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第15話 殻、破ったな

「……あれ!? ……ごめん、俺、突然こんなこと言うつもりじゃなかったのに……!」


 拓実が突然の告白に引き続いて「ごめん」などというものだから、水帆は当惑しながらも、――ああ、なんだ、やっぱり今のは聞き間違い? それとも何かの勘違い? きっとそうに違いない、と、どこか納得したような気持ちだった。

 しかし、そんな水帆の目をしっかりと見つめて拓実は続ける。


「……ごめん、こんな会ってすぐ言うようなことじゃなかったよね……。もっと雰囲気とか、流れとか、考えないとって思ってたのに。気づいたら、思ってることそのまま口から出ちゃってた」


「――『思ってることそのまま口から出ちゃってた』??? つまり、思ってることがそのまま口から出ちゃってたってこと??」


 水帆は混乱のあまり、素っ頓狂な返答をしてしまう。


「え……うん。じゃあ、もう一回ちゃんと言った方がいいのかな。……俺、佐々木さんのことが好きです。すごく」


 そこにいつもの内気な拓実の姿はなかった。

 一度口に出してしまったことで箍が外れたのだろうか。

 今度は聞き間違いの余地もなくはっきりと伝えられた言葉に、水帆の脳内背景は宇宙になっていた。


 ――寺ちゃんが、私を…? というか、いつもの寺ちゃんとなんか全然違うんだけど……!?


「先にこんなこと言っちゃってあれだけど、……今日、この後よかったら、デートしてくれませんか?」


 水帆が言葉を出せずにいると、拓実がそう続けた。


「あ……うん……」


 まだ脳内に広がる宇宙を彷徨っていた水帆は、一言そうひねり出すのがやっとだった。


 ◇


 ひとまずショッピングモール内のカフェに腰を落ち着けた二人の間には、最初こそ気まずい沈黙が流れていた。

 が、その沈黙はすぐにホットコーヒーに溶けていった。


「……佐々木さんはさ、オタク人生の原点ってどこにあるの?」


「へ?? 私は……やっぱり、コードアビスかなあ。あのラストの衝撃は忘れられないなあ……!」


「はぁあ~、めっちゃめちゃわかる! あれは原点にして頂点だよね……! 個人的には続編よりやっぱり無印なんだよなぁ」


「だよねだよね、私も無印過激派なの! ちなみに、寺ちゃん:オリジンは?」


「俺? 俺はねぇ……」


 気づけば二人は、先ほどの告白を頭の隅に追いやり、オタク談義に興じていた。

 興が乗った二人は、そのままゲームセンターへ偵察に繰り出した。


「うわ、このフィギュア造形えぐい……! ちょっとチャレンジしてみない?」


「うん! どっちが取れるか競争しよ!」


 真剣な目をしてUFOキャッチャーのスティックを握りしめる水帆を、拓実は愛おしそうに見つめていた。

 視線に気づいた水帆が、“?”という表情を返すと、拓実は恥ずかしげもなく、


「いや、可愛いなと思って」


 と呟いた。

 もはやこの時の彼はゾーンに入っていたと言っても過言ではないだろう。


 ゲーム台の影から見守っていた守護霊たちも、これには、声にならない声を上げながら、お互いの肩をばんばんと叩き合っていた。


「ふぇっ!?!?」


 その不意打ちに水帆の口からは奇声が漏れた。

 彼女の指先はコントロールを失い、UFOキャッチャーのアームは徒にフィギュアの箱の外側を撫でていた。


「あはは、ごめんごめん! もう一回、やろっか」


 そう言って投げかけられる拓実の笑顔に、水帆は相変わらず心の平穏を失ったままだった。


 その後数回の挑戦を経て、お目当てのフィギュアは結局水帆がゲットし、二人はご満悦の表情でゲームセンターを後にした。


「これ、ほんっと完成度高いね! 家のフィギュア棚に飾っちゃおっと! ……寺ちゃんも何か戦利品、ゲットしに行こうよ。本屋さんでも行く?」


「本屋さん、いいね! 佐々木さんのおすすめの漫画、教えてくれる?」


 本屋に移動した二人は、再びオタク談義に花を咲かせる。

 まだ見つかってないけどこの漫画が来ると思ってる。最近アニメ化されたこの作品に改めてまたハマっている。あの声優の配役が絶妙。そしてあのアニメ会社の作画は素晴らしい。……


 二人のデートは、そんな取り留めのないものだった。

 プランや目的があるでもなく、ただ気の赴くままにショッピングモールをぶらぶらした。

 それだけのものだった。

 しかし、水帆は、小洒落たガレット屋さんや雰囲気の良いイタリアンでの食事よりも、流行りの恋愛映画よりも、こんな何てことない時間の方がずっと好きだと感じている自分がいることに、次第に気づき始めていた。


「今日はありがとう。すごく楽しかった! ……最初に言ったこと、俺、本気だから。返事、急がないけど、待ってるね」


「……うん、ありがとう。」


 いつになく男らしい拓実の眼差しに、水帆は少し頬が熱くなるのを感じた。


 そして彼女の背後、少し離れたところからは、守護霊たちが拳を握りしめながら、その様子を静かに見守っていた。


 ◇


 翌週、分子生物学の講義にて、水帆、拓実、史也は同じ教室内に一堂に会していた。

 すべての事情を知っている身からすれば、もはやちょっとした修羅場である。


 ほんのひと月前まで、水帆は講義内容を右から左へ受け流して、史也の方にせわしなく目線を送っていた。

 ――それが今や、逆転していた。

 今日の講義では、史也がちらちらと水帆の様子を窺っていた。

 一方の水帆は、よそ見をすることなく真面目に講義を受けているように見受けられた。

 拓実も、教室に入る時こそ水帆の方を気にする素振りを見せたが、講義中は教授の発言をメモをするのに忙しい様子であった。


 講義終了後、水帆はささっと荷物をまとめると、すぐに史也の座る最後列の席に行った。

 そして、何やら数言交わした後、二人は連れ立って教室を後にした。

 史也の表情は、水帆の影に隠れてはっきりしなかったが、少し笑っているようにも見えた。


 拓実は、その様子を中列付近から心配そうに目で追っていた。


「大丈夫や、拓実」


 拓実を驚かさないように極限まで声を小さくしたダイキが耳元で囁く。

 拓実は一瞬肩をぴくっとさせた後、声の方へ目だけを動かした。


「お前は、できることは全部やった。正直、俺らの想像以上や。殻、破ったな。拓実」


 ダイキは彼の肩を力強く叩いた。


「ダイキくんの言うとおりです。……あとは、水帆ちゃんを信じて待ちましょう」


 レイコももう片方の肩にそっと手を置く。


 拓実は、二人の顔をしっかり視界に入れた後、正面に向き直り、黙ってゆっくり頷いた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


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はい。勝負ありましたね。やったぞ、拓実くん!
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