恋人のために僕は絵を残す
あの幼なじみをモデルにして、絵を描いてみたい。
そう、僕は何回も思ったことがある。
座敷わらしみたいな、あの幼なじみ。
性格は、明るい。恥ずかしがり屋の僕とは真逆だ。
「幼稚園の頃からずっと僕の家にいる」ということがなければ、会話することはおろか、挨拶すらしなかっただろう、できなかっただろう。
一応、あの幼なじみは、普通の、ヒト。
幼稚園の頃から、あの子の家族を見たことは1回もない。家庭科の調理では、いつも見学。家でも、料理をしてる所を見たことがない。部活もしない、僕たちの通う中学校では強制なんだけど、あの子だけは帰宅部、どこにも入っていない。そして、誕生日を祝おうと僕がすると、必ず彼女に怒られる(プンスカって)。
けど、多分、普通の、ヒト。
何かあるんだろうけど、恐らく、普通の、ヒト。
そんな子に、僕は小さい頃から恋をしている。理由はない、ただ好きなのだ、好きで仕方ないのだ。
美術の高校に進学したいと思っている僕、今、中3だけど、部活はもちろん美術部、賞をよくもらうけど嬉しくはない。
絵を描くことが好きだ。
けど、恥ずかしくて、あの子の絵は1回も描けたことがない。
来年、高校生になったら、僕たちはどうなるのか。同じ高校に進学てのは、ないかもしれない。
あの子が違う家の子になってしまいそうで、僕は焦っている。そもそも、なぜ僕の家にいるのだろうか? わからない。僕の両親に聞いたら何かわかるかもしれないけど、聞ける勇気が僕にはない。
好きだって、伝えたい、とりあえず。
そして、できれば、あの子の絵を、描きたい。
どうなるかは、わからないけど。
そして、今は、夏休み。中3の、夏休み。
夏休みの誕生日、僕はあの子に告白をしたい。
「ありがとう、今日も美味しかったよ!」
「う、うん」
笑顔の彼女に、僕は首を何回も縦に振って返す。
今、この家にいるのは2人だけ。両親は仕事。
2人、僕と、この子。
そう考えたら、すごくきんちょう。
「お皿洗えなくてごめんね? お願い」
申し訳なさそうにされる。
何かあるのだろう、普通のヒトと思うけど、洗えない訳が。
皿を触ったら自然と割れる、みたいな。
いや、それは普通じゃない。
「じゃあ、自分の部屋に行くから。
ごめんね? 私たちのワガママで住ませてもらってるのに、部屋もらって」
椅子から立ち上がろうとする。
僕は慌てて、
「きょ、今日は何の誕生日」
「誕生日が前提?」
苦笑される。
「きょ、今日は何の日?」
「誕生日なんでしょ?
誰のだろう? キャラかな? 芸能人はなさそう、テレビ観ないもんね、私たち。
う-ん、わがんね。
ヒントちょうだい! ね?」
笑顔で「お願い」のポーズをされる。
今だ! と、直感。
僕は椅子から立ち上がり、かけ足で冷蔵庫に向かう。
そして、開けて、ケーキを取り出す。
ケーキ、誕生日ケーキ。
人生で初めて買った誕生日ケーキ。
「好きだ! 誕生日おめでとう!」
「ちょっと、私はそういうの嫌だって知ってるよね?」
やはり、プンスカ。
誕生日を祝われるのが嫌だから。
けど、タイミングが、僕にはこれしかないから。
「好きだ! 結婚して! 絵を描かせて!」
勢いに任せて、僕は言う。
こういうのは冷静になって言った方がいいんだろう、それはわかってる。
けど、僕にはこうするしかない。冷静になったら言えない、度胸がない。
勢いで言っている分、心をこめて!
やはり、プンスカだろうか。
ああ、僕の恋もここまでなのか?
もう恋愛はしないかもしれない、いや、したくない。
プンスカだったら諦めよう、僕なんかじゃやっぱり、はあ。勢いで言ったら変質者じゃないか。
と、考えていると、
「無理だよ、それは。私は恋したらいけないの」
辛そうな表情をされる。
なぜ?
思いきって告白をした、なのに。
「駄目だよ、私には権利がない」
「な、なんで」
「私、不老不死だから」
「ふ、不老不死?」
いきなりファンタジー?
今は、2025年で。
ファンタジー?
戸惑っていると、
「不思議に思わない? 私の両親だった奴らが私のことを嫌ってるの」
思う、幼稚園の頃から1回も見たことないから。
「いつか不老不死になる化け物を、自分の娘って思える訳ないでしょ?」
いつか不老不死になる。
「不老不死にいつかがあるの?」
「あるんだってさ。
よくわかんないよ、私には」
僕にもわからない。
「宇宙のビッグバン以前とか、コロナウイルスの原因とか、そんなものなんじゃないの?
信じてくれる?」
いつか不老不死になる、それだけ医者にはわかったって感じだろうか。
信じることは、ファンタジー?
「信じることはできないかもしれないね。
けど、これが真実なんだ。
だから、両親だった奴らには嫌われているし、家庭科の調理は絶対見学だし、部活もできない。多分、裁縫もさせてもらえない。いや、絶対させてもらえない。
いつ不老不死になるかわかんなかったもん、タイミングが悪かったらばれて研究のモルモット」
「つ、辛くない?」
「辛い? 何が?」
言葉を返せない。
両親からは嫌われ、させてもらえないことも多くて。
人生辛くない? なんて、言えない。
傷付けてしまいそうで。
「人生が辛くないか、でしょ?
けど、もう、死ねないし。
見事に去年、不老不死になりました。私は永遠の14歳です。感覚でわかる、自分の体だから。わかるのなら、してみたかったけど、色々。
試しに転んでケガしてみたら、治っちゃった。不老不死だね」
あはは、と笑われる。
だからね、と言い、
「私と恋愛したら駄目だよ? 普通の人としなさい、普通に老けて、普通に死ぬ人と」
・・・・・・。
そんなの。
「い、いまから僕のモデルになって」
「できた」
呟く。
「おっ、できた? 見せて見せて」
笑顔で駆け寄ってくる。
「お-、やっぱ上手」
そして、僕は真面目な表情で、
「これが、最初の1枚です。
いつ、僕が死んでしまうか、わかりません。
いつか、あなたは1人きりになってしまうかもしれません。
だから、愛を残していきます。たくさんの愛を絵で残していきます。
あなたが、幸せな毎日を思い出せるように。
僕は、あなたを諦めません。恋をする相手は、あなただけです。
だから、結婚してください、僕がきちんとした画家になれたら、結婚してください。
お願いします」
僕は頭を下げる。
笑われるだろうか、けど、僕は言いたかった、言わないと後悔した。
「永遠の14歳だよ? おじいちゃんになっても、私はこのままなんだよ?」
「関係ありません。
僕は、あなたが好きなのです」
沈黙。
そして、
「何で敬語なのかはわからないけど。
こちらこそ、お願いします」
ほっ。
たくさん、たくさん、
愛を残していけたらいいな。
いかがでしたか?
壁はたくさんありそうですが、2人には頑張って乗り越えていってほしいです。