パンと麺と米と
「っ、痛」
足の裏に痛みを感じ、足を上げて足元を確認すると1粒の乾燥した米粒があった
この乾燥具合からして、2、3日以上は前のものだろう
そして、俺はここ一週間はめっきり米は食っていない
一体いつから落ちてるんだよ...
そんなことを考えているうちにも、時間は過ぎる
俺がくだらないことを考えている数秒の間にも、アフリカの発展途上国では数秒が経過しているのだ
時計をふと見ると、8時27分を示している
高校の始業時間は8時半
家から、学校までの所要時間は約12分
俺は、やかんで湯を沸かす
お気に入りのパンダがついたマグカップにコーヒードリッパーとフィルターをセットし、粉を適量入れる
適量と言うからには、多すぎても少なすぎてもいけないなんてことは無い
薄いコーヒーが好きな人もいれば、濃いコーヒーが好きな人もいるのだ
湧いたお湯を、フィルターの外側から円を描くようにゆっくりと注ぎ入れる
お湯が溜まってきたら1度、落ちるまで待機
そして、もう一度注ぐ
正直、俺はコーヒーについては何も分からない
凝っている風のことはやっているが、コーヒーの味の違いすら分からない
なんなら、飲み物全体で言うとコーヒーは嫌いな部類に入る
今、俺は時間があるからコーヒーを淹れているに過ぎない
コーヒーを嗜むのは、時間の余裕の現れ
時間の余裕は、すなわち人としての余裕、
余裕のある大人な男を目指す俺にとって、コーヒーはちょうどいいのだ
2度目に注いだお湯も、ほとんどマグカップの中に落ちる
しかし、ここで焦ってはいけない
最後の一滴が落ちるまで待つのだ
ドイツかどこかの建築家の言葉で、神は細部に宿るというものがある
つまり、そういうことだ
焦りは禁物ということを肝に銘じ、俺はスマホを取り出す
滑らかな指の動きで動画配信アプリを開ける
そして、1番上に表示された生配信をタップし再生する
画面には、白い背景と右下に髪の毛がカラフルな女の子が映し出される
どうせ遅刻するのなら、推しの朝活を見るのが礼儀というものだ
例え、今日が高校二年生最初の登校日
始業式だとしてもだ
横目で見ていた、コーヒードリッパーから最後の一滴が落ちそうになっている
雫は、ぷるぷると振動しており今にも落ちそうだ
ここで、揺らして落としてしまいたいという気持ちにもなるが、我慢だ
ここで揺らすことで味になにか影響が出るとは微塵も思わないが、そんなことはしない
俺に言わせてみれば、そんなことをするのは粋じゃない
自然に落ちるのを待つのだ
推しの朝活を見ながら
そして雫が、落ちるのと同時
家の壁が崩れた
交通事故かなにかで車が突っ込んできたのかと思ったが、家は別に道路沿いでもなんでもない事を思い出しその説を否定する
現れたのは、少女
小学4年生くらいだろうか
手に三角形の何かを持ったギザ歯の少女がそこにいた
髪も、服も、肌も白い
だからこそ、胸に着けたオレンジ色のペンダントが目立っていた
壁が崩れて、少女が入ってくる?
一体なんの冗談だ
なんにせよ、コーヒーは咄嗟に守ったので無事だ
それは良かった
「コーヒーでもいかが?」
とりあえず、俺だけコーヒーを飲むのも悪いなと思って聞いてみた
これが余裕のある人間の行動なのだよ
少女は、そのギザ馬を見せつけるようにニカッと笑い
手に持った正三角形の何かをこちらに投げてくる
よく見るとこれ、おにぎりか...
おにぎり...久しく食ってないな
これ俺にくれるってことかな?コーヒーと交換?
床に落ちたおにぎりはなぁ、てか転がしてるし
そんなことを考えている間に、おにぎりが7色に発光し始める
俺は慌てたが、そんな咄嗟に行動できるはずがなかった
結果からいえば、おにぎりは爆発した
中から、オレンジ色の少々生臭い何かが飛び散り俺のマグカップの中にも飛来した
まぁ、爆発で俺は吹っ飛びマグカップの中にはほとんど何も残っていなかったのだが
そして、俺を狙うかのように先程のおにぎり爆弾が2個3個と転がってくる
当然俺は背を向けて逃げる
しかし、背後からの爆風で転倒
少女が、ゆっくりと近づいてきて
今度は確実にとばかりに目をギラつかせる
何が何だか分からないが、ここまでの状況を一旦整理しよう
俺は、コーヒーを淹れていた、壁が崩れた、少女がでてきた、爆弾?で攻撃してきた、コーヒーが犠牲になった
うんなるほど分からん
どうしてこうなるんだよ
俺が、この世界の不条理に呆れ生を諦めようとした時
俺の背後の壁が崩れた
どれだけ人の家を壊せば気が済むんだ
「なんで、学校に来ない
なんで、もうピンチになってる」
ん?誰だ
俺の背後から現れたのは、緑色の髪をした謎の少女
同級生くらいか?
手には、半球状の何かを持っていた
「フェール」
フランス語?一体なんだ
「デュ」
ギザ歯の少女が焦ったように爆弾を大量に投げてくる
椀飯振る舞いだな
「メロンパン!」
緑髪の少女が、謎の光に包まれる
思わず、目をつぶってしまった
俺が再び目を開けた時に広がっていたのは、やたらいかつい筋肉モリモリマッチョマンの緑髪のおっさんがおにぎり爆弾を全て弾き返している光景だ
おっさんの長い髪からは焼きたてのパンのようないい香りがした
俺は、気を失った




