕跡がある。3ヶ月前…、ちょうど最初の不調が起こり始めた頃だ」
『そうなの?見方がわからないんだけど』
「あ、ごめん」
素直に打ち明けると、何やら説明が始まった。
丁寧な説明なのだろうけど、専門用語が多過ぎてまったくわからない。
それに、そもそも解説してほしいとは言ってない。
『わかんないから、要点だけ説明してくれる?』
「わかった」
呆れられないかと少し不安だったけど、彼は気にする様子もなく了承してくれた。
これは、対象者の魔力の流れの記録を書き出すスクロールらしい。
魔力の消費量や流れから、いつ、どんな魔法を発動したのか読み取ることができるため、普段は魔法犯罪の捜査に用いられるという。
こんな便利なものがあるとは知らなかった。
そう口にはしなかったが、考えていることが通じたのか「一般市民には秘匿されている代物だよ」とセオルが付け加える。




