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第2話 大ピンチ到来、"土曜日の変"

 守護霊たちが鬨の声を上げていたその頃、水帆は夢心地でアールグレイをすすっていた。

 まさか、史也の方から誘ってくれるなんて。

 突然舞い込んだ幸せに、水帆の脳のシナプスは完全にサーバーダウンしていた。


「……でさ、土曜日はどうかな?」


 史也がにっこり笑って問いかける。


「……へ?」


 突然投げかけられた疑問文に、水帆はアールグレイが鼻から出そうになるのを必死に堰き止める。


「デートだよ。土曜日、遊びに行かない?」


「で、デート!?!? 土曜日……あ……うん!! いけるよ!!!」


 史也を前にするといつも脳より先に口が動いてしまう水帆である。

 予定も確認しないまま、気づけばOKの返事をしていた。


「よかった! じゃあ、楽しみにしてるね。あ、ここは俺のおごり。じゃあ、俺次の講義あるから、また土曜日にね!」


 史也はここぞとばかりにウインクしながら去っていった。

 今の水帆に、そのウインクを片腹痛いと思う感情は、もはや欠落していた。


 ◇


 ダイキとレイコが水帆の背後に到着したのは、まさにこの瞬間であった。


「い、今なんて……?」


 ダイキが冷や汗をかく。


「土曜日、デートですって……」


 レイコが心配そうにささやく。


「あぁ……! 遅かった……! ここまで頑張って会話阻止してきたのに一瞬の隙をついて、おのれあの平成優男め……やり方が汚ねえ! 俺の水帆を……!」


「ダイキくん、言い過ぎですぅ。今回はわたしたちのタイミングが悪かったんですよお」


「ぐぬ……まあ決まってもうたもんはしゃーない。土曜日の作戦練るぞ。もう明後日や、時間ないで」


「水帆ちゃん、予定確認してなかったみたいだけど、予定はほんとに空いてるのかしら?」


「それや!」


 二人がああだこうだと言ううちに、水帆は帰宅し、シャワーを浴びていた。

 これを好機と、二人は水帆のスマホのスケジュールを覗き見る。


「水帆ちゃんごめんなさい、ちょっとだけ覗かせてもらいます……! どれどれ……土曜日、“オンリーイベ”?って、なんですかぁ?」


「水帆の好きなアニメのオタク向けイベントやな。同人誌とか売ってるやつ。拓実も行く言うて、前に二人で盛り上がってたで」


「てことは、先約あり! ……史也くんの方はキャンセル?」


 期待を隠し切れない声色でレイコがつぶやく。


「……に、なるとええけど。というか、や。オンリーイベ行けば、史也とのデートはキャンセルなるし、拓実とは仲良くなるしで俺らにとっては一石二鳥や。オンリーイベ、逃す手はないでぇ……!」


 ダイキは悪人面で口角を上げる。


 シャワーを終えた水帆は、明らかに上機嫌な様子で鼻歌を歌いながら自室に戻ってきた。

 顔もにたにたとゆるみっぱなしだったが、スマホのスケジュールを確認した瞬間、にたにたが消え、あっと声が漏れた。

 ダイキとレイコはおっ!という表情で顔を見合わせる。

 水帆は数分間うーんうーんとうなり声をあげた後、おもむろにLIMEを開いた。


「「史也にキャンセル連絡…!」」


 祈るようにスマホの画面を見つめる二人。

 だが、水帆が開いたのは拓実のLIMEだった。


 【寺ちゃん、ごめん!土曜日のオンリーイベ、いけなくなっちゃって…お買い物リストつくるから、寺ちゃんにお使い頼んでもいいかな?(´;ω;`)】

 【(ごめんなさいのスタンプ)】


「アカ――――――――――ン!!!!!」


 期待と異なる展開に思わず某お祭り男になるダイキ。


「う~~ん、今の水帆ちゃんは史也くんファーストでしたかぁ……。水帆ちゃんは霊感ゼロだから、わたしたちの声は聞こえないし……どうしましょう……」


「もう、こうなったら拓実側に頼むしかないな」


 腕組みをしながらダイキが言う。


「寺ちゃん、わたしたち干渉できますかねぇ?」


「わからん、けど、試してみるしかないな……」


 二人は頷きあいながら、拓実の元へと急いだ。


 ◇


 拓実は、分子生物学の講義を終えた後、自宅に帰るとすぐに例の黒Tを脱ぎ、何やら思案顔で数秒それを見つめてから、洗濯かごにそっと入れた。

 細身ながらも引き締まった筋肉を纏った上半身は、幼少期より細々と続けている武術の賜物であろうか。

 しかし、その賜物は、すぐにアニメの女の子たちがプリントされたTシャツによって再び覆われた。

 そして、彼の涼やかな顔を隠すかのごとく無造作に降ろされていた前髪が、ヘアバンドでまとめ上げられる。

 ラブライク!のライブTにヘアバンド。これが彼のいつものおうちスタイルである。


 そのままベッドに横たわりまどろんでいた拓実は、ピロリンというLINEの音で目を覚ます。

 スマホに目をやると、【佐々木水帆 2件のメッセージ】と表示されている。

 拓実はがばっと起き上がり、そわそわとメッセージを確認する。


「なんだろ、今日のハント×ハントの話の続きかな?それとも土曜の待ち合わせかな……?」


【寺ちゃん、ごめん!土曜日のオンリーイベ、いけなくなっちゃって…お買い物リストつくるから、寺ちゃんにお使い頼んでもいいかな?(´;ω;`)】

【ごめんなさいのスタンプ】


「…………はあ……」


 深いため息とともに、焼きたてのシフォンケーキが徐々にしおれていくように、そわそわと膨らんだ気持ちが少しずつしぼんでいく。


「まあ、そうだよね。佐々木さんは俺のこと、ただのオタク仲間としか思ってないだろうし……」

 

 しぼんだ気持ちをなんとか立て直そうとするがごとく、拓実は脳内で今日の水帆とのやり取りを巻き戻し再生する。

 水帆のはじけるような笑顔を思い出し、口元がゆるんだ……のも束の間、やたらと髪の束感の強いあの男がカットインしてきて、巻き戻し再生は強制終了となった。

 今度は、膨らませている最中の風船から手を離したような勢いで、急速に気持ちがしぼんでしまった。


「井上史也……俺、好きじゃないな。でも、佐々木さんはああいうのがいいんだろうか」


 拓実は俯きながら独り言をいう。そう、それは独り言のはずだったのだが――


「わかるで、その気持ち」


 すっかり声をかけるタイミングを見失い、拓実の上空で様子をうかがっていたダイキが、ついにこらえきれなくなって声をかけた。


「わぁあ!? 誰!?!?」


 独り言に急に関西弁で返事をされたのだから、当然の反応である。

 拓実はきょろきょろと左右を見回すが……誰もいない。

 いるはずがないのだ。ここは拓実の一人部屋なのだから。


「おぉ、さすがは俺が見込んだ男、霊感もいける口やな。横やない。上や上」


 関西弁の男の声のままに上を見上げた拓実の瞳には、ふわふわと浮かぶ半透明の男女の姿が映っていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
話のテンポが心地よいですね。 「焼きたてのシフォンケーキが徐々にしおれていくように、そわそわと膨らんだ気持ちが少しずつしぼんでいく」みたいな、突飛すぎず、わかりやすい比喩がお上手だと思いました。 …
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