10.孤独と退屈
『で、でも私はこんなだし、家のためには』
「家なんてどうでもいい。俺は君以外と婚姻関係を結ぶつもりはないし、君がほかの男のものになることも絶対に許さない」
『なんでそこまで』
「なんで?わからない?」
わからない。
そう突っぱねてしまいたかった。
だって、こんなの知らない。
これではまるで、まるで……。
『だって、私たちの婚約は家同士の……』
「違うよ」
『……え?』
「この婚約は、初めから俺が望んだものだから」
嘘だ。
そう指摘してやりたかったが、有無を言わさない瞳に口をつぐむ。
私たちの婚約が決まったのは、私が4歳のころだった。
当時のセオルは7歳。
婚約と言う人生を大きく左右する事柄を決断できるような年齢ではない。
『……意味が、わからないわ』
「そのままの意味だよ。アメリア」
間髪入れずに返されて、ますます混乱する。
彼はそんな私の動揺を心底嬉しそうに眺めてから、子どもに言い聞かせるように低い声で囁いま。
「君は俺のものだし、俺は君のものだということだよ。……わかったら、訂正して。元婚約者じゃなくて、現婚約者。はい」
『げ、現……婚約、者』
「ん。よろしい」
促されるまま呟くと、満足してくれたらしい。
ようやく自分の席に戻ってくれて、ほっと胸を撫で下ろした。
今は遠く離れた屋敷にあるはずの心臓がうるさいほど脈うっている気がしたけど、きっと気のせいだ。
ふるふると首を振っていると、ふっと微かな笑い声が聞こえた気がした。
ぱっと顔をあげてセオルを睨むも、平然とした顔で「ところで」と口を開く。
「今の君の状態について、詳細を聞かせてもらえないかな?少しずつ動かせない体の部位が増えてきたということし教えてもらえなくて、原因を探ろうにも……」
『……詳細と言われても、私にもわからないの。最初はストレスじゃないかって言われて、でも、思い当たることもなかったし……』
「そう。医師の診察では異常はないと?」
『うん。身体が動かない以外は、普通の人と何も変わらないって』
セオルは口元に手を当てて、じっと何かを考えている。
このところ、医師は諦めたように経過を観察するだけだったから、こうして原因を探ろうとしてもらえるだけで嬉しい。
「ちなみに意識は?ご両親はすでに君の意識はないものと判断されているようだけど、多分違うよね」
『めちゃくちゃあります』
「めちゃくちゃかぁ」
困ったようにセオルが笑って、私もつられて笑ってしまった。
穏やかな会話に、積み重なった孤独が慰められるのを感じる。
『多分、睡眠時間は変わってないと思う』
「じゃあ、一日の大半は起きてるってこと?退屈でしょ」
『それはもう』
毎日退屈で退屈でたまならない。
侍女とメイド以外はほとんど誰も部屋を訪れないし、ただただ長い時間を部屋の中でじっと過ごすだけなのだから。
でも、この力があれば、明日から精神体になってお出かけしてみるのもいいかもしれない。
森の中を散策したり、自由気ままに街をふらふらしたりするのもいいだろう。
そう考えると、少しだけわくわくしてきた。




