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デート阻止大作戦・決行

 決戦の日の朝、ダイキとレイコは気合十分という面持ちで腕を組みながら、作戦の最終確認をしていた。


「ええか、こないだ拓実と打ち合わせたとおりや。まず【作戦1:オタバレ大作戦】。下準備はもう済んどる」


「そして【作戦2:濡れ鼠大作戦】ですね。こちらの下見もばっちりです」


「そんでラストは【作戦3:穴埋め大作戦】やな」


「待ち合わせは11時に渋谷駅です。さぁ、そろそろ向かいましょう!」


 二人は頷きあう。


 ◇


 水帆は逸る気持ち抑えることができず、待ち合わせの20分も前に渋谷駅に到着してしまった。

 待ち合わせのLINEの確認、インカメでビジュの確認、緊張を紛らわせるためにインスタを巡回。

 それを3セット繰り返したところで、ちょうど11時になり、ついに史也が現れた。

 例のごとく髪はばっちりとセットされ、ブランドもののTシャツを身に纏い、セカンドバックを片手にしている。


「水帆ちゃん、待たせちゃったかな? ごめんね。行こうか」


「史也くん! 全然だよ、今着いたばっかりなの! 行こう!」


 THE・初デートの待ち合わせという会話を繰り広げつつ、二人は小洒落たカフェへと移動する。


「ここ、ガレットがおいしいんだって」


 にこやかに話す史也に、


「そ、そうなんだ! じゃあ、ガレットにしよーっと!」


 まだ緊張感の残る水帆。


 他愛もない会話をしつつ注文したガレット来るのを待つ二人を、ダイキとレイコはじれったそうに眺めていた。


「お待たせしました、ハムエッグガレットとアボカドサーモンガレットでーす」


「お、来た来た」


「わ、おいしそう! いただきます!」


 目を輝かせて早速手を合わせる水帆だったが、


「あ、写真とか撮らなくていいの?」


 史也にそう問われ、少しだけ焦った様子で


「あ、そうだよね! 撮る撮る!」


 と笑顔を史也に向けたまま、バッグの中のスマホを手探りで取り出そうとする。

 が、――スマホを取ったはずの手に握られていたのは、水帆の推しキャラ、トキアのアクスタだった。


「それ……何?」


 史也の言葉に、水帆は瞬間凍結されたが、何とか言葉を絞り出す。


「あ……これ!? これはね、何でもないよ! なんか妹のおもちゃが紛れ込んじゃってたみたい、ごめん!」


 反射的に言い訳と謝罪を述べながら、今度こそバッグの中からスマホを取り出し、ささっとガレットの写真を撮る。

 気もそぞろで撮影した写真はもはやガレットと特定できないほどにブレていた。


「さぁ、写真も撮ったし、食べよ食べよ!」


 水帆は少し早口になりながら、再度いただきますと手を合わせる。

 店内の冷房は十分に効いているはずなのに、水帆は汗はが止まらなかった。

 汗をぬぐおうとバッグのポケットからハンカチを取り出したが、――彼女の手にはまたもや想定とは異なるものが握られていた。


 今度はトキアのキャラぬいである。


「あれ、今度は人形? さっきのと同じキャラクターっぽいね?」


 史也は不思議そうに問いかける。


「うぇえ!? なんで……。あ、えっと、これも妹が入れたのかな? ごめんごめん!」


 相変わらず何に対するものか分からない謝罪を繰り返しながら、再び今度こそ、取り出したハンカチで止まらない冷や汗をぬぐう。


「……妹ちゃんって、水帆ちゃんとは結構違う感じなの?」


 史也は笑顔を保ちつつも、どこか腑に落ちない表情をして尋ねた。


「え……顔も中身も割と似てると思うけど、どうして?」


「いや、さっきのアニメのキャラクターっぽかったからさ。妹ちゃん、もしかしてオタク系?腐女子?ってやつなのかなとか思って。水帆ちゃんっていかにも陽キャって感じで、全然そういうの見なさそうだし。まあ、俺も全然興味ないけど」


「…………ははは……」


 水帆は今度は言葉を絞り出すことができず、顔をうつむけながら愛想笑いを浮かべるのが精いっぱいだった。


 そんな水帆の姿を上空から見守っていたダイキとレイコは、


「【作戦1】、筋書き通り……やけど、水帆のこんな顔は見たなかったな……」


「うぅ……水帆ちゃん、ごめんなさい……!!」

 と、罪悪感に苛まれた表情を浮かべる。


 既にお分かりのとおり、【作戦1:オタバレ大作戦】とは、水帆がオタクであることを史也にバレさせる作戦である。

 史也が普段からオタクに対し、意識的にか無意識的にか、見下したような態度をとっていることは、拓実と史也のやり取りから容易に予想できた。

 そのため、水帆がオタクであることを知れば、史也の気持ちが冷めるのではないか、あるいは、史也がオタクを見下すような発言をすれば、水帆の中で史也の好感度が下がるのではないか、というのが守護霊たちと拓実の狙いだった。


 そこで、水帆がスマホを入れた位置にアクスタを、ハンカチを入れた位置にキャラぬいを、こっそり配置しておいたのである。


 そして現に、狙いに近い展開を迎えたわけだが――過保護な守護霊たちは、水帆のいたたまれない姿に、思いのほか大きな心痛を抱えることとなった。


 ◇

 

 ガレットを食べながら、先ほどのやり取りを頭の隅へと追いやった水帆は、なんとか笑顔で世間話ができるテンションまで自身を回復させることに成功した。

 そんな水帆の胸中もつゆ知らず、自分の店選びのセンスにご満悦の史也は、次なる目的地へと水帆を促す。


「いいお店だったね。じゃあ、そろそろ映画館行こうか。『#ウソから始まる本気の恋』って映画、今流行ってるんだって。チケット、取っておいたから見に行こう」


 史也は、イケメン俳優と女性アイドルタレントの2ショットがでかでかと印刷されたチケットを2枚、ひらひらと見せながら笑顔を向けた。


「あ……うん! チケット、取ってくれてありがとう!」


 “映画館”と聞いて水帆の脳裏には一瞬、現在絶賛上映中のみゅー☆プリのライブアニメーション映画がよぎったが、すぐに


 ”水帆ちゃんって全然そういうの見なさそうだし。まあ、俺も全然興味ないけど”


 という先ほどの史也の言葉がリフレインしたので、ぎゅっと目を瞑った後、小さく頭を振った。

 流行りの恋愛映画はあまり見たことがないけど、これはこれで楽しめそうだ、と気持ちを切り替えて歩いていると、


 バシャッ!!!!


 史也がいるはずの右手側から、突然水滴が飛び跳ねてきた。驚いて右を向くと、頭から水をかぶり呆然と立ち尽くす史也がいた。

 小一時間かけてセットした髪の束感は当然見る影もなく、朝丁寧にアイロンで伸ばした前髪の根本も、うねうねと本来の姿を取り戻しつつある。


「史也くん!? だ、大丈夫!?」


「え……何?マジで最悪なんだけど。……さすがに今日は帰るわ。映画はまた今度、ごめんね」


 即座に頭にハンカチをかぶせてそうつぶやくと、持っていた映画のチケットを水帆の手に押し付け、一瞬だけ泣きそうな表情を浮かべて、史也は踵を返した。


「あ……」


 突然の出来事に何一つついていけていない水帆は、チケット2枚を手にしたまま、足早に去っていく史也の後ろ姿をぽかんと見つめることしかできなかった。


「水帆ちゃんを濡らさず史也くんだけに水をかけるコントロール、素晴らしいですダイキくん! さすが元サッカー部!」


「……サッカー、全く関係ないけど。ベストポジション確保できたんは、レイコの下見のおかげ。【作戦2:濡れ鼠大作戦】、作戦名のとおり史也を濡れ鼠にして、ご自慢の束間ヘアーを台無しにしたったな。にしても、水帆を放置して即帰るとか……ほんまに甲斐性の無いクズ男や」


「ダイキくん、クズ男は言い過ぎですよぉ」


 やれやれという顔をしつつも、二つ目の作戦も無事成功に終わり、今度は満足げな二人だった。


 ◇


 依然立ち尽くす水帆の後ろから、大きなトートバックを抱えた男が走ってきた。


「さ、佐々木さん!」


「え……寺ちゃん? なんでここに?」


 息を切らして突然登場した拓実に驚き目を大きく見開きながら、水帆は問いかけた。


「オンリー、早めに用事終わって……帰ってたら、ほ、ほんとにたまたまなんだけど、佐々木さんいたから。……あ、お使いもちゃんとしてきたよ!」


 明らかに怪しい言いぶりに、ダイキ監督からは(もっと自然に!)と指導が入り、拓実は誤魔化すように、慌てて水帆に頼まれていた本を数冊手渡した。


「ありがとう! 後でお金渡すね。あ、あとさ……これから二人で映画見ようとしてたんだけど、私一人になっちゃって。せっかくだから、よかったら一緒に見ない?」


「うん!」


 本来であればどういうこと?と疑問が湧いてきそうな不思議な誘い文句だが、拓実は逆に違和感があるほどすんなりと誘いを快諾する。

 史也が映画をキャンセルする、そこに拓実が現れて史也の穴埋めとして一緒に映画を見る。

 そのために、時間も場所も、事前に三人で打合せ済みで、拓実はこれに合わせて大急ぎでイベントを切り上げてきたのである。

 これこそが【作戦3:穴埋め大作戦】だ。


「俺、みゅー☆プリのライブ映画気になってたんだけど……見る映画ってもう決まってるのかな」


「え!? 私もそれ見たかったの! けど……実は違う映画のチケットもらっちゃって」


 水帆は残念そうに『#ウソから始まる本気の恋』のチケットを見せる。


「じゃあ、それ見よっか。その映画も流行ってるし、これはこれで楽しめそうだよ。で、でもさ……! これ終わった後、ちょうどすぐ後の時間にみゅー☆プリやってるから……。だから、2本立ていやじゃなければ……みゅー☆プリの方も一緒に見ない?」


 拓実は緊張して拳をぎゅっと握りしめ、少し耳を赤らめながらも、まっすぐに水帆を見つめて言った。

 背後に聞こえる(よう言った!男や拓実!)(素敵です寺ちゃん!)というガヤにむず痒さを感じながら返事を待っていると、


「えっいいの? 見よ見よ!」


 ぱあっと顔を明るくした水帆が答える。

 これには背後の守護霊たちとともに、拓実も心の中でガッツポーズをした。


 ◇


「いや~~本当によかったね、みゅー☆プリ!」


「ほんとだね。ライブアニメーションって俺初めてだったんだけど……本当にコンサートに行ったみたい。こんなに楽しいなんて、今まで人生損してたなあ」


「ね! あの曲のサビのマサヒトのダンスがさ……」


「わかる! あとアンコールの挨拶のショータくんも……」


「あ~~それな! あとあと……」


 帰路、拓実と水帆は絶えることなくみゅー☆プリの映画の話で盛り上がっており、『#ウソから始まる本気の恋』は、ついぞ可とも不可とも言及されることはなかった。

 このまま夜まで語り明かせそうな勢いの二人だったが、そうこうしているうちに水帆の家に到着し、ついにお開きとなった。

 拓実にお礼を言いながら手を振る水帆の背後で、ダイキとレイコは拓実に向けて称えるような顔で親指を立てた。

 拓実は二人にアイコンタクトで感謝を伝えると、ふわっと笑顔を浮かべ、水帆の家を後にした。


 これにて、共同戦線の本日のミッションが無事オールコンプリートとなった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


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しばらくは毎日ペース、17時頃の更新を予定しています!

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水帆ちゃんは、好きになっちゃいけないタイプを好きになっちゃう子なのかな。こんないい子(拓実くん)がそばにいるのに! でも、三人(一人と守護霊二人)の作戦、あまりにうまく行き過ぎて、あとが怖そう……?
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